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異端(仮)  作者: vastum
戦争編
31/103

第24話

噂は剣より速く


 街の門が見えた頃、俺は本気で思った。


 戦争より怖いものがある。


 ――書類だ。


「止まれ! 氏名! 所属! 冒険者ランク!」


 門前に立つ役人が、紙とペンを振り回しながら叫んでいる。顔が“正しさ”で固まっていて、目が死んでない分タチが悪い。


「うわ」

 カイが露骨に嫌そうな顔をする。

「こいつらの方が怖い」


「分かる」

 レナがため息をつく。

「剣は避けられるけど、書類は避けられない」


「避けるな」

 フェリスが短く言う。

「避けると噂が増える」


「噂増えるの?」

 カイが聞くと、


「増える」

 ユウが断言した。

「人は空白を埋める」


 最悪だ。


 フェリスが役人に必要事項だけ伝え、最低限の手続きで通過する。隊長って呼ばれてるの、こういうところでも強い。判断が速い。線が引ける。


 門をくぐった瞬間、ざわめきが耳に刺さった。


「……五人組だ」

異端旅団ノイズだろ?」


「帝国のSとやり合ったって」

「生きて帰ったらしい」


 ――早い。


 噂って、ほんとに剣より速い。


「本物って何だよ」

 カイがぼそっと言う。


「生きてるだけで本物だよ」

 レナが皮肉っぽく笑う。

「死んでたら伝説」


「やめろ」

 俺が言うと、


「やめない」

 ユウが言う。

「伝説は管理できない」

「噂は管理できる」


「管理できるのかよ」


「できない」

 ユウは即答する。

「だが、方向は変えられる」


 冒険者ギルドは地獄だった。


 依頼書が壁一面に貼られ、受付には人が詰まり、戦場から戻った兵や冒険者が水を求めて並んでいる。受付嬢の目が半分死んでいた。


「次の方……次の方……」


「受付嬢が壊れてる」

 カイが言う。


「言うな」

 レナが睨む。

「私も壊れてる」


 受付嬢は俺たちを見ると、目が一瞬だけ戻った。


「あっ……異端旅団ノイズの皆さま」

「え、ほんとに……?」


「本物って何だよ(2回目)」

 カイが小声で言う。


 受付嬢が慌てて書類を出す。


「軍協力者の登録と、状況聴取です」

「それと……噂の確認も……」


「噂?」

 俺が聞くと、受付嬢が小声で言った。


「帝国のSと正面で……って」

「ランクA部隊ですら追いつけないって言ってたのに」


 胸がきゅっとなる。


 追いつけない。

 その言葉は、俺の中にまだ刺さっている。


「追いつけないっていうより」

 俺は言った。

「追いついた瞬間に負ける場所にいた」


 ユウが頷く。


「正確だ」


 受付嬢が目を丸くする。


「……怖い言い方ですね」


「怖いんだよ」

 カイが言った。

「俺、まだ腹の底冷たい」


 レナが肩をすくめる。


「でも、噂は盾にもなるよ」

「帝国が“追いにくくなる”」


「……盾か」

 俺は呟く。


 盾を持つのは得意じゃない。

 でも、持たないと刺される時もある。


 ギルド内の視線が増える。

 英雄扱い――に近い何か。


 俺は居心地が悪くて、ちょっと笑うしかなかった。


「隊長」

 小声で言う。

「逃げたいです」


「逃げるな」

 フェリスが即答する。

「今逃げると噂が増える」


「逃げても増える、逃げなくても増える」

 カイが言う。

「つまり増える」


「増える」

 ユウが頷く。


 最悪だ。


 でも、フェリスは淡々と書類を処理し、必要な聴取だけを済ませ、俺たちを宿へ押し込む段取りを組む。


 戦争は終わってない。

 でも、“戦争っぽい部分”は終わった。


 ここからは、現実の後始末だ。


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