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異端(仮)  作者: vastum
分岐編
46/103

第32話

不干渉の洗礼


 ヴァル=カディア魔人連邦の街は、静かだった。


 騒がしくない。

 だが、活気がないわけでもない。


 人族圏の街にある「ざわめき」とは違う。

 必要な音だけが、必要な分だけ存在している。


「……なんかさ」

 カイが小声で言う。

「怒られてるわけでもないのに、居心地悪くない?」


「それが通常運転なんだと思う」

 レナが周囲を見回す。

「ここ、感情を外に出さない」


「出さないというか」

 俺は言葉を探す。

「向けてない、って感じ」


 視線はある。

 確実に見られている。


 だが――

 誰も声をかけてこない。


 店に入っても同じだった。


「宿、空いてるか?」

 カイが声をかける。


「空いている」

 店主は短く答える。

「金は前払いだ」


「愛想ないな」

 カイがぼやく。


「愛想は、必要ない」

 店主はそれだけ言って、鍵を置いた。


 値段は適正。

 ぼったくりでも、特別扱いでもない。


「……きれいだね」

 リィナがぽつりと呟く。


 部屋は簡素だが、手入れが行き届いている。

 必要なものは揃っている。


「最低限は保証する」

 フェリスが言った。

「だが、それ以上はない」


「線引き、はっきりしてる」

 ユウが頷く。


 街を歩く。


 魔人の姿は様々だった。

 角の形、肌の色、魔力の濃淡。


 だが共通しているのは――

 こちらに干渉しないこと。


「なあ」

 カイが俺に耳打ちする。

「これ、完全に“観察用の檻”だろ」


「檻って言うな」

 俺が小声で返す。

「聞こえる」


「聞かせてるのかもな」


 冗談めかした口調だが、笑っていない。


 役所に行くと、対応はさらに端的だった。


「滞在理由」


「旅だ」

 フェリスが答える。


「期間」


「未定」


「危険物の持ち込みは?」


「武器はある」


「登録しろ」


 それだけ。


 拒否もない。

 歓迎もない。


 ただ、記録される。


「……ねえ」

 リィナが小さく言う。

「怒ってる?」


「怒ってない」

 レナが即答する。

「興味がないだけ」


「それ、余計に怖くない?」

 カイが言う。


 昼過ぎ、小さな騒ぎがあった。


 市場の端で、魔人同士が言い争っている。

 内容は分からないが、感情は高ぶっている。


「……行く?」

 俺がフェリスを見る。


「行かない」

 フェリスは即答した。


「でも」

 リィナが一歩前に出かける。


 フェリスが、静かに手を伸ばして止めた。


「ここでは、当事者以外は介入しない」


「……でも、怪我しそう」


「怪我は、当事者の責任だ」


 冷たい言い方だった。

 だが、街の誰も動かない。


 数分後、騒ぎは自然に収まった。

 仲裁も、罰もない。


「……すごいね」

 リィナが呟く。


「すごい、じゃない」

 ユウが言う。

「徹底している」


 夕方。


 宿に戻る途中、リィナが足を止めた。


「……ねえ」

「ここ、嫌われてる?」


「嫌われてない」

 カイが言う。

「歓迎もされてないだけ」


「違いは?」


「信用がゼロ」

 カイはあっけらかんと言った。

「マイナスじゃないのが救い」


「救いなの、それ」

 レナが苦笑する。


 夜。


 部屋で簡単な食事をしながら、カイが言った。


「俺さ」

「この国、嫌いじゃない」


「珍しいな」

 俺が言う。


「分かりやすい」

 カイは肩をすくめる。

「やらかしたら、ちゃんと自分のせい」

「やらかさなきゃ、放っといてくれる」


「ノイズ向きだな」

 俺が言うと、


「まさに」

 カイが笑う。


 フェリスは、窓の外を見ていた。


「……今は」

 低い声。

「“客”ですらない」


「じゃあ、何ですか」

 俺が聞く。


「異物だ」

 フェリスは言い切った。

「害か、無害かを測られている」


 リィナが、ぎゅっと拳を握る。


「……早く」

「証明しなきゃ」


「焦るな」

 フェリスは静かに言った。

「焦ると、減点だ」


 その言葉に、リィナは黙って頷いた。


 ヴァル=カディアは、優しくない。


 だが、理不尽でもない。


 異端ノイズは今、

 歓迎されないという洗礼を受けていた。


 ――そして、それはまだ始まりにすぎない。

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