悪夢
リュカ様が私を捜してる?
「レオルド。リュ……その悪者は、この近くにいるの?」
「ううん。遠いところ……悪者のお家にいるよ。でも、ずっとママの魔力を捜してるんだ。もう少しでママの魔力に触っちゃいそう……! こわいよ、ママ」
「…………」
レオルドは涙をポロポロ流しながら、力いっぱい私に抱きついている。
まるで、リュカ様の魔力が私に触れないよう守っているようだ。
レオルド……リュカ様の魔力を感じて、こんなに怯えているのね。
また私がいなくなってしまうんじゃないかって不安で……。
でも、魔力からそんなこともわかるものなの?
魔力の低い私は、実際に会ってみないと相手に魔力があるかどうかわからない。
遠くにいる人の魔力は感じられないのだ。
それに、リュカ様やレオルドのような高すぎる魔力は別として、その人の魔力が高いかどうかも区別がつかない。
離れた場所の魔力を感じられるどころか、その魔力の動きもわかるなんて、なかなかできることではないと思う。
やはりレオルドはクラヴェル公爵家の血を引いているのだと、嫌というほど思い知らされる。
とにかく、今近くにいるわけではないのね。
よかった……。
私はレオルドを強く抱きしめ、その愛らしいおでこに優しくキスをした。
サラサラの髪の毛をゆっくり撫でながら、頬をくっつける。
「大丈夫よ。レオルド。ママはここにいるわ。ネックレスもつけてるし、悪者には見つからないわよ」
「……ほんと?」
「ええ。今日はずっとレオルドと一緒にいるわ」
「うん! 約束だよ!」
やっと震えが止まったのか、レオルドがいつもの笑顔を見せてくれる。
この笑顔を守るためなら、私はなんだってできる。
でも、レオルドがここまで怯えるほどリュカ様の魔力探知がすぐそこまできてるのね。
このネックレスだけで、隠れ続けることができるのかしら……?
体に直接つけた魔法紋に比べて、魔法を込めたネックレスのほうがどうしても能力が弱くなってしまう。
でも、この魔法をかけたのはレオルドだ。
普通の魔術師がかけた魔法より、何倍も強力なはずだ。
レオルドの高い魔力が、この距離でもわからないくらいだもの……私の少ない魔力なら、余計に見つかるはずはないわ。
大丈夫……大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、この日は極力レオルドのそばを離れないように過ごした。
落ち着いたと思ったレオルドに異変が起きたのは、その日の深夜だった。
突然の叫び声に、私とニコラは一瞬で目が覚め飛び起きた。
「だめーーーーっ!!!」
「…………っ! レオルド!?」
私とニコラの間で寝ていたレオルドが、シーツを掴んでバタバタと手足を動かしている。
目は閉じたままで私たちの声にも反応しないので、どうやら寝ている状態らしい。
「だめ!! こっち来ちゃだめ!!」
「悪夢でも見てるのかしら!? 起こしたほうがいいわよね!?」
「ええ! レオルド! 起きて!」
私とニコラで体をゆすってみるけど、レオルドは全然起きそうにない。
夢の中で何かと必死に戦っているのか、ずっと険しい顔をしている。
「レオルド!!」
「だめ!! 悪者はあっち行け!!」
「!!」
悪者!?
もしかして、リュカ様の魔力のせいで悪夢を!?
「レオルド! 大丈夫よ! 起きて!」
「ママに……ママに……近づくなーー!!!」
「きゃっ」
一瞬の眩しい光。
つい閉じてしまった目を再び開けたとき、もうそこにレオルドの姿はなかった。
「……レオルド?」
「そんな……! レオルド! どこ!?」
ベッドの上はもちろん、部屋の中や外、シンも起こして家中を捜したけど、レオルドはどこにもいない。
あんなに叫んでいた声も、まったく聞こえない。
レオルド……! どこに行っちゃったの……!?
そう不安に駆られていながらも、頭の片隅では1つの可能性が浮かんでしまっている。
とても考えたくない、そうであってほしくない、そんな可能性が――。
レオルドは、リュカ様の夢を見てた……。
リュカ様の魔力を感じて、それに抗ってた。
もし……もし、その魔力を感じたまま無意識に転移魔法を使ってしまっていたら?
「……レオルドは、リュカ様のところへ行ってしまったのかも」




