表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端(仮)  作者: vastum
分岐編
49/103

第35話

露見するのは、名ではなく「扱い」


 ヴァル=カディアに入って数日が経った。


 歓迎されない空気には慣れたが、

 “測られている”感覚には、どうしても慣れない。


「……なあ」

 パンをちぎりながら、俺は言った。

「これ、ずっと続くのか?」


「続く」

 カイが即答する。

「俺らが“害じゃない”って確定するまで」


「確定したら?」


「次は“使えるかどうか”だ」

 カイは笑う。

「国ってそういうもん」


「夢がない」

 レナが冷たく言う。


「現実的って言ってくれ」


 リィナは会話に入らず、湯気の立つ杯を見つめていた。

 この国に入ってから、彼女は少し静かだ。


(戻ってきた場所、なんだよな……)


 それを口にするには、まだ早い。



 市は今日も淡々としていた。


 人も魔人も、必要な距離を守って動いている。

 ぶつからない。干渉しない。


 その中で、リィナが露店の一角で足を止めた。


 転移触媒。

 ダンジョン用の、やや高位のもの。


「……」

 リィナの指が、無意識に動きかけて止まる。


「欲しい?」

 俺が聞くと、


「いらない!」

 即答だった。

「ぜったい!」


「強調しすぎだろ」

 カイがにやにやする。


「だって、ろくなことにならないもん!」


「自覚はあるんだな」

 レナが淡々と言う。


 その時だった。


 露店の奥から、ひとりの女が現れた。

 地味な服装。だが歩き方が違う。


(……あ)


 フェリスに近い匂い。

 “立場を持たされる側”ではなく、

 “立場を動かす側”。


 女の視線が、リィナに向く。


 ほんの一瞬。

 だが確かに、測る目だった。


 驚きではない。

 確認。

 そして――判断保留。


 女は何も言わず、視線を外して買い物を済ませ、去った。


「……今の」

 俺が小声で言う。


「気づいた」

 レナが頷く。

「扱いが変わった」


「扱い?」

 リィナが首を傾げる。


「“重要かもしれない物”を見る目」

 ユウが短く言う。


「壊したら面倒、って顔だな」

 カイが笑う。


「そういう言い方やめて」

 リィナがむっとする。


 フェリスが静かに言った。


「線を守れ」

「余計な動きをするな」


「……うん」


 その返事が、やけに素直だった。



 夜。


 路地に入ったところで、ユウが足を止めた。


「来る」


 逃げない足音。

 隠れない気配。


 呼ばれている。


「行く?」

 カイが楽しそうに言う。


「行かない選択肢はない」

 フェリスが答えた。


 灯りの下に、昼の女が立っていた。


異端旅団ノイズ

 低い声。

「名は、ミラ」


「用件は?」

 フェリスが問う。


 ミラの視線が、リィナに向く。

 だが、名も立場も口にしない。


「……その子」

 一拍置いて。

「軽い立場ではない」

「そう感じた」


 “確信”ではない。

 あくまで、推測と確認。


 リィナが一歩前に出る。


「無事だよ」

 明るく言う。

「元気」


 ミラは、その言葉を否定しなかった。


「ならいい」

「今は、それだけで」


 フェリスが言う。


「我々は保護者ではない」

「偶然、同行しているだけだ」


「偶然でも」

 ミラは淡々と返す。

「壊せば責任は生まれる」


「壊さない」

 フェリスが即答。


 ミラは頷いた。


「……公表はしない」

「確定していないことを、国は騒がせない」


 その言葉で、立場が分かる。


 分かってはいない。だが、無視もできない。


 それが今の評価だ。


「帰る場所は、ある」

 ミラはリィナに言った。

「だが、いつ使うかは――」


「わたしが決める」

 リィナが答える。


 ミラはそれ以上言わず、影に溶けた。


 名はまだ伏せられている。


 だが、

 “扱い”は確実に変わり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ