変わってしまったリュカ様の噂
朝食後。私は分厚い魔術書を広げ、目的のページを探していた。
この家には魔術書や魔法薬の本がたくさん置いてあり、私が使えない魔法をレオルドに教えられたのも、ここにある本のおかげだ。
「何を探してるの? アミーリア」
「魔力探知ができなくなる魔法よ。お父様と同じ魔法は私では魔力が足りなくて使えないし、レオルドにはまだ難しいの。他に違う魔法はないかなと思って」
「アミーリアの首の紋章……薄くなってるもんね」
「うん……」
もう貴族令嬢ではないので、この森に来たときからニコラには様呼びも敬語もやめてもらっている。
今は昔のようにただの友人として過ごしているので、とても気楽だ。
「私よりも、レオルドが心配なの。あの高すぎる魔力が、いつか探知されてしまうんじゃないか……って」
「……そうね。それはシンも心配してたわ」
「ええ。それでね、ニコラ。現在のリュカ様のこと……教えてほしいの」
「!!」
私は読んでいた本をパタンと閉じて、向かいに座っているニコラを見つめた。
レオルドとシンは2人で森に遊びに出かけたので、しばらく帰ってこないだろう。
話を聞くなら今がチャンスだ。
ずっと聞くのが怖くて避けてたけど……もうそんなことは言ってられないわ。
レオルドを守るためにも、きちんと聞いておかないと。
「私に気遣って、ニコラもシンもリュカ様の話はしないようにしてくれてたわよね。でも……知っているんでしょう? 今の彼のこと……」
眉をくねらせて困った顔をしているニコラを見れば、何か言いにくい話があるのだろうと予想できる。
それが私にとって良くない話だとしても、今の私なら耐えられるだろう。
今の私にとって何よりも大事なのはレオルドだもの。
どんな話でも、レオルドがいてくれるなら受け止められるわ。
「お願い。ニコラ」
「……わかった」
覚悟を決めたのか、ニコラは「はぁーーっ」と大きく息を吐き出したあと、真剣な表情で私に向き合った。
「アミーリア。リュカ様は……もう、あなたが知っているリュカ様ではないわ」
「え? どういう意味?」
「あなたがいなくなって、彼は変わってしまったのよ」
「…………」
縫い物をしていた布をテーブルに置き、ニコラは寝室から1枚の紙を持ってきた。
街で配られる号外チラシのような紙には、冷たい表情をしたリュカ様の写真が載っている。
いつも笑顔だった彼とは別人のように見えるその写真の上には、本当に彼の記事なのか疑わしい見出しが書かれていた。
「『冷酷魔術師……リュカ・クラヴェル帰還……』? 冷酷魔術師? リュカ様が?」
「そう。今、リュカ様は世間でそう呼ばれているの」
「まさか。彼は誰にでも優しい人よ。冷酷なんて、なぜそんな……」
「記事、読んでみて」
ニコラに優しく促され、本文に目を通す。
そこには、魔獣討伐に成功したもののリュカ様の隊には犠牲者が多いこと。仲間を守ろうとせず、目的遂行のためにだけ動いていること。その件に関して「弱い者が悪い」と話すリュカ様の姿が書かれていた。
これは……本当にリュカ様の話なの?
「ニコラ。どうしてリュカ様は……こんな……」
「……6年前、シュラール家の火事を知ったリュカ様は、すぐにアミーリアを捜したの。もちろん、王宮も罪人としてアミーリアを捜してた。でも、魔力探知ができなかったことで死亡したと判断されたの」
「…………」
この森は街からは離れていて、近くに住んでいる人もいないし集落もない。
あまりにも静かだったから実感はなかったけど、やっぱり自分の捜索は行われていたのかと今になって不安に襲われる。
あの頃は父の死のショックで落ち込んでいたから、私の耳に入らないようにしてくれてたのね……。
シュラール家のその後を調べるため、ニコラやシンは頻繁に街に行って情報収集をしていた。
私に聞かれるまでは、何も言わないつもりでいたのだろう。
改めて2人の優しさに支えられていたのだと実感する。
「アミーリアが死んだとなったあとの、リュカ様の荒れようはすごかったらしいわ。シュラール家を罪人扱いした相手に攻撃したり、王宮の命令に背いて暴れたりしたそうよ」
「…………」
「でも、あるときピタッとそれがなくなった。静かになった代わりに、彼からは以前のような笑顔や優しさが消えた。そして討伐隊に志願して、気分を晴らすかのように魔獣を退治しているって……」
「討伐隊に志願……」
攻撃魔法は、穏やかな彼が1番嫌っていた魔法なのに。
それを自分から望んでしているなんて……。
「あと……1つ、リュカ様について話があるわ」
「何?」
「3年前、リュカ様とナディア様が結婚したわ」
「え……」
「でも、何かちょっとおかしいのよ」




