消えた魔法紋
「わぁ〜! すごいっ!」
街に到着するなり、レオルドが目を輝かせた。
円形の広場にはたくさんのお店が並んでいて、店員さんとお客さんが仲良さそうにワイワイ話している。
広場の中央には噴水があり、その周りでは若者たちが買ったばかりの食べ物を美味しそうに食べていた。
初めて見る光景に、レオルドは興奮しながら周りをキョロキョロしている。
そのうちバランスを崩して転んでしまいそうで、シンが真後ろで様子を窺っていることには気づいていないようだ。
ふふっ。レオルドは私たち以外の人に会うのは初めてだし、驚いてるわね。
「ママ! たくさんの人がいるね! おいしそうなご飯もいっぱい! どうしよう〜!」
「好きなお店に行っていいのよ」
貰ったばかりの硬貨を握りしめて、どのお店に行こうかとソワソワしているレオルド。
街で売られているものには、きちんとお金を払って買うことなど、昨日のうちにしっかり教えてある。
そうでなければ、森にある木の実と同じように勝手に取ってしまうかもしれないからだ。
魔法に関しては天才だけど、一般常識についてはまだ知らないことだらけだものね。
これから少しずつ教えてあげないと。
楽しそうなレオルドを見ているだけで、こちらも楽しくなってくる。
ゆったりとレオルドに付き添っている私やシンとは違い、ニコラだけは大きな紙を広げて落ち着きなく動いていた。
「せっかく街に来たんだから、この隙にいろいろ買っておかなきゃ! 私、あっちのお店行ってくるから!」
「待って、ニコラ! そんなにたくさん買うつもりなの?」
チラッと見えた紙の内容に驚いて声をかけると、ニコラは腕を上げてグッと力こぶを見せてきた。
「もちろんよ! レオルドも大きくなってきたし、新しい服とかも買っておかなきゃ!」
「1人じゃ大変でしょ。私も手伝うわ」
「でも、レオルドはまだこの広場から離れそうにないし……」
「レオルドはシンに任せておけば心配いらないわ。それに、私もレオルドの服を選びたいの」
「! そうね。じゃあ行きましょう」
レオルドとシンに事情を説明し、広場から離れる。
買い出し予定のものが多すぎるため、私とニコラも分担してそれぞれ違うお店に行くことにした。
私がまず向かうのは、レオルドの服屋さんだ。
今まで街に来たことがなかったから、一度も服を選んであげたことがなかったのよね。
ちょっとワクワクするわ。
初めて入る子ども服のお店で、男の子の服を1着ずつ確認していく。
どれもレオルドに似合いそうで、ここにある服を全部くださいと言いたいくらいだ。
レオルドは5歳だけど、見た目はまだ3〜4歳くらいなのよね。
小さいサイズだから、こんなに可愛い服が多いのかしら。
産まれたのが少し早かったからか、レオルドは基準よりも背が低く幼く見える。
万が一レオルドが見つかってしまった場合に、リュカ様の子だと思われないよう、実は本人には4歳だと伝えてある。
4歳なら、6年前に姿を消した私とリュカ様の子どもであるはずがないからだ。
まあ、魔法で詳しく調べられたらバレてしまうのだけど……それでも、少しは誤魔化せるかもしれないもの。
たとえあまり意味がなかったとしても、少しでもレオルドの存在を隠すためにできることはしておきたい。
そんな気持ちから、レオルドに嘘をついている。
そういえば、レオルドに父親について聞かれたことはないわね。
幼いながらに、私に遠慮しているのかしら?
それとも、ニコラやシンには何か聞いたりしているのかしら?
もし父親について聞かれたら、もう死んでしまったと答えよう。
そう思っているのだけど、今まで一度も聞かれていないことにふと気づいた。
……まぁ、向こうから聞かれるまでは、何も言わなくていいかな。
わざわざ父親は死んでいると言わなくてもいいだろう。
そう思いながら服を数着購入し、お店を出た。
次は靴屋さんへ行こうと歩き始めたところで、首筋に違和感を覚える。
「……うっ……」
ジリジリとした痛みを、魔法紋の部分に感じる。
首筋は見えないけど、鎖骨部分の魔法紋は見える。それが、だんだんと消えていくのが目に入った。
魔法紋が消える……!
そう思ったときには、シュウゥゥ……という音と共に魔法紋が完全に消え去った。
これで、私の魔力は探知できるようになってしまった。
どうしよう……ううん。大丈夫よ。
何も問題はないわ……。
ふぅ……と息を吐き、一歩踏み出した瞬間。
目の前の道に、見覚えのある魔法陣が浮かび上がった。
6年前に何度も見た、転移魔法の――。
「えっ……?」
そう声を漏らしたときには、目の前に1人の男性が現れていた。
昔より少し髪が伸び、大人っぽくなった――リュカ様が。




