ナディア視点②
人を食べる魔女……ですって?
そんな言葉を投げかけてきた子どもを、ギロッと思いっきり睨みつける。
この国の宰相を父に持つ私は、誇れる家柄ではあるものの魔術師の家系ではないため魔法は使えない。
リュカ様の妻の座についた私を妬み、優秀な魔術師の家系であるクラヴェル家には相応しくないと噂されていることも知っている。
そんな私を魔女だと言うことは遠回しの嫌味であり、さらには人を食べる魔女だなんて無礼以外の何ものでもない。
誰がこの子どもにそんなことを教えたの!?
もし本当に私のことをそう言っていたのなら、地下に幽閉してとことん苦しめてやるわ!!
「……あんた、親の名前は? ここで働いてるのは父親? 母親?」
腕を組んで見下すように睨めつけながら尋ねると、子どもは青い顔をしながらも小さく答えた。
「……言わない……」
「言わない? 私はこの家の夫人よ! 私の質問にはしっかり答えなさい!」
「ふじん? 魔女じゃないの?」
「まだそんなことを……っ!!」
子どもの頬を叩こうと手を振り上げた瞬間、クラッと激しいめまいに襲われる。
意識が曖昧になって、立っていることもできない。
何……? 急に……眠気が……。
気がつけば、私はドレスのまま庭に倒れていた。
だんだんと薄れていく意識の中、「ママのなまえは教えないよー!」と言っている子どもの声が聞こえた気がした。
*
「ナディア様! ナディア様!」
「う……」
どれくらい意識を失っていたのか、目を覚ますと数人のメイドが心配そうに私を見下ろしていた。
なぜ今こんな状態になっているのかを思い出し、ハッとして体を起き上がらせる。
「あの子どもは!?」
「それが……私たちが戻ったときには、もう姿がありませんでした」
「なんですって!?」
倒れた私を放置して、逃げた!? なんて子なの!
……でも、それで私から逃げられるとでも思ってるの?
「それで? あの子どもの親は?」
親を呼びに行かせたメイドに視線を送ると、メイドはすぐに地面に膝をついて頭を下げた。
その行動だけで、見つからなかったのだとわかる。
「申し訳ございません! メイド長にも確認しましたが、該当する使用人はおりませんでした!」
「はぁ? どういうこと?」
「現在、子ども連れの使用人は3名しかおりません。ですが、そのうち2名は女の子、男の子は8歳、髪色は黒色とのことで、先ほどの子どもは該当しないそうです……」
「…………」
この家の使用人の子じゃない?
先ほどの生意気なガキは、どう見ても3〜5歳くらいで髪色も明るい茶色だった。
男に見えたけど、かわいらしい顔をしていたし、もしかしたら女だった可能性もある。
あるいは、報告せずにこっそり子どもを連れてる使用人がいるのかも……。
「使用人棟を徹底的に調べなさい! あの中にいる子どもは全員連れてきて!」
「かしこまりました!」
メイドたちが慌てて立ち去ったあと、倒れていた私の様子を確認しにきたのか、クラヴェル家の執事長――セドリックが近づいてきた。
長年ここに勤めているこの高齢の執事は、家族からの信頼も厚く使用人のトップに君臨する人物だ。
さすがの私も、あまり強気で出られない相手である。
「ナディア様。使用人の管理は徹底しておりますゆえ、その子どもが使用人棟から出てくることはないでしょう」
「……それなら、あの子どもは誰だというの? 今日はお客様でもいらしてたのかしら?」
「いえ。本日は誰もあの門をくぐっておりません」
執事長の視線の先には、クラヴェル家の大きな門がある。
結界魔法で覆われたこの家に入るには、あの警備兵で囲まれた門を通るしかない。
誰も来てない?
じゃあ、あの子どもはどこから来たっていうのよ!
「門を通っていないなら、転移魔法で入ってきたということ?」
「いいえ。この家に転移する場合、必ず門の外側に出ることになります。敷地内での転移魔法は、クラヴェル公爵家の血筋の方と、その方の認めた人物しか使えないようにしております」
「じゃあ、あの子どもは親戚の子どもなの?」
「いいえ。クラヴェル公爵家の血筋に、その年齢の子どもはおりません」
イラッ
淡々と私の言うことを否定していくセドリックに、苛立ちが隠せない。
笑顔1つ見せたことのないこの執事長が、私は大嫌いだ。
だったらあの子どもは誰なのよ!!
否定ばっかりしないで、さっさと捜してきなさいよ!!
家の中に見知らぬ子どもがいたというのに、セドリックは焦った様子がない。
私の前で混乱している姿を見せたくないのか、そんな子どもはどうでもいいと思っているのか――。
わからないけど、こんなに捜せと言っている私の前で落ち着いているなんて不愉快すぎる。
まったく!! どいつもこいつも!!!
あのガキも……今度見つけたら、ただじゃおかないわ!!




