第48話
余計なことは、だいたい善意から始まる
街は、見えていた。
小さな城壁と、木造の門。
交易路の途中にある、よくある中継街だ。
「今日は宿がある」
カイが嬉しそうに言う。
「浮かれるな」
レナ。
「いや浮かれるだろ!」
「地面で寝ないんだぞ!」
フェリスは門の様子を見て、足を止めた。
「……少し騒がしいな」
確かに、門前に人が集まっている。
冒険者、商人、街の人間。
声が重なり、ざわついている。
「トラブルか?」
俺が聞く。
「小規模だ」
ユウ。
「小規模ってことは、めんどくさい」
カイ。
その時だった。
「あっ!!」
エッグが、突然声を上げた。
全員が反射的にエッグを見る。
「なに」
レナ。
「あ、いや……」
エッグは門の方を指さした。
「あの人……さっき道で会った人だ」
「道?」
俺が眉をひそめる。
「ほら、昨日ちょっと話した行商人!」
エッグは言う。
「俺にパンくれた人!」
「パンで記憶するな」
レナ。
「恩人だぞ!?」
エッグは、迷いなく人混みへ向かって歩き出した。
「おい」
フェリスが呼ぶ。
……止まらない。
「あ、ちょ、エッグ!」
俺が追いかける。
結果。
最悪のタイミングで、割り込んだ。
「その人、悪くないです!!」
場の空気が、一瞬で止まった。
門番が、ゆっくり振り返る。
「……何だ、お前は」
「俺、昨日この人に助けてもらって――」
「いや逆か? どっちでもいいんだけど!」
「よくない」
レナが後ろで呟く。
行商人は、困った顔をしている。
「い、いや……この人は……」
「積み荷の検査だ」
門番が冷たく言う。
「不審な品があると通報があった」
「不審!?」
エッグが声を張り上げる。
「この人がそんなことするわけ――」
「黙れ」
門番。
エッグが黙った。
……が、三秒しかもたなかった。
「でも!!」
「エッグ」
フェリスが低く言う。
今度は、黙った。
空気が重い。
門番が視線をこちらに向ける。
「……お前たちは?」
「通行人だ」
フェリス。
「関係ないなら下がれ」
正論だ。
正論だが――
俺は、行商人を見る。
明らかに怯えている。
だが、後ろめたさはない。
(……これ)
面倒なやつだ。
その時。
「……その荷箱」
アリスが、ぽつりと言った。
全員の視線が集まる。
「底板が新しい」
「他と比べて、作りが違う」
門番が眉をひそめる。
「だから何だ」
「密輸なら、隠す」
アリスは淡々と言う。
「見せびらかす理由がない」
「……」
「むしろ」
アリスは続けた。
「検査が入る前提で、急ごしらえした補強に見える」
レナが小さく頷く。
「輸送中の破損対策」
「最近、魔獣が増えているから」
門番が、行商人を見る。
「……そうなのか?」
「は、はい!」
行商人が慌てて頷く。
「最近、道が荒れて……!」
門番は一瞬考え、ため息をついた。
「……分かった」
「今回は通す」
「おおっ!」
エッグが声を上げる。
「だが次は、事前申告しろ」
「はい!!」
行商人は深く頭を下げた。
門番は去っていく。
ざわめきが、少しずつ戻る。
「……助かりました」
行商人が俺たちを見る。
「本当に……」
「いや」
俺は言った。
「余計なことしたのは、こいつだから」
「俺!?」
エッグ。
「九割お前」
カイ。
「残り一割は?」
エッグ。
「空気」
レナ。
「ひどい!!」
行商人は、苦笑いしながら頭を下げた。
「それでも……助かりました」
「何かお礼を――」
「いい」
フェリスが短く言う。
エッグが即座に口を挟む。
「いや!」
「この人、パンくれた人だぞ!?」
「またパン」
レナ。
行商人が、しばらく考えてから言った。
「……では」
「この街で、少し安く仕入れられる店を教えます」
カイが即反応した。
「神か?」
「現実的な神」
レナ。
こうして、街に入る前から一悶着。
原因は――
「俺、悪いことした?」
エッグが聞く。
「してない」
俺は答える。
「余計なことをしただけだ」
「余計って……」
「ノイズ向きだ」
カイが笑った。
「え、褒められてる?」
エッグ。
「半分な」
俺。
アリスは、少し離れたところでそれを見ていた。
「……面倒な善意」
小さく呟く。
でも、否定はしない。
こうして、街に入る前から疲れた。
でも――
悪くない。
ノイズは、今日もノイズだった。




