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異端(仮)  作者: vastum
分岐編
59/103

閑話④

レナの料理回(更新される地獄)


 レナが「今日は私が作る」と言った瞬間、

 ノイズ全員が――静かに覚悟を決めた。


 誰も止めない。

 止められない。

 なぜなら、前回もそうだったから。


「……なあ」

 カイが、ものすごく慎重に口を開く。

「一応、聞いていいか?」


「何」

 レナは淡々。


「今回の料理さ」

 カイは言葉を選ぶ。

「前回より――」


「改善している」

 レナは即答。

「工程を見直した」


 その言葉に、

 全員の脳裏に前回の光景がよみがえる。


 ・食べられはする

 ・だが味覚が混乱する

・精神にダメージが残る


 あれは確かに地獄だった。

 だが――まだ人間の食事だった。


「……だよな」

 カイが自分に言い聞かせるように頷く。

「前回よりマシだよな?」


「もちろん」

 レナは迷いなく言った。


 俺はその時、

 なぜか背筋が寒くなった。


(“もちろん”って言い切る時のレナ、危ない)


 ユウがぼそり。


「“改善”の方向性が気になる」


「味」

 レナ。

「ではなく、効率」


「待て」

 フェリスが静かに止める。

「料理における効率とは?」


「短時間で最大量」

 レナは真顔。

「栄養密度を重視」


「嫌な予感しかしない」

 カイが呻く。



 鍋が、火にかけられる。


 最初は普通だった。


 水。

 肉。

 根菜。


「……うん」

 カイが小さく頷く。

「前回より順調だ」


 俺も同意する。


「色も問題ない」

 フェリス。


 その時点で、

 全員が油断した。


 問題は、その次。


 レナが、乾燥野草の袋を全部持ち上げた。


「……待て」

 俺が言う。


「栄養補助」

 レナ。


「全部入れる必要ある?」

 カイが聞く。


「最大量」

 レナ。


「最大量って言葉やめろ!」


 袋の中身が、

 一気に鍋へ投入される。


 色が変わる。

 匂いが、変わる。


「……前回より、匂い強くない?」

 カイが恐る恐る言う。


「香りが立っている」

 レナ。


「立ちすぎだ!!」


 さらに――


 レナは、粉末状の栄養触媒を取り出した。


「それ、何」

 俺が聞く。


「保存用」

 レナ。

「前回は未使用だった」


「未使用のままでよかったやつ!!」


 投入。


 鍋の中身が、

 とろみを超えて、粘度を持った。


「……なあ」

 カイの声が震える。

「これ、煮込み?」


「煮込み」

 レナ。


「煮込みって粘るっけ!?」


 ユウが鍋を覗き、静かに言った。


「……前回より、物理的に重い」


「食事が重くなるな!!」



 完成。


 見た目:灰色寄り

 匂い:主張が激しい

 状態:スプーンが自立する


 沈黙。


 フェリスが言った。


「……前回より、上か?」


「……うん」

 カイが頷く。

「たぶん……“別方向に”」


 レナが、静かに言う。


「評価は?」


 俺は、嫌な予感を抱えながら匙を持つ。


「……食べるぞ」


 全員、同時に口に運んだ。


 ――


「……」


 一拍。


「……え?」

 カイ。


 次の瞬間。


「前回より酷いじゃねーか!!」


 叫びが夜に響いた。


「なにこれ!?」

「味がしないのに、全部主張してくる!!」


「口の中が忙しい!!」

 俺も叫ぶ。


 フェリスが水を飲みながら言う。


「……前回は“耐えれば終わった”」

「今回は“続く”」


「それ最悪の評価だろ!!」


 ユウが淡々と分析する。


「味覚への圧力が増加」

「持続時間も延長」


「兵器評価みたいに言うな!」


 レナは、黙って一口食べた。


 ――無表情。


 数秒後。


「……」

「想定外」


「そこ!?」

 カイが叫ぶ。


「前回より、確実に改良したはず」

 レナは真剣だった。

「栄養密度、量、保存性」


「味を見ろ味を!!」


 俺は呻きながら言った。


「……レナ」

「前回よりマシなんだろーなって、期待した俺が悪かった」


「期待値が高すぎた?」

 レナ。


「いや、下回るな!!」


 フェリスが結論を出す。


「……これは」

「前回を基準にしてはいけない」


「基準が崩壊してる!」


 カイが天を仰ぐ。


「なんでだよ……」

「前回より酷くなるって、どういう成長だよ……」


 レナは、少しだけ考えてから言った。


「……次は」

「味を重視する」


 その一言に、

 全員が深く頷いた。


「頼む」

 俺が言う。


「本当に」

 カイが続ける。


「次は」

 フェリス。


「“食事”で」

 ユウ。


 レナは、小さく頷いた。


「……了解」


 その夜、

 俺たちは干し肉をかじった。


 前回より、さらにありがたく感じた。


 ノイズは学ぶ。

 だが時々、逆方向にも進む。


 それもまた、成長――

 なのかもしれない。


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