父親の魔力を継いだ息子
レオルドの前に出した、小さなブルーの宝石がついたネックレス。
その宝石をツンと指で触れるなり、レオルドは覚えたばかりの呪文を唱えた。
まだ5歳だというのに、この記憶力の良さはやっぱりクラヴェル公爵家の血筋なのか。天才――という言葉が頭をよぎる。
「……できたっ!」
「え? もう?」
宝石がキラリと一瞬光ったあと、レオルドはそのネックレスを上に掲げて飛び跳ねた。
私の目にはわからない違いがあるのか、成功したと言いきっている。
「ほら! 魔力が入ってるでしょ?」
「ごめんね、レオルド。ママにはよくわからないわ」
「そうなの? じゃあ、僕がつけてみるよ!」
そう言ってレオルドがネックレスを渡してきたので、首につけてあげる。
その瞬間、ずっと漂っていたレオルドの高い魔力が、フッと完全に消えた。
どんなに低い魔力でも、魔術師には会えばすぐにわかる。
でも、この状態のレオルドに会っても魔術師だとは思わないだろう。
あんなに高い魔力が、ゼロになった……!?
「どう? ママ」
「すごいわ! レオルド! 本当に魔力がわからなくなったわ!」
「ほんと? エヘヘ。よかった〜」
ニコッと笑う愛らしい天使の頭を、これでもかというほど撫でてあげる。
レオルドは照れて嬉しそうに体をモジモジさせていた。
実力は大人並みでも、中身はまだまだ可愛い子どもだ。
「レオルド。これからは、ずっとこのネックレスをつけていてほしいの。ママとの約束よ」
「うん! わかった!」
小指を絡めて約束の印を交わす。
レオルドは少しヤンチャなところがあるけど、約束はしっかり守れる子だ。
これで、高い魔力を持った人物がいると不審に思われずに済むわ。
今までは不安で街に連れていったことはなかったけど、いつまでも森の中に閉じ込めておくわけにはいかないし……そろそろ、外の世界も教えてあげないとね。
私たちの様子を見守っていたニコラとシンに視線を向けると、2人が同時にコクッと頷いた。
さすが長年の友人。私の考えていることがわかったようだ。
私の考えを理解していつも協力してくれる2人には、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
ありがとう。ニコラ、シン。
2人に笑顔を向けてから、レオルドに声をかける。
「レオルド。明日、一緒に街に行きましょう」
「街!? ほんとに!? いいの? やったぁ〜!!」
「そのかわり、街で魔法を使ってはダメよ?」
「うん! わかった!」
嬉しそうに飛び跳ねるレオルドを、ニコラもニコニコしながら見つめている。
レオルドだけではなく、実は私もここに来てから一度も街に行っていない。
久々のお出かけが楽しみすぎて、顔がニヤけてしまいそうだ。
みんなで一緒に街に行けるなんて嬉しいわ。
……あ! そうだ。
私の分も、魔力を消すネックレスを作ってもらわなきゃ。
一緒に持ってきていたピンク色の宝石がついたネックレスをテーブルに置き、レオルドにお願いする。
「レオルド。この宝石にも同じ魔法をかけてもらっていいかしら?」
「うん! ママのだね。ちょっと待ってて……あれ?」
「?」
宝石に触れて同じ呪文を唱えたけれど、先ほどのように宝石が光らない。
レオルドのキョトンとした様子を見れば、魔法が成功していないことがわかる。
「なんでだろう? さっきみたいにできないよ」
「おかしいわね。何か発動条件があったのかしら?」
2人で再度本を確認すると、最後のほうにあった一文を見逃していたことに気づく。
「あ。この魔法、連続しては使えないのね。意外と魔力を消費するのかしら」
「次できるのは3日後だって。ママ、だいじょうぶ?」
「大丈夫よ。ママにはまだこの魔法紋が残っているもの」
だいぶ薄くなってきてるけど、あと2日くらいは保つわよね。
こんなに楽しみにしているんだし、街に行くのはまた今度……なんて言えないわ。
たとえ魔法紋が消えてしまったとしても、誰かに私の魔力探知をされない限りは何も問題はない。
姿を消して6年。もう死んだことになっている私の魔力を探知している人なんて、いるはずがない。
それに、この近くの街は私たちが住んでいた街からだいぶ遠い場所にある。
かなり田舎だとシンやニコラから聞いているし、たとえ魔力のある人に私が魔術師だと気づかれたとしても、私の顔を知っている人はいないはずだ。
大丈夫。レオルドの魔力がわからないなら、それで十分よ。
たとえ魔法紋が消えても、問題ない。
「約束通り、明日街に行きましょう」




