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異端(仮)  作者: vastum
戦争編
26/103

第19話

追いつかない背中


 砦は、まだ持っていた。


 城壁の一部は崩れ、門は歪み、地面には血と魔力の焦げ跡が残っている。

 それでも、旗は下りていない。


「……間に合った、か?」


 城門の前で、カイが呟いた。


「“誰か”がな」

 ユウが静かに言う。


 俺たちが来る前に、ここでは戦いがあった。

 しかも、かなり激しい。


 矢の軌道が整理されている。

 魔術の痕跡が、無駄なく配置されている。

 そして何より――敵の倒れ方が、綺麗すぎる。


「これ」

 レナがしゃがみ込む。

「一人や二人の仕事じゃないよ」


「部隊だな」

 フェリスが言う。

「しかも、冒険者」


 その瞬間、城門の上から声が飛んだ。


「おい!」

「そこ、味方か!」


 鎧姿の男が顔を出す。

 年は三十前後。

 動きに無駄がない。


「通りすがりだ」

 フェリスが答える。

「ここ、何があった」


 男は一瞬迷い、それから叫んだ。


「ランクAの冒険者部隊だ!」

「連合所属、五人!」


 城門が開く。


 中に入ると、砦の中は修羅場だった。

 だが、混乱はない。

 負傷者はいるが、パニックは起きていない。


「……すげえ」

 カイが小さく言った。

「これ、ちゃんと“守り切った”後だ」


 俺もそう思った。


 そこにいた。


 中央の広場。

 血のついた剣を拭いている女。

 背中合わせで警戒を続ける双剣使い。

 魔術陣を片付けている術師。

 弓を背負い、周囲を睨む狩人。

 そして――


「……あんたら」

 一番大柄な男が、こちらを見た。

「遅れてきた援軍か?」


 声が低く、よく通る。


「いや」

 フェリスが首を振る。

「ただの旅団だ」


 男は一瞬、俺たちを見回し、鼻で笑った。


「五人組か」

「奇遇だな」


 女剣士が近づいてくる。

 目が鋭い。

 でも、余裕がある。


「私たちはランクA」

「ここは私たちが引き受けた」


「見れば分かる」

 フェリスが言う。

「見事だ」


 それは、お世辞じゃない。

 事実だった。


 砦を落としに来た帝国軍は、三倍以上の数だったはずだ。

 それを、持ちこたえた。


「……お前らも、そこそこやるだろ」

 双剣使いが言った。

「立ち位置がいい」


 ユウが少しだけ眉を動かす。

 評価された。


 女剣士が俺を見る。


「……あんた」

「剣、静かすぎない?」


 俺は一瞬、言葉に詰まった。


「……そうですか?」


「戦った後の剣は、普通うるさい」

「血とか、魔力とか」

「でもあんたのは……」


 彼女は、言葉を切った。


「……まあいい」


 大柄な男が、ふうっと息を吐く。


「正直に言う」

「俺たちが来なきゃ、この砦は落ちてた」


「だが」

 彼は続ける。

「俺たちが来ても、全部は救えなかった」


 空気が少し、重くなる。


「別の戦線がな」

 術師が言う。

「同時に、三つ動いた」


 フェリスが理解する。


「……分断されたか」


「そうだ」

 女剣士が頷く。

「帝国は、学習してる」


 その言葉に、俺の胸がざわつく。


 ランクA。

 戦場の主役。

 正規軍からも一目置かれる存在。


 その人たちが、

 追いつけない戦争。


「……一つ聞いていい?」

 レナが聞く。


「なんだ」


「帝国側に、冒険者は?」


 ランクAの面々の空気が、わずかに変わった。


「いる」

 大柄な男が答える。

「一人な」


「ランクは?」

 カイが軽く聞く。


 沈黙。


 そして、女剣士が静かに言った。


「……Sだ」


 空気が、落ちた。


「砦を落としたって噂、聞いた?」

 双剣使いが言う。

「俺たちが来る前にな」


 俺の中で、点と点が繋がる。


「……この砦とは、別の?」


「別の」

 術師が頷く。

「もっと奥」

「もっと早く」


 大柄な男が、俺たちを真っ直ぐ見る。


「勘違いするな」

「俺たちは弱くない」


 拳を握る。


「だが」

「“あいつ”が動くと」

「俺たちは、間に合わない」


 その言葉が、

 ランクAの限界を示していた。


 俺は、無意識に剣の柄を握る。


「……その人」

 俺は聞いてしまった。

「どんな戦い方を?」


 女剣士は、少しだけ目を伏せた。


「戦いじゃない」

「作業だ」


「……作業?」


「敵が“居た”という事実だけが残る」

「戦場は、終わってる」


 その表現に、

 背筋が冷えた。


 俺たちが“止める”戦い方をしているなら。


 そいつは――

 戦争を“進める”存在だ。


「……なるほど」

 フェリスが言った。

「だから、追いつけない」


 ランクAの大柄な男が、苦笑した。


「俺たちAはな」

「戦争を“勝たせる”ために戦う」


 そして、静かに続ける。


「だがSは」

「戦争を“使う”」


 その言葉が、

 この章の核心だった。



 砦を出る時、女剣士が俺に言った。


「……あんた」

「妙な立ち位置だな」


「そうですか?」


「私たちAとは違う」

「でも、Sとも違う」


 彼女は少しだけ笑った。


「気をつけろ」

「戦争は、“間に合わない側”を踏み潰す」


 俺は、頷いた。


 空を見上げる。


 雲が速い。


 ランクAが主役の戦場で、

 なお追いつけない影がいる。


 異端ノイズは、

 その影と――

 同じ戦争を歩き始めていた。


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