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異端(仮)  作者: vastum
分岐編
48/103

第34話

試されるのは、力じゃない


 翌日、俺たちは“招かれた”。


 歓迎じゃない。

 呼び出しだ。


 役所の窓口で、事務的な声が言う。


「異邦人。代表者が来い」

「“確認”を行う」


「確認って何だよ」

 カイがぼやく。


「税金?」

 レナが言う。


「首実検」

 ユウが淡々と言う。


「言い方!」


 フェリスが短く言った。


「行く」


 案内されたのは、広い石造りの中庭だった。闘技場ほど派手じゃない。だが床には薄い紋様が刻まれている。魔力が流れているのが見える。


 周囲には数人の立会人。魔人。竜人も混じる。

 そして――昨日の黒衣の観測者。


 黒衣は、顔を見せない。

 代わりに、声だけが低く響いた。


異端旅団ノイズ

「貴様らは、害か」


 直球だった。


 フェリスが前に出る。


「害ではない」


「証明しろ」


 黒衣の横にいた、角のある男が一歩出た。眼光が鋭い。体格が良い。だが筋肉の威圧じゃない。制御の匂いがする。


「“力”を見たいわけじゃない」

 男は言った。

「制御だ」

「抑えられるかを見たい」


「抑える?」

 カイが笑う。

「俺にいちばん苦手なやつ言うなよ」


「得意だろ」

 レナが即ツッコミ。

「口だけは」


 男は淡々と続ける。


「この紋様の内側に入れ」

「禁止事項が三つ」


 指を立てる。


「一、殺すな」

「二、壊すな」

「三、逃げるな」


「注文多いな」

 カイがぼやく。


「できるか?」

 男が聞く。


 フェリスが答える。


「できる」


 俺たちは紋様の内側へ。

 相手は一人。だが立会人の視線がある。ここは試験場だ。


 男が軽く手を上げた。


「開始」


 ――次の瞬間、俺は理解した。


 これは戦闘じゃない。

 距離と判断の試験だ。


 男は攻めない。詰める。角度を変える。こちらの呼吸の乱れを待つ。

 “崩れた瞬間”を拾う動き。


(ヴァンに似てる……いや、違う。もっと…生活に根ざした技術だ)


 俺が踏み込むと、男は半歩引く。引きながら、俺の剣線に“触れない”。触れないまま、俺の体勢を崩す位置へ。


 カイが前に出る。


「おらっ」


 派手に行く。だが相手は動じない。カイの“勢い”を受けて、勢いのまま紋様の端へ誘導する。


「うおっ!?」

 カイが止まる。


「逃げるな」

 立会人の声。


「逃げてねえ! 歩いてるだけだ!」

 カイが叫ぶ。


 レナが短い詠唱で足場を固める。

 ユウは視線で線を読んでいる。

 フェリスは全員の位置を一瞬で整理し、指示を飛ばす。


「カイ、前に出るな。引き受けろ」

「シオン、二拍待て。突っ込むな」

「レナ、紋様を壊すな。魔力は絞れ」

「ユウ、相手の“癖”を言語化しろ」


 その声だけで、俺の呼吸が整う。


「……癖」

 ユウが短く言う。

「右足で“終わる”」

「右足の位置が、結論」


 相手の男は、ほんの少しだけ眉を動かした。


(バレた)


 俺は剣を構え直す。

 規格外の力で押せば勝てる。

 でも、それをやった瞬間――この国では「害」になる。


 俺は、前任者の経験が染み込んだ“洗練”だけを使う。

 余分な力を切り捨て、体重移動だけで角度を作る。


 カイが笑う。


「お前、急に真面目になるなよ」

「かっこつけてるだろ」


「黙れ!」

 俺は返す。

「今、真面目にやらないと帰れない!」


「帰れる帰れる」

 カイが軽口を叩きながら、相手の視線を引き受けるように立つ。

「俺が変な顔して時間稼ぐ」


「変な顔の自覚あるのやめて」


 相手の男が、初めて攻めの一手を出した。


 カイの肩口を狙う――が、寸前で外す。

 外したのではない。誘導だ。


 カイがつられて動いた瞬間、俺に“隙”が生まれる。

 そこを男は拾う。


(うわ、これ…連携を崩すタイプ)


 フェリスが即座に声を落とす。


「分断されるな」


 レナが短く呪文を切る。視界が少しだけ霞む。幻術に近い“誤差”を作る術だ。紋様は壊さない。最低限。


 その一瞬の誤差で、男の“拾い”が空振る。


 俺はその瞬間だけ踏み込む。


 剣は当てない。

 当てずに、男の“終わりの右足”の位置を塞ぐ。


 男の体勢がわずかに詰まった。


 ――そこへ、フェリスの声。


「終わりだ」


 その言葉通り、立会人が手を上げた。


「停止」


 男は一歩下がり、静かに頷いた。


「……害ではない」

 黒衣の声が落ちる。

「ただし、未評価」


 完全な合格じゃない。

 でも“追い出されない”評価。


 カイが肩を回す。


「疲れた」

「殺すな壊すな逃げるなって、俺の人生否定されてる」


「否定されてるのは口だけ」

 レナが冷たく言う。


 俺は、黒衣の視線がリィナに向いたのを見た。

 リィナは、笑っていない。静かな顔だ。


 黒衣が、ほんの一拍だけ沈黙する。


「……この国の内側で動くなら」

「“線”を学べ」


 それが、ヴァル=カディアの言葉だった。


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