第十話
名付けられる前に
王都アルフェインの朝は、相変わらず騒がしかった。
だが、俺たちの周囲だけは違う。
露骨に避けられる。
声が、止まる。
視線が、刺さる。
「……分かりやすいな」
カイが欠伸混じりに言った。
「昨日より酷い」
レナが肩をすくめる。
旧王都での抗争は、一夜で噂になった。
誰が止めたのか。
何人いたのか。
どんな力だったのか。
話は、もう事実とは違う。
「一人で百人倒した」
「魔術を使わずに街を沈めた」
「化け物の集団だ」
「盛られすぎだろ」
俺が言うと、
「噂はそういうものだ」
ユウが淡々と返す。
冒険者ギルドの前を通ると、
掲示板が一枚、増えていた。
※王都治安維持のため
不審な集団への接触は控えること
名前はない。
でも、誰のことかは明白だ。
「……潮時だな」
フェリスが言った。
誰も反対しなかった。
⸻
一方、その頃。
王城の一室で、簡素な会議が開かれていた。
「旧王都地区の抗争は、沈静化しました」
報告書を読み上げる男の声は、感情がない。
「死者は?」
「確認されていません」
「介入したのは?」
「所属不明の五名です」
紙が、机に置かれる。
「正規軍の出動は?」
「ありません」
「現地判断で、不要とされました」
一人の男が、書類に目を落としたまま言った。
「……測定不能か」
「戦闘能力は高い」
「統率も取れている」
「だが、行動原理が不明です」
別の声が続く。
「旧王都の秩序を、一時的に制圧」
「住民被害は最小」
「危険か?」
「はい」
「同時に、有用とも言えます」
沈黙。
やがて、机を指で叩く音。
「分類を」
「……異端」
「記録上は“ノイズ”として」
「監視は?」
「継続」
「拘束は?」
「不要」
「王都を出れば、それでいい」
冷たい結論だった。
「王都の問題ではない」
「そういう存在だ」
会議は、それで終わった。
⸻
王都の外れ。
城壁が、すぐそこに見える。
「結局、何も言われなかったな」
カイが言う。
「それが一番、言われてる」
レナが答える。
俺は、剣の柄に手を置いた。
まだ、静かだ。
でも――ここに留まる気はしなかった。
「……俺たち、追い出されたんですか?」
俺が聞く。
「違う」
フェリスが即答する。
「“放された”だけだ」
「それ、余計に怖くない?」
「だから出る」
城門を抜ける。
振り返ると、王都アルフェインは何も言わない。
拒絶もしない。
呼び止めもしない。
ただ、忘れようとしている。
「次はどこだ?」
カイが聞く。
「王都の外」
ユウが言う。
「人の少ない方」
「いいですね」
レナが笑う。
「また、静かなところ」
フェリスが歩き出す。
「目的は変わらない」
「生き延びる」
「面倒は避ける」
少しだけ間を置いて、続けた。
「――増えるなら、勝手に増える」
それが、この旅団らしい結論だった。
俺は、最後に一度だけ王都を見る。
あそこでは、俺たちは名前を付けられた。
自分たちの知らないところで。
でも。
「名乗ってないなら、まだ俺たちじゃない」
誰にともなく、そう呟いた。
五人は、街道を進む。
王都アルフェインは、背後で小さくなっていく。
そして――
異端は、王国の外へ出た。




