幕間
観測以前
夜は静かだ。
焚き火の音が、一定のリズムで続いている。
人の声が混じるが、どれも緊張がない。
――それが、異様だった。
私は少し離れた丘の上から、その一団を見ている。
距離はある。
だが、十分だ。
五人。
数は少ない。
装備も、統一されていない。
旅慣れてはいるが、どこか緩い。
「……あれが」
噂に聞く集団。
忌み子ばかりで構成された、異端の旅人たち。
問題を起こし、だが必ず生き残る。
記録では、危険度は高。
接触は非推奨。
それでも私は、足を止めている。
理由は単純だ。
彼らは、笑っている。
軽口を叩き、
何か失敗したらしい料理を前に、
くだらない言い争いをしている。
――生き延びるための集団にしては、
あまりにも無防備だ。
「……理解できない」
私は、忌み子を数多く見てきた。
恐れられ、
疎まれ、
排除される存在。
そうなる理由も、知っている。
危険だからだ。
だが、あの五人から感じるのは、
危険よりも――違和感。
特に、一人。
焚き火の近くで、無造作に座っている青年。
剣を手放しているのに、
周囲の空気が、わずかに整っている。
意識していない。
自覚もない。
それが、なおさら異常だ。
「……分類できない」
小さく呟いて、記録用の紙を握りしめる。
だが、書かない。
今はまだ、観測前だ。
風向きが変わる。
焚き火の匂いが、こちらまで流れてきた。
その瞬間、
五人のうちの一人――
隊長格らしい女が、ふと顔を上げた。
こちらを見る。
視線が、合った。
一瞬。
次の瞬間、彼女は何事もなかったように視線を戻す。
……気づかれた。
やはり、ただの旅人ではない。
私は、丘を下りる。
隠れるつもりはない。
だが、名乗るつもりもない。
偶然を装うには、
少し距離を詰める必要がある。
「……もう少し、近くで見せてもらうわ」
答えを得るためではない。
確証を得るためでもない。
ただ――
自分が、どこで間違えたのか。
それを知るために。
焚き火の光が、少しだけ大きくなった。




