6年後
家を出て6年後――。
カーテンの隙間から明るい光が漏れはじめた朝方、外から聞こえるヒュンヒュンという音で目を覚ます。
同じ部屋で寝ているニコラを起こさないよう静かにベッドから降りて、目をこすりながら玄関ドアを開ける。
外には剣の素振りをしているシンと、空に向かって魔法を放っている少年がいた。
私とリュカ様の子――5歳の息子、レオルドだ。
「おはよう……。2人とも、今朝も早いわね」
「ママ! おはよう! 見て! この鳥、僕が捕まえたんだよ!」
そう言って、レオルドが嬉しそうに報告してきた。
魔法で拘束された鳥は、羽を広げることができずにおとなしくレオルドに抱かれている。
「あら。また拘束魔法が上手になったんじゃない?」
「でしょ? あんまり痛くないようにしたんだ〜」
「…………」
飛んでる鳥を拘束魔法で捕まえるだけでも難しいのに、さらには力の加減まで……?
この子は、紛れもなくあのエリート魔術師家系であるクラヴェル公爵家の血を引いている――。
この5年の間に、何度それを実感したことか。
髪の色や顔立ちは私に似ているけど、魔力に関しては間違いなくリュカ様の力を引き継いでいる。
「シン。朝からレオルドにつき合ってくれてありがとう」
「別に。どっちにしろ俺も素振りしたかったし」
あいかわらず素っ気ない態度のシンは、持っていた剣を見ながら答えた。
この剣は家の中で見つけたものだ。
古くて錆びていたけど、私の魔法でなんとか使えるくらいに修正し、レオルドの魔法でさらに強力になるようコーティングされている。
この5年でシンもだいぶたくましくなったわね。
まあ、毎日森にいる動物や魔獣と戦っていたら当然か……。
この森で暮らし始めて6年。
貴族とはいえあまり豪華な生活を送っていたわけではない私と、順応性の高い双子のニコラとシンは、すぐにここでの生活に慣れた。
広い畑には薬草以外にも野菜が数種類あり、森の中で動物を狩ることもできる。
お金もあり、どうしても調達が必要なものはシンが街まで買いに行ってくれる。
ニコラとシンが支えてくれている部分が大きいけど、それなりに不自由なく暮らしてこれた。
「ママ! もう1回やるから、今度は見てて!」
「わかったわ」
目を輝かせて空を見上げるレオルドを、微笑ましく思いながら見守る。
この子を妊娠していることに気づいたのは、この森に来て2ヶ月経った頃だろうか。
当時は精神的に参っていたため、月のものがこないことも自分の不調も特に気にしていなかった。
最初に気づいたのは、ニコラだ。
「アミーリア。もしかして、妊娠してるんじゃない?」
その言葉に頭が真っ白になったのを覚えている。
妊娠……? まさか、そんな。という信じられない気持ちが真っ先に浮かんだけど、心当たりはあった。
リュカ様と一度だけ結ばれたあの夜……あの一度の行為で、本当に妊娠したのだとしたら。
「私と……リュカ様の子ども……」
戸惑いはあったけど、産まないという選択肢はなかった。
リュカ様の子どもを宿したと知って、嬉しかった。
罪人として死んだことになっている私は、リュカ様と結婚することはできない。
それなら……せめて彼の子どもと一緒に生きていきたい。
そう思った。
……まさか、ここまで魔力の高い子が産まれるなんて。
魔術師の家系以外から魔力のある子どもが産まれることはない。
魔力の低い夫婦から、魔力の高い子どもが産まれることもない。
もし私の生存とレオルドの存在が知られたら、すぐにリュカ様の子どもだと気づかれてしまうだろう。
そうなったら、私は罪人として殺されて……高い魔力を持ったレオルドは、リュカ様のお家に引き取られる。
でも、引き取られた先でどんな扱いを受けるかわからないわ。
家族としてではなく、ただの使い勝手のいい駒として扱われてしまうかもしれない。
私の息子であることを理由に……。
そんなの絶対にダメよ。
レオルドにつらい思いはさせたくないし、私だってレオルドと離れたくない。
私たちは絶対に見つかってはいけないの……。
そっと、自分の首筋から鎖骨まで広がった魔法の紋に触れる。
これがある以上、私の魔力が探知されることはない。
5年で消えると言われていたこの紋は、レオルドの妊娠中にだんだん色が濃くなったことが理由なのか、6年経った今でもまだ残っている。
出産してからは少しずつ薄くなってきたけど……もしかしたら、そろそろ消えてしまうかもしれないわ。
まぁ、あれから6年も経っているんだし、私は本当に死んだと思われているわよね。
まだ私の魔力を探知している人なんているわけない。
そう、このときは思っていた。
あけましておめでとうございます。
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