第47話
役に立つとは、こういうことだ
エッグが後ろを歩いている。
特に会話があるわけでもなく、
隊列に組み込まれているわけでもなく、
ただ――いる。
「……なあ」
カイが俺に小声で言う。
「増えたよな」
「気のせいだ」
俺は即答する。
「いや、昨日まで五人だっただろ?」
「今日は天気がいい」
俺は関係ないことを言った。
「誤魔化し方が雑!!」
レナが淡々と前を見る。
「静かに」
「足音が増えてる」
「俺のせい!?」
エッグが即座に反応した。
「自覚があるなら直せ」
レナ。
「努力はする!」
フェリスは止まらず、一定の速度で歩いている。
後ろに誰が何人いようが、進路は変えない。
ユウがぽつり。
「……遅れてはいない」
「だろ?」
エッグはなぜか得意げだ。
「評価はしていない」
ユウ。
「えぇ……」
そんなやり取りをしながら、街道を進む。
目的地は次の中継街。
情報も補給も、そこで一旦整える予定だ。
……何も起きない。
珍しいくらい、平和だ。
そして、こういう日はだいたい――
どうでもいいトラブルが起きる。
「……あれ?」
カイが足を止めた。
「どうした」
フェリス。
「靴、なんか変」
「変?」
俺も止まる。
カイが足を上げる。
靴底が、わずかに剥がれかけていた。
「あー……」
カイが天を仰ぐ。
「昨日の魔獣の酸、地味に効いてたか」
「今さら?」
レナ。
「今さらだよ!!」
フェリスが地図を畳む。
「進行に支障は」
「全力疾走したら死ぬ」
カイ。
「つまり?」
「今は生きてる」
「……修理する」
フェリスが即断した。
「ここで止まる」
「助かる!」
カイが即座に地面に座る。
だが。
「針はあるが、革が足りない」
レナが言う。
「俺の靴、もう限界なの?」
カイ。
「限界」
レナ。
「そんな……」
その時だった。
「……少し、いいかしら」
アリスが、初めて“自分から”輪に近づいた。
全員が一瞬、彼女を見る。
「革の端切れなら、ある」
アリスは淡々と言う。
「記録用の古い鞄を解体したものだけど」
「なんでそんなもん持ってんだ」
カイ。
「理由はない」
アリス。
「あるだろ絶対!」
アリスは無言で革を取り出した。
質は悪くない。むしろ上等だ。
「……使える」
レナが短く言う。
「おお……!」
カイが感動した声を出す。
「命拾いした……!」
「命ではない」
レナ。
「靴拾いだ!!」
フェリスが頷く。
「助かる」
アリスは、それ以上何も言わなかった。
褒められるのも、礼を言われるのも待たない。
ただ、少し距離を取って立っている。
俺は、その様子を見て思った。
(……ああ)
この人、
必要なことだけやるタイプだ。
しかも、
“自分がやった感”を一切出さない。
カイの靴は、十分ほどで修理が終わった。
「よし!」
カイが立ち上がり、地面を踏む。
「完璧!」
「走るな」
フェリス。
「分かってる!」
エッグが感心したように言った。
「すげえな……」
「俺なら革なんて思いつかない」
「思いついても普通は捨てる」
レナ。
「え、じゃあなんで取ってたんだ?」
エッグがアリスを見る。
アリスは少し考えてから答えた。
「……捨てる理由がなかった」
「理由がなかったら持つの!?」
エッグ。
「ええ」
アリス。
「生きづらくない!?」
エッグ。
「普通よ」
アリス。
俺は思わず笑った。
「なに?」
アリスが俺を見る。
「いや」
俺は首を振る。
「ノイズっぽいなって」
「……それは、褒め言葉?」
「たぶん」
俺は答えた。
アリスは、何も言わなかった。
でも、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。
それだけで、十分だった。
⸻
歩き出す。
隊列は、昨日と同じ。
……いや、一人多い。
でも、違和感はもう少ない。
「なあ」
カイがエッグに声をかける。
「お前、歩くの早いな」
「慣れてるからな!」
エッグ。
「ランクEなのに?」
カイ。
「ランクEでも歩くんだよ!」
エッグ。
「昨日も言ってたな、それ」
俺。
「大事なことだから!」
フェリスは前を向いたまま言った。
「……進むぞ」
「了解」
全員。
目的地は変わらない。
状況も、特に変わらない。
ただ一つ。
どうでもいいことで、
ちゃんと助け合っている。
それだけで、
旅団は少しずつ“旅団”になっていく。
たぶん、そういうものだ。




