怪しい動きをするレオルド
「……レオルド。何を探しているの?」
「えっ」
魔女の話をした次の日。
レオルドは、寝室の床に何冊もの魔法書を広げてパラパラとページをめくっていた。
目の動きとページをめくる早さを見れば、何かの魔法を探しているのが丸わかりだ。
「べっ、べつに何もさがしてないよ!」
「……じゃあ何をしてるの? そんなに早くページをめくったら、本が読めないわよ?」
「えっと……本をめくって遊んでるの!」
「…………」
レオルドったら……私に隠し事?
表情や声で、嘘をついているのはバレバレだ。
でもレオルドが隠し事をするのはめずらしいので、嘘に気づかないフリして話を合わせてみる。
「そうなのね。でも、本でそんな遊び方をしたらいけないわ。大事にしないと。遊びたいなら、外で遊びましょう?」
「あ。えっと……ぼく、その……」
「ん?」
「今は、本を見ていたいの! 本が好きなの! だから……だから……ママはあっち行ってて!」
「!」
グイグイと背中を押されて、寝室から追い出されてしまった。
鍵がないのにガチャッという音が聞こえたので、どうやら魔法でドアが開かないようにしたらしい。
そこまでして私に見られたくないなんて、嫌な予感しかしない。
……まさか、魔女対策用の魔法を探しているんじゃないわよね?
昨日、私はハッキリと「魔女の前で魔法は使わないで」と伝えた。
一応「うん」という返事はもらったけど、レオルドの納得いっていない不貞腐れた顔を思い出し、不安になってくる。
どうしよう……。
私が怯えたせいで、余計にレオルドが魔女へ対抗心を燃やしてしまっていたら……。
もう一度しっかり話し合う必要があると思い、ドアをノックしようとしたとき――キッチンにいるニコラに呼ばれてしまった。
「アミーリア!」
「……何? ニコラ。今、ちょっと……」
「ダニィおばさんが高熱を出して寝込んでいるらしいの! シンが野菜届けに行ったら、うまく返事もできない状態らしくて……」
「! 大変! すぐに薬を作るわ!」
ダニィおばさんとは、街と森の間にある小さな集落に住んでいる年配の女性で、この辺の土地や街についていろいろ教えてくれたり、出産のときにたくさんお世話になった方だ。
シンに頼んで、たまに野菜や薬を届けてもらっている。
レオルドとの話はまた今度だわ。
高熱なんて……大丈夫かしら。早く解熱薬を作らないと!
「アミーリア。どのくらい時間かかるかしら?」
「材料は揃ってるから、調合するだけよ。すぐできるわ!」
「わかったわ。アミーリアの薬を飲めば、熱はすぐ下がるから安心ね」
「でも、早く届けてあげないと……!」
私の作る薬は、薬草に自分の魔力を足した魔法薬だ。
魔力なしの薬よりも効果を出せる分、魔法薬は市場ではそれなりの高値で売れる。
でもそれは私が魔術師であることを証明してしまうため、こうして仲の良い人にだけこっそり普通の薬として渡している。
「もうすぐできるわ。ダニィおばさんの様子も見たいし、私もシンと一緒に行ってきてもいいかしら?」
「ダメよ! 薬には魔力が残ってしまうんでしょ!? 薬を運ぶときは、アミーリアは一緒に行かないって約束じゃない」
「でも、街までは行かないし……。あの集落には魔力を探知できる人はいないわ」
「ダメダメ!! たまたま寄った遠征中の騎士団や商人たちに、薬を見られる可能性だってあるんだから!」
うっ……そうよね。
この薬が魔法薬だって気づかれたら、誰が作ったんだって調べられちゃうもの。
私が生きてるのがバレるんじゃないかって、心配してくれてるのよね。
「わかったわ」
「はぁ……まったく。アミーリアは、薬のことになるとすぐ自分を疎かにするんだから」
「ごめんね。気をつけるわ」
ダニィおばさんにこの薬が効くのかしっかり確認したかったけど、ここはシンに任せたほうがよさそうだ。
私は作った薬を小瓶に入れて、シンに手渡した。
「もし5分以上経っても何も変わらなければ、すぐに教えて。あと、咳の仕方とか喉や体に痛みはないかとか、話ができたら聞いてきて」
「わかったよ」
「念のため、他にも薬を作っておくわ。よろしくね。シン」
「うん」
無表情のシンは、私から薬瓶を受け取るなり颯爽と森の中を駆けていった。
感情がわかりにくいけど、マイペースなシンがあんなに全力で走るなんて、彼なりにダニィおばさんを心配しているのがよくわかる。
よし! じゃあ、ダニィおばさんはシンに任せて……私は他の薬を作らなきゃ!
***
「…………ん?」
ふと気がつくと、私は真っ暗な部屋の中で寝ていた。
大量の薬作りに疲れて、レオルドを寝かしつけながら一緒に寝てしまったらしい。
どっちが先に寝たのか覚えていないくらい、記憶が曖昧だ。
久々にたくさん魔力を使ったからなぁ……。
レオルドはちゃんと寝てるかしら…………あれ?
隣を見ると、ニコラが気持ち良さそうにスヤスヤ寝ていた。
間で寝ているはずの、レオルドの姿がない。
「レオルド!?」
どこに!? まさか、またリュカ様のところに……!
慌てて立ち上がろうとしたところで、寝室のドアがカチャ……と静かに開いた。
やけにコソコソした様子のレオルドが、私を見てビクッと肩を震わせている。
「わっ、ママ!? 起きてたの!?」
「レオルド! どこに行ってたの?」
「え? っと……お、お水のんでた!」
「……そう」
どこか不自然な態度だけど、とにかくレオルドがここにいることにホッと胸を撫で下ろす。
レオルドはあまり会話をしたくないのか、「じゃあ、ぼく寝るね!」と言ってササッと布団に潜り込んだ。
……何かおかしいわね?
隠れてイタズラでもしてたのかしら?
まぁ、詳しいことは明日聞けばいい――そう思いながら、私もまたベッドに横になった。




