リュカ様とナディア様の結婚疑惑
リュカ様とナディア様が結婚した――。
その言葉に心臓がドクンと大きく動いた。心に穴が空いたような喪失感に襲われるが、どこか納得してしまっている自分がいる。
ああ……やっぱり。
どうしても、そう思ってしまうのだ。
だって、そのためにナディア様もドーファン宰相も動いていたのだから。
ただ、それが政略結婚だとしても、本人がよく許したなという疑問は残る。
それに──。
「何かおかしいって、どういうこと?」
「それが……本当に結婚されたのかは謎なのよ」
「……え?」
「ナディア様側は、リュカ様と結婚したと周りに言っていて同じ家にも住んでいるそうなのだけど……夫婦で一緒にいるところを誰も見ていないんだって」
まるで怖い話でもしているかのように、ニコラは怯えた表情で声も低くコソコソと話している。
つい、ゾッと背筋が寒くなってしまった。
「それは……討伐で忙しいからではなくて?」
「そうナディア様も言い訳してるらしいんだけど、討伐中じゃないパーティにも夫婦で参加したことがないし、子どももいないし、それに……結婚式にリュカ様が来なかったっていう噂もあるのよ」
「えっ」
結婚式に来なかった!?
1人ポツンと佇む花嫁姿のナディア様を想像すると、さすがに同情してしまう。
もし本当にそんな状態になったのなら、あのプライドの高いナディア様は父親の権力を使って参加者たちに口止めするだろう。
『噂』なのはそういうことだろうと、なんとなく察してしまった。
でも……結婚式に出なかったことや子どもがいないことに、正直安心してしまったわ。
私はひどい女ね。
「私は、2人が結婚したなんて嘘だと思ってるわ! あのリュカ様が、アミーリアを虐めていたナディア様との結婚を認めるはずないもの。きっとドーファン宰相が無理やりさせたのよ」
「……それで、私の家のことはどうなってるの? やっぱり罪人として扱われているの?」
「それが微妙なのよね。証拠が出る前に家は燃やされてしまったし、シュラール家の悪口を言おうものならリュカ様を怒らせるしで、みんな下手なことは口に出せなくなってるみたいなの」
「…………」
「ハッキリ言って、半々といったところだと思うわ。証拠を消すために家を燃やしたと思ってる人もいれば、ドーファン宰相に裏で嵌められたと思ってる人もいる。……もちろん、そんなこと大々的には言えないけどね」
「そう……」
リュカ様のご家族は、私のことをどう思っているのかしら……。
ナディア様との結婚をお許しになったくらいだし、やっぱり私たちが王宮を裏切ったと思われているの?
それなら、なおさらレオルドの存在を知られるわけにはいかない。
ナディア様との間に子どもはいないみたいだし、レオルドの魔力の高さは異常だ。
クラヴェル公爵家の跡取りとして、強制的に奪っていくかもしれない。
魔法で対抗されたら、私に勝ち目はないわ。
ダメ……絶対にレオルドの存在は隠し通さなくちゃ……!
先ほど閉じた本をまた開いて、該当ページを探す。
魔力探知できない魔法、魔力量を少なく見せる魔法、なんでもいい。
何かレオルドを隠すために役立つ魔法はないかと血眼でページをめくっていると、突然「ママ」と呼ばれた。
ふと顔を上げると、いつのまにか目の前にレオルドが立っていた。
「! レオルド。帰ってきたのね」
「うん! ママ、何やってるの? 魔法探してるの?」
「そうよ。魔力が見えなくなる魔法はないかなと思って」
「魔力が見えなくなる魔法?」
キョトンと目を丸くしたレオルドが、少し何かを考えてから本棚のところに向かった。
シンに頼んで、高いところに置いてあった分厚い本を取ってもらっている。
「レオルド?」
「ママ! それ、この本に書いてあったよ!」
「えっ?」
床に本を置いて、ペラペラとページをめくっていくレオルド。
3歳の頃には字が読めるようになっていたレオルドは、私よりもここにある本に詳しいのだ。
「あった! これだよ!」
「見せて」
レオルドが得意げに見せてくれたページには、『身につけることで、魔力探知できなくなる』『宝石にかける魔法』と書かれている。
体に直接魔法の紋をつけるのではなく、宝石を使ってやるのね!
たしかにこれなら複雑な魔法じゃないし、レオルドでもできそう!
こんなとき、5歳の息子を頼らなければならないほど魔力の低い自分が恨めしい。
でも、新しい魔法を試すのが大好きなレオルドは、私が言わなくてもすでにヤル気満々のようだ。
呪文を何度も確認している。
「ママ! やってみようよ!」
「そうね」
お父様から預かった宝石の中に、ブルーのネックレスがあったわ。
あれなら宝石も小さいし、レオルドが身につけてても邪魔にならないはず!
さっそくネックレスを用意し、私はレオルドに差し出した。




