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異端(仮)  作者: vastum
アリス編
102/103

第80話

正面衝突の予感


 朝の森は、静かだった。


 夜露を含んだ草が靴裏に張り付き、

 低い枝から雫が落ちる。


 いつもと変わらない朝だ。

 少なくとも、見た目だけは。


 シオンは歩きながら、胸の奥に残る違和感を意識しないようにしていた。

 意識すれば、確かにそこにある。

 無視すれば、日常に紛れる程度のもの。


 だが――消えない。


 フェリスが歩みを止めた。


「……ここ」


 開けた草地。

 左右を森に挟まれ、逃げ道が多いようで、どこも薄く塞がれている場所。


 アリスが、空気を確かめるように目を閉じる。


「……線を引かれてる」

「踏み込めば、すぐ分かる」


「隠す気はねえってか」

 カイが鼻で笑う。


 レナはすでに魔力を巡らせていた。


「数は少ない」

「でも……質が違う」


 その言葉が終わるより早く、

 前方の空気が揺れた。


 水面に石を落としたような歪み。

 そこから、人が現れる。


 一人。


 武器を持たず、鎧もない。

 なのに、立っているだけで圧がある。


「……朝から集まりがいいですね」


 声は静かだった。

 感情の揺れが、まるでない。


 フェリスが一歩前に出る。


「あなたは誰」


「名を名乗る必要はありません」

 男は淡々と言う。

「私は、役目です」


「役目?」

 カイ。


「境界に触れた存在へ」

「警告を届ける役目」


 その言葉に、シオンの胸がわずかに反応した。

 昨夜の違和感が、微かに脈打つ。


「……境界」

 フェリス。

「随分と気にしてるのね」


「当然です」

「越えられては困る」


 エッグが、半歩前に出る。


「越えられると、どうなる」


 男は、エッグを見る。


 一瞬だけ、視線が止まった。


「……あなたは」

「既に、半分こちら側だ」


 空気が張り詰める。


 カイの拳に力が入った音が、はっきりと聞こえた。


「言葉選べよ」

「殴られてえのか」


 男は、気にも留めない。


「あなた方は」

「まだ排除対象ではありません」


「じゃあ何だ」

 シオン。

「見逃してくれるってのか」


「管理下に収まる限りは」

 男。

「自由に振る舞って構いません」


 その言葉に、フェリスの目が冷えた。


「……条件付きの自由ね」


「秩序とは、そういうものです」


 レナが、低く言う。


「攫った人たちはどこ」


 男は、答えなかった。


 沈黙。


 それだけで、十分だった。


 シオンの中で、何かが静かに折れる音がした。


「……あんたら」

 シオンは剣を握る。

「人を、数字みたいに扱ってる」


「個体です」

 男。

「最適化の対象」


 次の瞬間。


 カイが前に出た。


「――もういい」


 拳が振るわれる。

 だが、当たらない。


 男の身体が、わずかに揺らいだだけで、

 拳は空を切った。


「……位相をずらしている」

 レナ。


「危険な真似を」

 男は淡々と続ける。

「あなた方が強いことは理解しています」


 視線が、再びシオンに向く。


「だからこそ」

「そのままでいてはいけない」


 胸の奥が、熱を帯びた。


 昨夜の違和感が、確かな輪郭を持つ。


「……決めるのは」

 シオン。

「俺たちだ」


 男は、少しだけ首を傾げた。


「その選択が」

「世界を壊すかもしれません」


「世界?」

 カイが吐き捨てる。

「便利な言葉だな」


 フェリスが、静かに告げる。


「忠告は受け取った」

「返事は――拒否」


 その瞬間、

 周囲の森が、わずかにざわめいた。


 気配が、増える。


 近づいてくる。

 隠す気もない。


 男は、初めて息を吐いた。


「……そうですか」


 手を上げる。


 それだけで、空気が沈んだ。


 地面が、引く。


 足元が、消えかける。


「――ッ!」


 シオンは剣を突き立て、踏みとどまった。

 胸の奥が、強く脈打つ。


 レナの魔法が重なり、

 ユウが体勢を支える。


 カイが前に出る。


「調子乗るな!」


 だが、男は動かない。


「戦闘は望んでいません」

「今は」


 その言葉が、嫌な余韻を残す。


 男の視線が、森の外れへと逸れた。


 その瞬間。


 別の気配が、割り込んできた。


 荒く、生々しい魔力。

 管理されたものとは、まるで違う。


 森が、鳴った。


 フェリスが、低く言う。


「……何か来る」


 男でさえ、動きを止めた。


 均衡が、揺らぐ。


 誰の意図でもない形で。


 空気が、張り詰めたまま――

 次の瞬間を待っている。


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