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異端(仮)  作者: vastum
分岐編
50/103

第36話

宴ではない歓迎


 翌朝。


 宿の主人の態度が、ほんの少しだけ変わった。


「……通行証は?」

 事務的だが、追い払う声ではない。


「持っている」

 フェリスが答える。


「ならいい」

 一拍置いて。

「揉め事は起こすな」


 忠告。

 それは、昨日までなかったものだ。


「これ、昇格じゃない?」

 カイが小声で言う。


「最低評価から一段上」

 ユウが淡々と返す。


「言い方が辛辣!」


 役所でも同じだった。


異端旅団ノイズ

 役人が書類を確認する。

「通行は認められている」

「追加申請は不要」


「おお」

 カイが感心する。

「急に楽」


「効率だ」

 役人は即答。

「信用ではない」


「まだそこか」


 ――歓迎ではない。

 だが、排除対象でもない。


 それがこの国の最大級の評価だった。



 昼前、ミラが現れた。


「頼みがある」

 前置きなく言う。


「依頼?」

 俺が聞く。


「お願い」

 ミラは言い直した。

「国は介入しない」

「だが、放置もできない」


 フェリスが頷く。


「内容を」



 工房街。


 契約トラブル。

 双方とも引く気はない。

 魔力の圧が、今にも破裂しそうだ。


「……どうする?」

 俺がフェリスに小声で聞く。


「線を守る」

「壊さず終わらせる」


「簡単に言うなあ」

 カイが笑う。


 フェリスが前に出た。


「提案する」

「ここで争えば、双方が損だ」


「外様が口を出すな」

 工房主が吐き捨てる。


「出さない」

 フェリスは即答。

「提案するだけだ」


 用心棒が一歩前に出る。


 ――その瞬間、俺は一瞬だけ迷った。


(……ここで踏み込むか?)


 規格外の力で押さえ込めば、早い。

 だが、それをやった瞬間、

 俺たちは“害”になる。


(外したら終わりだ)


 喉が鳴る。


 俺は一歩引き、目だけで状況を見る。


「契約書を出せ」

 ユウの声。


 書類が出る。

 レナが目を走らせ、言う。


「破損の定義が曖昧」


「故意か事故かだな」

 カイが笑う。


「……見せて」

 俺は言った。

「刃を」


 刃が運ばれる。


(頼むぞ、前任者)


 経験が、体に染み出す。

 角度。歪み。力の流れ。


「……事故だ」

 俺は言う。

「ただし、設計が魔力に負けてる」


 一瞬の沈黙。


 工房主が息を呑む。


「線を引く」

 フェリスが言う。

「工房は設計を改める」

「契約者は次もここを使う」

「割引で帳尻を合わせる」


 誰もが、即答できなかった。


 ――だから、成立する。


「……飲む」

 用心棒が言った。


「……飲む」

 工房主も続いた。


 争いは終わった。


 壊れたものはない。

 だが、関係は変わった。


 ミラが近づいてくる。


「壊さなかったな」


「線を守った」

 フェリスが答える。


 ミラは一拍、黙った。


「……害ではない」

 そして続ける。

「無視はできない」


 それが、この国の歓迎だ。



 帰り道。


「なあ」

 カイが言う。

「俺ら、地味に評価されてない?」


「派手にされると困る」

 レナが返す。


「それもそうだな」


 リィナが小さく息を吐いた。


「……よかった」


「何が?」

 俺が聞く。


「ここで、壊れなくて」


 その言葉が、重かった。


 名はまだ伏せられている。

 国は、分かっているかもしれない。

 だが確定はしていない。


 その曖昧さが、今は一番安全だった。


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