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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
71/103

第51話

言わなきゃ、進めない


 焚き火の音が、一定の間隔で弾けている。


 北街道を少し進んだところで、野営を決めた。

 道は見通しがよく、周囲に人の気配もない。


「……今日は疲れたな」

 カイが地面に座り込み、背伸びをする。


「何もしてない割に?」

 レナ。


「精神的にだよ!」

「変なやつと変なやつが絡むと疲れるんだ!」


「自己紹介か?」

 俺が言うと、


「違う!!」

 カイが即座に否定した。


 ユウは薪を足し、火の具合を調整している。

 フェリスは少し離れた場所で地図を見ていた。


 アリスは――

 今日も輪の外側。

 だが、視線だけは焚き火の中心に向いている。


 そして。


「……今、いいか」


 エッグが、立ち上がった。


 さっきの出来事の後、

 誰も無理に話しかけなかった。

 だからこそ、この声はよく通った。


「話があるって、言ってたな」

 フェリスが顔を上げる。


「うん」

 エッグは頷いた。

「……ちゃんと話す」


 カイが口を開きかけて、やめた。

 珍しい。


 レナも、何も言わない。


 エッグは、一度だけ深呼吸をした。


「俺が、急いでる理由」


 視線が、集まる。


「俺は」

 エッグは言った。

「探してる」


「何を?」

 俺が聞く。


「……人」

 エッグは答えた。


 沈黙。


 それは、予想より普通で、

 だからこそ重い言葉だった。


「家族?」

 カイが聞く。


「違う」

 エッグは首を振る。

「仲間だ」


「冒険者?」

 フェリス。


「……元、な」


 元、という言葉に引っかかりがあった。


「俺たちは」

 エッグは続ける。

「低ランクの寄せ集めだった」

「無茶な依頼を受けて……」

「一人、行方不明になった」


 焚き火が、ぱちりと鳴った。


「死体は?」

 レナが淡々と聞く。


「出てない」

 エッグは即答した。

「だから、死んだとは思ってない」


「根拠は?」

 レナ。


「……ない」

 エッグは正直に言った。

「でも、あいつはしぶとい」


「主観だな」

 カイ。


「そうだよ!」

 エッグは声を上げた。

「だから、俺しか探してない!」


 少しだけ、声が震えた。


「俺が探さなきゃ」

「あいつ、帰れない」


 誰も笑わない。


 フェリスが静かに言った。


「それで?」

「なぜ、今まで言わなかった」


 エッグは、唇を噛んだ。


「……迷惑だと思った」

「低ランクの身内探しなんて」


「迷惑だな」

 レナが即答した。


「即答!?」


「だが」

 レナは続けた。

「嘘をつくよりは、まだまし」


 エッグは、少しだけ安心した顔をした。


「俺」

 エッグは続ける。

「そろそろ、別れるつもりだった」


 カイが目を見開く。


「え?」


「目的を言ったら」

 エッグは言う。

「それで、拒まれたら――」

「ちゃんと、離れるつもりだった」


 沈黙。


 ノイズは、こういう時にすぐ答えを出さない。


 フェリスは、エッグを見る。


「場所は」


「……この先」

 エッグは言った。

「遺跡がある」

「例の、危険度と報酬が釣り合わないやつ」


 カイが顔をしかめる。


「あー……」

「やっぱあれか」


 アリスが、初めて口を開いた。


「……単独で向かうつもりだった?」


「うん」

 エッグ。


「無謀」

 アリス。


「知ってる」

 エッグは苦笑する。

「でも、俺しかいない」


 俺は、フェリスを見る。


 フェリスは、少しだけ考えてから言った。


「……判断は、今はしない」


 エッグが息を呑む。


「拒否もしない」

 フェリスは続けた。

「だが、即答もしない」


「……はい」


「進路は変えない」

「だが、状況次第で寄り道はある」


 それだけだった。


 エッグは、深く頭を下げた。


「……ありがとう」


「礼を言うのは早い」

 レナ。


「でも」

 カイが言う。

「逃げなかったのは、評価する」


「……本当か?」

 エッグ。


「本当だ」

 俺は言った。

「さっきのは、結構怖かっただろ」


「死ぬかと思った」

 エッグは正直に言った。


「それで逃げなかった」

 俺は肩をすくめる。

「十分だ」


 エッグは、目を伏せた。


 焚き火の音が、また一定になる。


 アリスは、少し離れた場所からエッグを見ていた。

 評価するような目ではない。

 ただ――観測している。


「……一つだけ」

 エッグが顔を上げる。

「これだけは、言っとく」


 全員が見る。


「俺」

 エッグは言った。

「目的を果たしたら――」

「ちゃんと、ここを離れる」


 フェリスは答えなかった。


 代わりに、ユウがぽつりと言った。


「……それは、その時決める」


 エッグは、少しだけ笑った。


「……そうだな」


 焚き火の向こうで、夜が深くなる。


 まだ、何も決まっていない。

 でも、逃げ道だけは消えた。


 それで、十分だった。


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