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異端(仮)  作者: vastum
戦争編
21/103

第14話

英雄の国に立つ


 海の匂いが、風に混じっていた。


「……海だ」

 カイが、素直にそう言った。


 丘を越えた先に広がる景色は、噂で聞いていた以上に“普通”だった。

 白い城壁。石造りの街並み。港に並ぶ船。

 人間の国と、何が違うのかと聞かれれば――一見、答えに詰まる。


 だが。


「……人、多いですね」

 レナが呟く。


 違和感は、数秒遅れてくる。


 耳が長い者。

 背が異様に低い者。

 逆に、見上げるほど大きい者。

 皮膚の色も、目の数も、腕の本数も違う。


 それなのに――誰も、誰もを見ない。


 視線が、平らだ。


「ここが……」

 ユウが短く言う。

「アウレア連合の首都、リュミエラ」


 港湾都市。

 英雄アウレアが建国した国の中心。


 門の前には、検問があった。

 だが、帝国のそれとは違う。


「来訪の目的を」

 番兵は淡々としている。


「通過」

 フェリスが答える。

「場合によっては滞在」


「構成員は?」


「五人」

「全員、人間です」


 番兵は一瞬だけこちらを見る。

 だが、その視線に値踏みはない。


「……了解」

「武装は許可する」

「争いは起こすな」


 それだけだった。


 門をくぐった瞬間、レナが小さく息を吐く。


「……楽」

「楽すぎて怖い」


「ここは、信用が前提の国だ」

 フェリスが言う。

「裏切ったら、居られなくなる」


「シンプルだな」

 カイが笑う。


 通りを歩く。

 市場では、ドワーフと人間が値段交渉をしている。

 三つ目の商人が、普通にぼったくろうとして怒られている。

 巨人が、船の修理を手伝って感謝されている。


「……英雄って」

 俺は、つい聞いてしまった。

「どんな人だったんですか」


 近くで露店を出していた獣人の老人が、耳を動かした。


「英雄アウレアか?」

「そうさな……」


 老人は、空を仰ぐ。


「種族を集めた」

「強いやつも、弱いやつも」

「爪弾き者も、犯罪者も」


「世界の敵と戦った」

「勝った」

「それで言った」


 老人は、にやりと笑った。


「『一緒に戦ったんだから、一緒に生きろ』ってな」


 レナが目を丸くする。


「……それだけ?」


「それだけだ」

「だから揉める」

「だから、続いてる」


 俺は、胸の奥が少しざわつくのを感じた。


 英雄は、特別な理想を語らなかった。

 難しい制度も作らなかった。

 ただ、結果を肯定しただけだ。


「……俺たち、浮いてません?」

 小声でカイに聞く。


「逆だ」

 カイが言う。

「ここじゃ、浮かない」


 それが、妙に重かった。


 フェリスが言う。


「今日は宿を取る」

「情報を集める」


 誰も反対しない。


 だが俺は、港の奥――海の向こうを見ていた。


 帝国が嫌う理由が、少しだけ分かった気がした。


 ここは、

 例外が積み重なって“当たり前”になった国だ。


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