レオルドの爆弾発言
「…………」
「アミーリア。昼食できたわよ」
「あ。ありがとう、ニコラ」
次の日。庭で1人ブツブツ言っているレオルドを見守っていると、昼食準備を終えたニコラが声をかけてきた。
レオルドは少し離れた場所でこちらに背を向けているため、ニコラの声は聞こえていないようだ。
昼食ができたという声に反応することなく、黙々と何かを続けている。
「シンが戻ってきたら昼食にしましょ。薬を届けるだけだから、きっとそろそろ帰ってくるわ」
「そうね」
「ところで……レオルドは何してるの?」
私の視線の先に気づいたニコラが、小声でコソコソと問いかけてくる。
パッと見ただけでも、今のレオルドの不自然さがわかったらしい。
「……さあ。いつもみたいに魔法の練習をしてるみたいなんだけど、背中を向けてるから見えないのよね。近づくとやめちゃうし……」
「何それ。何か変な魔法でも使ってるんじゃないの?」
「うーーん……私も最初はそう思ったんだけど、特に周りになんの変化もないのよね。覚えてる呪文を復唱してるだけなのかしら?」
魔女を攻撃する魔法でも覚えたのかと心配したけど、静かに動物と戯れてるだけなのよね……。
レオルドの魔力で攻撃魔法を使ったら、間違いなく光線が出たり大きな音がするし、周りの木だって倒れたりするはずだもの。
ずっと見守っているけど、今のところ森の小動物たちを撫でたりご飯をあげているだけのように見える。
何か変なことを企んでいるんじゃないか……と疑っていたけど、ただの杞憂だったのかもしれない。
そんなことを考えていると、シンが戻ってきた。
「あ。シン、おかえり。ダリィおばさんは大丈夫だった?」
「うん。でもまだ微熱があるみたいで辛そうだったよ」
「そう……。あの薬で完全に治らなかったなら、普通の風邪ではないのかしら……」
「あの集落、ダリィおばさんの他にも熱出した人がいるみたい。明日街に行って、何か病が流行ってないか確認してくるよ」
「そうね。お願いするわ」
私たちの会話が終わったタイミングで、ニコラが「じゃあ、昼食にしましょ!」と声をあげ、シンと2人で家の中に入っていった。
私も、大きな声でレオルドを呼ぶ。
「レオルドーー! ご飯にしましょう!」
「……うん!」
こちらに走ってくるのを確認して、私も家の中に入る。
すでに座って待っていたニコラの隣に腰を下ろし、レオルドが座りやすいよう椅子を引いてあげたとき……レオルドがドアの前で立ち止まった。
「レオルド? どうしたの?」
隣にいるニコラ、前に座っているシンも、不思議そうにレオルドを見つめる。
レオルドはモジモジと自分の手をいじりながら、気まずそうに呟いた。
「ママ、ごめんね……」
「え?」
その瞬間、グラリと激しいめまいに襲われた。
視界がぐにゃぐにゃになり、瞼が重く意識が遠ざかっていく。
何……? 目を……開けていられな……。
そこで、私の意識は完全に途切れた。
*
「アミーリア。起きて」
「う……ん……」
肩を揺さぶられていることに気づき目を開けると、前に座っていたはずのシンが無表情のまま私を見下ろしていた。
どうやら、私はテーブルに突っ伏したまま寝てしまっていたらしい。
外はまだ明るいので、あまり長い時間寝ていたわけではなさそうだ。
「あれ? シン……私、なんで……」
「レオルドが魔法で私たちを眠らせたのよ!」
「えっ!?」
ニコラの叫び声で一気に目が覚め、ガバッと体を起き上がらせる。
シンの背後には、腕を組んで仁王立ちしているニコラと、椅子にちょこんと座って肩をすぼめているレオルドがいた。
私が起きる前に、すでにニコラに叱られたようだ。
「レオルド! 私たちを眠らせたって本当なの?」
すぐに立ち上がり近くに行くと、レオルドは目を泳がせながら「うん……」と小さく答えた。
悪いことをしたとわかっているのか、非常に気まずそうで全然目を合わせてくれない。
まあ! 薬も使わず魔法だけで3人同時に眠らせるなんて、上級魔術師しかできないのに!
さっきは庭でその練習をしていたのね!
……って、そんなことに感心してる場合じゃないわ!
「どうして、そんなことを?」
「あのね。ぼく……魔女をやっつけに行ったの」
「……え?」
魔女? ……って、ナディア様のこと?
行ったって、どういうこと? まさかクラヴェル公爵家に?
え? リュカ様のところに転移したわけじゃないわよね?
グルグルといろいろな疑問が頭を飛び交い、何を最初に聞けばいいのかわからない。
口をポカンと開けたまま黙ってしまった私に、レオルドが先に尋ねてきた。
「ねぇ、ママ? とってもこわーーい女の人がいたんだけど、その人魔力がなかったの。魔女なら、魔力がないと変だよね? もしかして、ぼくみたいに隠してるのかなぁ?」
「!?」
魔力がなくて怖い女性? それは……間違いなくナディア様ね。
え? 会ったの? レオルドは、ナディア様に会ったの?
冷静に物事を考えている自分と、激しい動悸で倒れそうになっている自分がいる。
私は声を震わせながらも、できるだけ落ち着いた様子でレオルドに問いかけた。
「レオルド。まずは……どうやって魔女のところに行ったのか、説明してくれる?」




