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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
106/110

第84話

一緒にいられない理由


 風が止んだ。


 正確には、

 止んだように感じただけかもしれない。


 森を抜けた先の小さな岩場で、ノイズは足を止めていた。

 追撃はない。

 だが、安心できるほど遠くもない。


 全員が、言葉少なに呼吸を整えている。


 その沈黙を破ったのは、エッグだった。


「……なあ」


 声は低い。

 軽口に使うトーンじゃない。


 フェリスが視線を向ける。


「何」


 エッグは一度、周囲を見回した。

 全員の顔を、順番に。


 最後に、シオンを見る。


「さっき言ったこと」

「……覚えてるか」


「境界に選ばれてるって話か」

 シオン。


「ああ」


 エッグは、苦笑した。


「正確にはな」

「選ばれてるのは、お前だけじゃない」


 空気が、わずかに張る。


 カイが眉をひそめた。


「どういう意味だ」


「俺もだよ」

 エッグ。

「ただし――」


 一拍。


「俺は、失敗側だ」


 誰も、すぐには言葉を返さなかった。


 エッグは続ける。


「中で見た」

「境界に触れて、変わった連中」

「戻れなくなった奴ら」


 視線が、地面に落ちる。


「……俺は、まだ戻れてる」

「でもな」


 拳を、ぎゅっと握る。


「進んでる」


 レナが、静かに言った。


「……進行」


「ああ」

 エッグ。

「止まってねえ」


 シオンは、胸の奥が少しだけ重くなるのを感じた。


「それが」

「残れない理由か」


「そうだ」


 即答だった。


「俺がここにいると」

「境界が、こっちを向く」


 フェリスの目が、細くなる。


「引き寄せる、ということ?」


「引きずる、だな」

 エッグ。

「……お前らを」


 カイが舌打ちする。


「ふざけんな」

「今さら一人増えたところで――」


「違う」

 エッグは、カイを見る。

「お前らが強いから、じゃねえ」


 そして、再びシオンを見る。


「お前がいるからだ」


 胸の奥の違和感が、応えた。


「俺はな」

 エッグ。

「お前の“次”を見る役割じゃねえ」


 静かな声だった。


「お前が踏み込む前に」

「踏み外す側だ」


 誰も、否定しなかった。


 それが冗談じゃないと、全員分かっていたからだ。


 エッグは、ふっと笑った。


「……嫌な役だろ」


「だったら」

 シオン。

「一緒に――」


「無理だ」

 エッグは首を振る。

「それをやると」


 一拍。


「お前が、迷う」


 シオンは、言葉を失った。


「お前はな」

 エッグ。

「進むやつだ」

「止まる理由を、持っちゃいけねえ」


 風が、また吹いた。


 短く、冷たい風。


 フェリスが、静かに言う。


「……行くのね」


「ああ」

 エッグ。

「もう少しだけ、先に」


「戻る気は」

 レナ。


「分からねえ」

 エッグ。

「でも――」


 シオンを見る。


「生きてたら」

「どっかで、また会うだろ」


 カイが、鼻で笑った。


「都合のいい言い方だな」


「だろ?」

 エッグ。

「でも、お前らも嫌いじゃねえだろ」


 その軽口が、

 逆に胸に刺さった。


 シオンは、何も言えなかった。


 言えば、引き留めてしまう。

 それが、分かっていた。


 エッグは、背中を向ける。


「……じゃあな」


 一歩。


 そして、立ち止まる。


「シオン」


 振り返らずに言う。


「お前がどこまで行くか」

「……ちゃんと、見届けてやる」


 それだけ言って、歩き出した。


 誰も、追わなかった。


 風が、背中を押す。


 その背中が、

 少しずつ森に溶けていく。


 シオンは、剣を握りしめた。


 胸の奥の違和感が、

 今は――静かだった。


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