第一話
追放施設の門前で、わりと人生詰んだと思った
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その施設は、外から見る分にはやたらと立派だった。
高い石壁、無駄に分厚い門、重ねがけされた結界符。
知らない人が見たら、「あ、ここ重要施設だな」って思うと思う。
まあ、中身を知ってたら、そんな感想は一瞬で吹き飛ぶんだけど。
忌み子保護施設〈第七収容棟〉。
俺――シオンは、今日までここで「保管」されていた。
そして、さっき追い出された。
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「――以上の理由から、君をこれ以上ここに置くことはできない」
管理官は、相変わらず無機質な声だった。
表情も、声色も、いつも通り。
「危険度は低い。暴走の兆候もなし」
「それ、良いことじゃないですか?」
「だが、制御ができない」
即答。
「検査結果に再現性がない。
指示通りに魔力が出ない。
逆に、出すなと言った時に出ることがある」
「……あー、はい。自覚はあります」
俺がそう言うと、管理官は一瞬だけ言葉に詰まった。
「自覚があるのか」
「ええ。
正直、俺も困ってます。
出ろって言われると出ないし、出るなって言われると出るんで」
「……」
「空気読めない魔力って、どう思います?」
無言で書類を閉じられた。
あ、これ、完全にダメなやつだ。
「結論として、君は――扱えない」
その言葉で、すべて終わった。
危険すぎて追放されるわけでもない。
役に立つから残されるわけでもない。
ただ、面倒。
「本日中に退去してもらう。荷物は用意してある」
「行き先は?」
「指定しない」
「ですよねー」
思ったより、冷静だった。
たぶん、心のどこかで覚悟してたんだと思う。
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渡された袋は、軽かった。
着替え、簡単な食料、最低限の生活用品。
俺の人生、ずいぶんコンパクトだな、と思った。
廊下を歩いても、誰も声をかけてこない。
ここではそれが普通だ。
門の前で、最後の確認。
「この先、施設に戻ることはできない」
「はいはい」
「トラブルを起こしても、我々は関与しない」
「起こさない方向で頑張ります」
返事はなかった。
門が開き、夕方の光が差し込む。
外に一歩出た瞬間――
門は、容赦なく閉じた。
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「……さて」
俺は門の前で立ち尽くした。
行く場所はない。
金もない。
社会経験? 施設内限定なら豊富です。
「いや、詰んでない。
まだ“完全に”詰んだとは限らない」
声に出してみる。
出すとちょっと楽になる。
その時だった。
「なあ」
背後から、やけに気の抜けた声。
「今の、追放シーンだったよな?」
振り返ると、四人組がいた。
旅人風の装備。
武器あり。
でも、空気が軽い。
というか、この場所で軽すぎる。
「門の前で立ち尽くしてるし」
「珍しいな、ここから出される人」
「え、逆に出られるんだ」
「……静かに」
最後の声は低く、鋭かった。
銀髪の女性が、俺をじっと見ている。
怖い、というより――見られてる。
先頭の男が笑った。
「よー。大丈夫?」
「えっと……物理的には大丈夫です」
「精神的には?」
「未定です」
赤髪の女性が吹き出した。
「正直でいいね」
「施設、追い出されたんです」
言ってから、ああ俺いま追放直後なんだな、と実感が湧いてきた。
「理由は?」
銀髪の女性。
「制御不能、だそうです」
「うわ」
黒髪の男が、なぜか楽しそうに声を上げた。
「一番めんどくさいやつ!」
「褒めてないよね?」
「褒めてる褒めてる!」
「褒め言葉じゃない!」
なんでこの人たち笑ってるんだ。
「普通、怖がられません?」
俺が聞くと、赤髪の女性が肩をすくめた。
「慣れてるから」
「慣れてる……?」
「私たちも、似たようなものよ」
ああ、なるほど。
「カイだ」
黒髪の男が名乗る。
「ユウ」
真面目そうな男。
「レナ」
赤髪の女性。
「フェリス」
銀髪の女性。
「シオンです。元・施設備品」
「言い方」
「自分で言う分にはセーフかなって」
カイが笑った。
「で、シオン。行き先は?」
「ないです」
即答。
一瞬の沈黙。
フェリスが言った。
「次の街まで、同行する?」
「……え?」
「どうせ私たちも、宿を断られる」
「断られる前提なんですね」
「前提」
ユウが頷いた。
「危険でも?」
「そのうち慣れる」
即答だった。
俺は少し考えて――肩をすくめた。
「じゃあ、お邪魔します。
今さら危険度が一人増えても、誤差ですよね」
「いい心構えだ」




