閑話
騒音の中で、ひとり静かに
うるさい。
――いや、正確には、にぎやかだ。
「それ俺のパン!」
「違う、それは共有」
「共有の定義を確認しよう」
「今は俺が持ってるから俺のだ!」
焚き火の周りで、あいつらは今日も好き勝手言っている。
剣を振るえば命の取り合いになるくせに、
今はパン一個で本気の言い合いだ。
……変な連中だ。
でも。
(悪くない)
俺は少し離れたところに座って、焚き火を眺めていた。
物置泊にも慣れた。
屋根があるだけで、今日は当たりだ。
「なあエッグ!」
あの軽口の男――カイが、こっちを見て手を振る。
「それ、食う?」
「……もらう!」
「即答かよ!」
投げて寄こされたパンを受け取る。
温かい。
たぶん、わざわざ温め直したやつだ。
こういうところだ。
ノイズってやつは。
金を取らない。
礼も強要しない。
でも、放っておかない。
俺は、こういうのに慣れてない。
(……いいヤツらだよな)
だから、余計に思う。
(俺、汚いな)
目的がある。
焦ってる。
急いでる。
それなのに、
全部を言わずに、
成り行きで後ろを歩いてる。
シオンは、たぶん気づいてる。
フェリスも。
あの無口なやつも。
でも、聞かない。
聞かれないのが楽で、
でも――ずるい。
「……なあ」
俺は、思わず声を出しかけて、飲み込んだ。
まだだ。
今じゃない。
あの人――アリスは、焚き火の少し外で本を閉じた。
俺を見るでもなく、でも、たぶん全部分かってる。
ああいう人がいるのも、
この旅団がただの“いい人集団”じゃない証拠だ。
いいヤツらだけど、
甘くはない。
だから――
(変わらなきゃな)
いつまでも「助けられる側」じゃ、いられない。
目的を明かす覚悟。
それで、拒まれる覚悟。
それで、ここを離れる覚悟。
全部、まとめて必要だ。
ノイズは、きっと止めない。
引き留めもしない。
それが、分かるから。
「……よし」
俺は小さく息を吐いた。
次に聞かれたら、逃げない。
次に機会が来たら、ちゃんと言う。
その結果、
ここにいられなくなっても。
焚き火の向こうで、また声が上がる。
「だからそれは俺のパンだって!」
「共有!!」
「黙れ!」
……うるさい。
でも。
(嫌いじゃない)
この騒音の中にいられるのも、
たぶん、あと少しだ。
だから、今は――
この音を、覚えておこう。




