第31話
人でない国の息遣い
朝。
門は、思ったより質素だった。
石の門柱。
装飾は少ない。
だが――魔力の圧が、違う。
「……うわ」
カイが小さく声を漏らす。
「重いな」
「押される感じ」
レナが眉をひそめる。
「結界だ」
ユウが言う。
「人族圏とは、完全に分けている」
門番は二人。
一人は人型。
もう一人は、明らかに竜人だった。
鱗の浮いた皮膚。
金色の瞳。
門番の視線が、リィナに止まる。
一瞬。
本当に一瞬だけ、
目が見開かれた。
だが、すぐに戻る。
「……通行理由を」
「旅だ」
フェリスが答える。
「目的地は?」
「未定」
門番は、しばらく沈黙した。
リィナが、静かに一歩前に出る。
「通して」
声は低く、落ち着いている。
その瞬間。
空気が、変わった。
「……どうぞ」
門番は、深く頭を下げた。
「……え?」
カイが小声で言う。
「今の、なに?」
「知らない」
俺も正直に言う。
門を越えた瞬間。
空気が、軽くなった。
いや――違う。
世界の前提が変わった。
建物が違う。
素材が違う。
魔力の流れが、目に見えるほど濃い。
「……すご」
レナが素直に呟く。
リィナは、何も言わなかった。
ただ、深く息を吸って、吐いた。
「……帰ってきた、って顔だな」
カイが冗談めかして言う。
リィナは、少しだけ困ったように笑う。
「……そんな顔してた?」
「してた」
全員同時。
「うそ……」
フェリスは、町を見渡しながら言った。
「ここから先」
「我々は“外”だ」
「慣れてる」
カイが肩をすくめる。
「問題ない」
ユウが続ける。
俺は、リィナを見る。
「……大丈夫?」
「大丈夫」
彼女は頷いた。
「ここは……嫌いじゃない」
その言葉の重みを、
俺たちはまだ知らない。
異端は、
人でない国へ足を踏み入れた。
――ここから先は、
もう“旅の続き”じゃない。
世界の内側だ。




