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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
105/110

第83話

戻れない流れ


 退く、と決めた瞬間に、退路は細くなった。


 森が、騒がしい。

 だがそれは音じゃない。

 気配が増えている。


 同じ“質”のものが、あちこちで目を覚まし始めている。


「……数、増えてる」

 レナが歯を食いしばる。


「追ってきてるのか?」

 カイ。


「違う」

 ユウ。

「……集まっている」


 エッグが、走りながら吐き捨てる。


「呼応だ」

「最初の一体が、合図になった」


 シオンは、剣を握ったまま走っていた。

 胸の奥が、ずっと熱い。


 さっき削った感触が、まだ残っている。

 手応えと同時に、嫌な予感も。


(……削れた)

(……でも、壊してない)


 だからこそ、

 “それ”は反応した。


 背後で、地面が鳴る。


 振り返る暇はない。

 木々の隙間を縫って、全員が走る。


「分かれ道!」

 フェリス。


 即座に判断する。


「右!」

「固まる!」


 全員が一斉に方向を変える。


 次の瞬間、

 左側の地面が沈んだ。


 遅れて、

 低い衝撃音。


 振動が、足裏を打つ。


「……届いてる」

 レナ。


「追撃、来るぞ!」

 カイ。


 だが、追撃はなかった。


 代わりに――

 遠くで、何かが“整う”感覚。


 シオンは、思わず足を止めかけた。


(……違う)

(……こっちじゃない)


 胸の奥の熱が、

 別の方向を指している。


「シオン!」

 フェリス。


「……分かってる」


 口ではそう言った。

 だが、身体は正直だった。


 走りながら、

 意識が一瞬だけ“引かれる”。


 そこに。


 “それ”の気配が、重なる。


 近い。


 音もなく、

 背後に――


「――来る!」


 叫ぶより早く、

 空気が裂けた。


 横殴りの衝撃。


 カイが、反射で受ける。


「ぐっ……!」


 吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。


「カイ!」

 レナ。


 “それ”が、完全な形で現れる。


 最初の一体より、輪郭がはっきりしている。

 だが、その分――歪みが大きい。


「……進行してる」

 エッグが呻く。


 フェリスが、即座に立ち位置を変える。


「囲う!」

「削って、退く!」


 シオンは、迷わず前に出た。


「……俺が行く」


「無理するな!」

 カイが叫ぶ。


「無理じゃない」

 シオン。

「……噛み合ってる」


 胸の奥の熱が、

 はっきりと応える。


 剣を振るう。


 今度は、迷いがない。


 刃が、輪郭に“食い込む”。


「……っ!」


 反発。

 だが、さっきより浅い。


 通る。


 “それ”が、はっきりと揺らいだ。


 ユウが、その隙を逃さない。


 足元を断つ。


 レナの魔法が、空間を縫い止める。


 フェリスの声が、飛ぶ。


「――今、抜ける!」


 全員が動く。


 シオンは、最後に剣を引いた。


 刃に、微かな“引っかかり”。


 それは――

 向こう側の感触だった。


 森を抜ける。


 空が、開ける。


 息が、ようやく戻る。


 だが、安心はない。


 背後で、

 “それ”が動く気配が、確かに残っている。


 エッグが、荒い息のまま言った。


「……なあ」

「そろそろ、言うぞ」


 全員が、足を止める。


「何を」

 フェリス。


 エッグは、シオンを見る。


 目を逸らさずに。


「……お前」

「境界に、選ばれてる」


 胸の奥の熱が、

 その言葉に――はっきりと応えた。


 誰も、否定しなかった。


 否定できなかった。


 風が、吹き抜ける。


 だが、その風はもう、

 元の森の匂いじゃない。


 何かが、確実に変わった。


 そして。


 それは、

 戻らない。


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