ナディア視点①
ああ……すべてが腹立たしいわ。
邪魔な女を始末して、やっと念願のリュカ様と結婚できると思っていたのに……!
宰相である父親の権力を使い、時間はかかったけどなんとかリュカ様の新しい婚約者になることができた。
初めて会った日に一目惚れをしてから、私はずっと彼と結婚して彼の子どもを産むことを夢みてきた。
今はまだ私に冷たい視線を向ける彼も、そのうち本気で私を愛するようになるはず――そう信じていた。
だって、あんな男爵家の薬草女なんかを婚約者に選んでいたのよ!?
冷静になれば、私のほうがいい女だと気づくはずよ!
しかし、彼は何も変わらなかった。
婚約の話は進むものの、婚約式はなし、結婚式は不参加、婚姻の正式な手続きもしてくれない。
同じ家に住んではいるけど、一緒に食事はおろか顔を合わせることもない。
ただ住む家が変わっただけ――そんな関係が、もう3年以上も続いている。
「まずい! こんなまずい紅茶をよくも私に出したわね!!」
「申し訳ございませんっ! ナディア様!」
ガチャンと派手にティーセットを割り、メイドの頬を引っ叩く。
みんな根性がなくすぐに辞めてしまうため、もう何人目のメイドかわからない。
クラヴェル家に文句を言われないよう、メイドの手配はすべて父にお願いしている。
本当に使えないヤツばっかり!!!
もっと私を気遣いなさいよ!!
夫婦として会食やパーティーに参加することもできない。
かといって、今さら離婚したと周りに言うのもプライドが許さない。
どうにもできないこの生活の中で、私が少しでも充実して過ごせるよう尽くすのがメイドの仕事だ。
結婚式にリュカ様が来なかったこと……口止めしたのに噂になってるらしいし、お茶会にも参加できないわ。
なんとか既成事実を作って子どもを産まないと……!
ずっとそれを狙っているのに、リュカ様は滅多に家に帰らないし、帰ってきた日も私だけ部屋に近寄れない魔法をかけている。
私が自らこの家を出ていくのを望んでいるのだろうけど、そうはいかない。
離婚歴なんてつけたくないし、あんないい男を他の女に渡したくない!!
たとえ一生このままだとしても、周りに『捨てられた女』と思われることなくリュカ様を独占できる今のほうがいい。
生活にはなんの不自由もないのだ。
あの天才魔術師リュカ様の妻という肩書きがあるだけで十分だ。
でも……せめて子どもさえいれば……!!!
そんな苛立ちを抱えながら庭に出ると、どこからかコソコソと話す声が聞こえてきた。
拙い喋り方とやけに高い声で、まだ小さな子どもだとすぐにわかる。
「ねぇ、人を食べる悪い魔女はどこにいるの?」
子どもの声?
なんでここに子どもが……。
1年ほど前から、子どもを見るだけで動悸がするようになった。
子どものいない私への当てつけなのかと、子連れの使用人を激しく叱咤して、私がいる時間は絶対に子どもを外に出すなと命令を下した。
そのためか、やけに慌てた様子のメイドの声も聞こえてくる。
「悪い魔女? そんなのいないわ! それより、使用人棟から出てきたの? この時間は棟から出てはダメって言われているでしょう? 遊ぶなら、棟に戻ってから遊びなさい」
「魔女いないの? お出かけしてるの?」
「魔女はいないのよ! それより、ここで遊んだらダメだってば! 早く戻って! もしナディア様に見られたら……」
そこまで聞こえたところで、2人の前に姿を現す。
驚愕したメイドの横には、まだ3歳くらいの男の子がキョトンとした表情で立っていた。
「あら。私に見られたら、何?」
「!! ナディア様……っ!」
「……この子どもは?」
ジロリと子どもを睨みつけると、子どもはビクッと肩を震わせたあとに私を指差した。
怯えた表情をしながらも、口に出した言葉は――。
「……人を食べる魔女?」
「はぁ?」
元々不快だった状態から、さらに苛立ちが増したのがわかった。
頭に血がのぼり、動悸が激しい。
この湧き上がる感情を吐き出すように、私は近くにいたメイドの頬を思いっきり引っ叩いた。
「今すぐ、この子どもの親をここに連れてきなさい!」




