第29話
見られていない、とは限らない
翌朝。
「……視線がある」
ユウが言った。
「敵?」
俺が聞く。
「断定できない」
「観測に近い」
「嫌な言い方だな」
カイが眉をひそめる。
「ファン?」
「悪趣味な」
レナが即答。
「サインいる?」
カイが俺を見る。
「いらない」
「名前書けないでしょ」
「失礼だな!?」
街道を進む。
特に何も起きない。
だからこそ、落ち着かない。
「情報が早い」
フェリスが言う。
「噂?」
リィナが聞く。
「そうだ」
「“妙な一行が来た”」
「妙なって失礼だな(二回目)」
カイが言う。
「正しい(二回目)」
ユウが返す。
行商とすれ違う。
「……異端旅団?」
小声。
でも、確かに聞こえた。
「有名なの?」
リィナが小声で聞く。
「悪名寄り」
俺が苦笑する。
「へえ……」
リィナは、なぜか少し安心した顔をした。
「安心するところじゃない」
レナが言う。
森に入ったところで、ユウが足を止める。
「一人」
「距離を保っている」
「来る?」
カイが拳を鳴らす。
「来ない」
「追わない」
「ただ、いる」
「見られてるだけか」
カイが肩をすくめる。
「嫌だな」
リィナが、俺の袖を掴んだ。
「……ごめん」
「何が?」
俺が聞く。
「多分」
「わたしのせい」
沈黙。
フェリスが言う。
「理由は聞かない」
「だが、勝手に離れるな」
「……うん」
夜、野営。
「なんだかさ」
カイが焚き火を見ながら言う。
「昔みたいだな」
「昔?」
俺が聞く。
「よく分からない面倒拾って」
「よく分からない目に見られて」
「でもまだ平和」
「嵐の前」
レナが言う。
「選別段階だ」
ユウが続ける。
「選別?」
リィナが顔を上げる。
「危険か」
「利用価値があるか」
「……それでも」
リィナは小さく言った。
「ここにいて、いい?」
「だめだったら」
カイが即答。
「もっと早く言ってる」
「判断早いね」
リィナが苦笑する。
「俺ら、受け身だから」
俺が言う。
「来たものはとりあえず受け取る」
「捨てない?」
「捨てる時は相談する」
フェリスが淡々と補足。
「相談はするんだ……」
焚き火が爆ぜる。
闇の向こうに、視線。
追わない。
襲わない。
ただ、見ている。
異端と、
名を捨てた王女。
この旅は、まだ日常の顔をしている。
――その裏で、確実に世界は動いていた。




