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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
68/103

第49話

余計なことは、街の中でも止まらない


 街に入った瞬間、空気が変わった。


 人の匂い。

 焼いた肉と、革と、埃。

 活気がある街だ。規模は大きくないが、流れはいい。


「はぁ……文明……」

 カイが感動したように息を吐く。


「まだ宿にも入ってない」

 レナ。


「それでも文明は文明だ!」


 フェリスは門を抜けてすぐ、立ち止まった。


「二時間」

「自由行動」

「集合は北門」


「了解!」

 カイが即答する。


「迷子になるな」

 レナ。


「ならない!」

「……たぶん」


「確信が弱い」

 レナ。


 ユウは一言。


「……人混み注意」


 アリスは何も言わず、通りの様子を眺めている。


 そして。


「よし!」

 エッグが拳を握った。

「じゃあ俺――」


「待て」

 フェリス。


「……はい」


「勝手に何かするな」

 フェリス。


「……努力はする」


「努力で済ませるな」

 レナ。


「厳しい!」


 フェリスはため息をついた。


「……シオン」

「見ていろ」


「嫌な予感しかしない」

 俺。



その一:市場での善意


 市場は賑やかだった。


 露店、食べ物、武器、防具。

 全部安物だが、見ていて楽しい。


「なあシオン!」

 エッグが声を張り上げる。

「この剣、安いぞ!」


「切れなさそうだな」

 俺。


「叩けばいける!」


「それを剣と言うな」


 その時。


「あっ……」


 エッグが、露店の前で立ち止まった。


 子どもが一人、店主に怒られている。


「金が足りねえって言ってるだろ!」

「盗む気か!」


「ち、違う……!」


 エッグが、迷いなく前に出た。


「その子、俺が払う!」


「……は?」

 店主。


「エッグ」

 俺。


「いやでも!」

「困ってるっぽいし!」


 店主はエッグを見る。


「金あるのか?」


「……たぶん!」


「たぶんで払うな」

 レナが後ろから刺す。


 エッグは財布を出し、中を見る。


「……足りない」


「やっぱり!」

 カイ。


 空気が微妙になる。


 その時。


「足りない分は、これで」

 アリスが淡々と硬貨を置いた。


 全員が一瞬、そちらを見る。


「……いいの?」

 俺。


「誤差」

 アリス。


「誤差で済ませる金額じゃねえ」

 カイ。


 店主は硬貨を確認し、頷いた。


「……いいだろ」

「持ってけ」


 子どもは、目を丸くしてから深く頭を下げた。


「ありがとう……!」


 去っていく背中。


 エッグは満足そうだ。


「よし!」


「よしじゃない」

 レナ。


「でも助かっただろ!」


「結果論」

 レナ。


 アリスは、特に何も言わずに離れた。


「……あれ?」

 エッグが首を傾げる。

「俺、怒られる流れじゃなかった?」


「今、評価が“保留”になった」

 俺。


「保留!?」

 エッグ。



その二:宿での余計な交渉


 宿は、普通だった。


 清潔。

 狭い。

 だが悪くない。


「二部屋」

 フェリスが言う。

「男女別」


「当然」

 レナ。


「当然だな」

 俺。


 その時。


「……なあ」

 エッグが小声で言う。

「俺は?」


 沈黙。


「……一部屋余るなら」

 フェリス。


「余らない」

 レナ。


「床」

 ユウ。


「床!?」

 エッグ。


「慣れてるだろ」

 カイ。


「慣れてるけどさ!」


 エッグは受付に向かった。


「すみません!」

「一番安い部屋で!」


「……満室です」

 受付。


「床も?」


「床もです」


 エッグが戻ってくる。


「……詰んだ」


 その時。


「物置なら空いてる」

 アリスが言った。


「なんで知ってる!?」

 エッグ。


「裏口を見た」

 アリス。


「見ただけで分かる!?」


「分かる」

 アリス。


 結果。


 エッグは物置泊になった。


「……まあ、屋根あるし」

 エッグは納得したように言った。


「強いな」

 俺。



その三:軽口と、いつものノイズ


 夜。


 簡単な食事。


「今日は平和だったな」

 カイが言う。


「平和の定義を確認したい」

 レナ。


「エッグ基準で平和」

 俺。


「俺のせい!?」

 エッグ。


「七割」

 カイ。


「多くない!?」


 フェリスは短く言う。


「問題は起きていない」

「許容範囲だ」


 エッグが目を輝かせた。


「じゃあ俺、役に立ってる?」


「……存在が」

 ユウ。


「存在が!?」


「ノイズ」

 ユウ。


「それ褒めてる!?」

 エッグ。


 アリスが小さく言った。


「……騒音源としては優秀」


「ひどくない!?」

 エッグ。


 でも、誰も否定しなかった。


 街の夜は静かだ。


 大事件は起きない。

 英雄譚も生まれない。


 ただ、余計なことが積み重なって、

 気づけば一日が終わる。


 ノイズは、そういう旅団だ。


 エッグは、今日もいた。


 理由はない。

 説明もない。


 ただ――そこにいる。


 それだけだ。


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