リュカ視点②
……誰だ?
深夜目を覚ますと、隣に見知らぬ子どもが眠っていた。
目に涙を浮かべてはいるが、スヤスヤと深い眠りに落ちているようだ。
「…………」
使用人の子どもか?
この家には、住み込みで働いている使用人も多い。
使用人用の別邸があるため、なかなか子どもがこの本邸に入ってくることはないはずだが、今は深夜だ。
何かの間違いで、迷って入ってきてしまった可能性はある。
……ある、か?
わざわざ使用人用の棟を出て、本邸に入り、3階にある俺の部屋に間違って入り、俺のベッドに入り、俺の隣で寝る???
もし本当にそんな状態になったのだとしたら、この子どもは一度医者に診てもらったほうがいいと思う。
それくらい考えられない状況だが、実際ここで寝ているのだからどうにかしなければならない。
……起こすか。
それにしても、子どもが入ってきたことにすら気がつかないとは――。
そんな自分に呆れつつ、俺は子どもの肩に触れて軽く揺さぶった。
「ねぇ、君。起きて」
「んーー……」
「ここは君の部屋じゃないよ」
「んえ……?」
何度か瞬きをしながら、子どもはゆっくりと目を開けた。
ボーーッとした様子で俺を見て、またパチパチと瞬きを繰り返す。
くっきりとした大きな目の、可愛らしい顔をした男の子だ。
「起きた? 君、この家の使用人の子か? ママの名前は?」
「んん……? ママ……? ママは……」
寝ぼけながらそう呟いた瞬間、子どもはパチッと目を見開いて勢いよく飛び起きた。
やっとハッキリ目覚めたらしい。
まあ、起きたら知らない男がいるんだ……驚くのも当たり前……。
「わ、悪者!!!」
「は?」
思わず、子どもに向かって本気で睨みつけてしまった。
勝手に人のベッドに入ってきておきながら俺を悪者呼ばわりするとは、なんて失礼なヤツなんだ。
「まだ寝ぼけてるのか? ここは俺の部屋だ。勝手に入ってきたのは君だろう?」
「……ぼく、なんでここに……」
「覚えてないの?」
「うん……」
夢遊病というやつか?
やはり医者に診てもらったほうがいいんじゃないか?
「はぁ……。とにかく、君は自分の部屋に帰れ。このことは俺から君の親に報告しておく。君の母親はメイドか? 名前は?」
「ぼ、ぼくのママに近づくな!!」
「は?」
またまた顔が引きつり、ジロリと子どもを睨みつけてしまう。
迷惑を被っているのは俺だというのに、なぜこんなにも悪者扱いされなければいけないのか。
頼まれたって、アミーリア以外の女になんか近づくか!
「あのな。いい加減にしろよ? 俺はお前の母親の雇い主だぞ。口の聞き方に気をつけろ」
「うるさいっ! ママにひどいことしたら、ぼくが許さないぞ! 悪者め!!」
「…………」
だめだ。会話にならん。さっさと追い出そう。
なぜか、戦うようなポーズをして俺を睨み返してくる子ども。
理由はわからないが、俺が自分の母親を狙っていると勘違いしているようだ。
どうしたらそんな考えになる?
母親がそんな話でもしているのか?
もし本当にそうだとしたら、あのナディア・ドーファンが黙っていないだろう。
ただのクビで済むとは到底思えない。
「おい。滅多なことを口にするな。お前のママがどうなっても知らないぞ」
「! ぼ、ぼくのママに何する気!?」
「さあな。この家には恐ろしい魔女がいるから、その魔女に食べられるかもしれないな」
「!!!」
あっさり信じたのか、子どもはショックを受けた顔で部屋の中をキョロキョロと見回している。
この部屋にその魔女がいないか、確認しているようだ。
フン。これだけ脅しておけば、もう変なことは言わないだろう。
俺は子どもを持ち上げるなり、スタスタと部屋の外に連れ出した。
まだ薄暗い廊下にポイッと放り投げ、一言だけ声をかける。
「もう二度とここに来るなよ」
バタン!
返事も聞かないままにドアを閉め、またベッドに戻る。
しかし、その途中でまだ母親の名前を聞いていなかったことを思い出した。
……しっかり報告してやらないとな。
「おい。お前の母親の名前は……」
そう言ってもう一度ドアを開けると、すでに子どもの姿はなかった。
長い廊下の先にも、歩いている音どころか気配すらしない。
……もう帰ったのか? やけに早いな。
子どもの足でそんなに早く歩けるものなのか。
不可解な点はあるが、追いかけて確認するほど気になるものでもない。
「はぁ……。なんだったんだ、いったい」




