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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
75/103

第55話

引き返せる夜と、引き返せない音


 夜は、静かだった。


 焚き火は低く、火の粉もほとんど上がらない。

 遺跡から少し距離を取った場所。

 地形は開けているが、見通しが良すぎて逆に落ち着かない。


 誰も、すぐには口を開かなかった。


 昼の出来事が、全員の中で整理しきれていない。

 盗賊。

 遺跡を“管理”している冒険者。

 そして――エッグの一言。


「……もう普通の人間じゃない」


 その言葉だけが、焚き火の向こうに残っている。


 最初に口を開いたのは、カイだった。


「なあ」

 軽い声だが、いつもよりトーンが低い。

「一応確認なんだけどさ」


 視線が、自然とエッグに集まる。


「それ、確定情報?」

「それとも“そう思ってる”だけ?」


 エッグは、すぐに答えなかった。

 一度、深く息を吸ってから言う。


「……見た」

「完全じゃないけど」


「何を?」

 俺が聞く。


「……変わるところ」

 エッグ。

「人が、人じゃなくなる瞬間」


 焚き火が、ぱちりと鳴った。


「魔物化?」

 レナ。


「違う」

 エッグは首を振る。

「もっと……中途半端だ」


「中途半端?」

 カイ。


「人の理屈を持ったまま」

 エッグは言う。

「人じゃない力を、無理やり使ってる」


 アリスが、初めて明確に反応した。


「……歪み」

 小さく、だがはっきりと。


「知ってるのか?」

 俺が聞く。


「推測」

 アリス。

「だが、遺跡由来なら筋は通る」


 フェリスは、ずっと黙っていた。

 焚き火を見つめ、全員の話を聞いている。


「……エッグ」

 フェリスが、ようやく口を開く。


「その相手」

「今も生きていると思うか」


「……思う」

 エッグは即答した。

「生きてる」

「死んでたら、俺はここにいない」


 その言葉には、迷いがなかった。


「で」

 カイが続ける。

「お前は、どうしたい?」


 エッグは、唇を噛んだ。


「……正直に言う」

 エッグ。

「連れ帰りたい」


 空気が、少しだけ重くなる。


「可能性は?」

 レナ。


「……低い」

 エッグは正直だった。

「たぶん、抵抗される」


「殺す覚悟は?」

 レナは、淡々と聞く。


 エッグは、答えられなかった。


 沈黙。


 それだけで、十分だった。


「……判断は、難しい」

 フェリスが言う。

「感情が絡みすぎている」


「分かってる!」

 エッグが声を上げた。

「分かってるけど――」


「だが」

 フェリスは遮る。

「一人で行かせる判断も、できない」


 エッグが、目を見開く。


「……え?」


「遺跡に人がいる」

 フェリス。

「しかも、管理している勢力がある」


「つまり?」

 カイ。


「衝突は避けられない」

 フェリス。

「単独行動は、死を意味する」


 エッグは、拳を握った。


「……俺は」

「ここで、置いていかれてもいい」


 その言葉に、空気が張り詰める。


「ふざけるな」

 俺は、思わず言った。

「それで納得すると思うか?」


「納得じゃない!」

 エッグ。

「覚悟だ!」


「覚悟を履き違えるな」

 フェリスが、低く言った。

「それは、逃避だ」


 エッグは、何も言い返せなかった。


 しばらくして。


「……行く」

 フェリスが言った。


 全員が顔を上げる。


「遺跡に入る」

「目的は二つ」


「一つ目」

 カイ。


「情報」

 フェリス。

「生きているかどうか」

「何が起きているか」


「二つ目は?」

 俺。


「生還」

 フェリス。

「全員だ」


 エッグの喉が、鳴った。


「……ありがとう」

 震えた声。


「礼は要らない」

 フェリス。

「これは、ノイズの判断だ」


 レナが短く言う。


「感情に流されたわけじゃない」

「危険を放置しないだけ」


「……それでも」

 エッグは、深く頭を下げた。


 アリスは、焚き火の外から言った。


「……決断は正しい」

「だが、猶予はない」


「なぜ?」

 俺。


「遺跡は」

 アリス。

「“準備が整った人間”を、待たない」


 嫌な言い方だった。

 だが、否定できない。



 その夜は、交代で見張りを立てた。


 何事も起きない――はずだった。


 だが、深夜。


 音がした。


 最初は、地鳴りのような低音。


 次に、石が擦れる音。


「……ッ」

 ユウが、瞬時に反応する。


 フェリスも、剣に手をかけた。


「何だ」

 カイ。


 答えは、すぐに来た。


 遺跡の方向から――

 光が、立ち上った。


 淡い。

 だが、確実に“異常”。


「……魔力反応」

 レナ。

「しかも、でかい」


「遺跡が動いた?」

 俺。


「違う」

 アリス。

「“起動”した」


 その瞬間。


 風が、吹き荒れた。


 焚き火が一気に煽られ、火の粉が舞う。


「――来るぞ!」

 フェリス。


 だが、敵は現れない。


 代わりに。


 圧が来た。


 見えない重圧。

 空気そのものが、押し潰してくる。


「……ッ」

 エッグが、膝をつく。


「エッグ!」

 俺が駆け寄る。


「……あいつだ」

 エッグが、歯を食いしばる。

「……あいつが、起きた」


「確信か?」

 フェリス。


「……間違いない」

 エッグ。

「この感じ……」


 言葉が途切れる。


 代わりに、遺跡の方角で――

 何かが、吠えた。


 人の声に、似ている。

 だが、人じゃない。


 全員が、理解した。


 もう、猶予はない。


 議論は終わった。

 判断は下された。


 これは――

 回避不能イベントだ。


「……行くぞ」

 フェリスが言った。


 ノイズは、全員立ち上がる。


 遺跡は、もう黙っていない。


 そして、

 エッグの過去も――

 目を覚ました。


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