アミーリアの本音
「……今度は何を探しているの? アミーリア」
次の日。
朝からまた分厚い魔術書をパラパラめくっている私に、寝起きのニコラが声をかけてくる。
私は魔術書から目を離さないまま、その問いに答えた。
「家を隠す方法よ。この森の中を歩いてても、この家が見つからないようにしたいの。例えば大きな魔法の円で家を覆うとか!」
「……それ、私たちもその円から出たら家がわからなくなるんじゃない?」
「……あ」
たしかに!
ニコラの冷静な指摘に、私はページをめくる手を止めた。
呆れたように笑いながら、ニコラが私の隣に座る。
「リュカ様に見つかるんじゃないかって、不安なのね」
「ええ。近くの街は知られてしまったし、いつこの森の中を捜索されるか心配で……」
「たしかにあの街で見つかったけど、リュカ様はあの街がどこかわかってないんじゃない? アミーリアの魔力を探知してきただけですぐ消えちゃったし、街の場所や名前まではわからなかったと思うんだけど」
「……あ」
たしかに!
先ほどとまったく同じやり取りに、私は自分のバカさ加減に頭を抱え、ニコラはクスクスと笑っている。
あまりにも焦りすぎて、きちんと頭が働いていなかったみたいだ。
ニコラの言うとおりだわ!
初見の街に一瞬来ただけで、そこがどの街かなんてわかるはずないわよね。
「アミーリアは薬学に関しては博識だけど、それ以外はたまに天然が出るわよね」
「……お父様にもよく言われたわ」
「ふふっ。……ねぇ、アミーリア。昨日はシンもいたし聞けなかったんだけど、アミーリアは今でもリュカ様が好きなの?」
「…………え?」
楽しそうに笑っていた顔から一転、真面目な顔になったニコラは、少し遠慮気味に問いかけてきた。
「気になってたの。アミーリアはここに帰ってきてホッとしてたし、レオルドが見つからないように対策を考えてるけど……あなた自身の気持ちは、どうなのかなって」
「私の、気持ち?」
「うん。本当はまだ好きで、できれば結婚したいと思ってるの?」
「…………」
ニコラは、私がどれほどリュカ様のことを好きだったか知っている。
だから今彼から必死に身を隠そうとしている私を見て、私が自分の心に逆らっているんじゃないかと心配してくれているのだろう。
「……6年ぶりに会ったリュカ様は、私の知ってる彼とは違ったわ。強引で、どこか冷たいところもあって、少し怖かった」
「そう、なのね」
「うん。でも……正直、まだ好きという気持ちは残ってるわ」
「!」
強引にキスされたり、監禁されたり、私に近づく男性は殺すと言われたり……リュカ様のこと、怖いと何度も思った。
昔と変わってしまったこと、悲しいと思った。
でも……私への愛を一途に伝えてくれる彼を、6年経っても信じてずっと捜し続けてくれた彼を、本気で愛していた彼を、嫌いになんてなれるわけない。
私だってこの6年、彼のことを想い続けていたんだもの……。
「でも、それでも私は彼から逃げようと思う。今1番大切なのはレオルドだから」
「アミーリア……」
そんな話をしていると、庭からレオルドの呻き声が聞こえてきた。
その苦しそうな声に、私とニコラが椅子から立ち上がった瞬間、レオルドを抱いたシンが家の中に飛び込んでくる。
「アミーリア! レオルドが!」
「うう……っ。うううーー……」
「レオルド!?」
頭をおさえて唸っているレオルドに声をかけると、涙目になったレオルドが「ママ!」と言って抱きついてきた。
体がガタガタ震えていて、顔も真っ青になっている。
「レオルド!? どうしたの!?」
「ママ……ママ……」
私の服をギュッと握りしめながら、泣いているレオルド。
具合が悪いというよりも、何かに怖がっているように見える。
どうしたの? こんなに怯えたレオルド、初めて見るわ。
シンも心当たりはないらしく、私と目が合うなり首をフルフルと横に振った。
さっきまでは楽しそうな声が聞こえていたので、突然この状態になったようだ。
「レオルド……?」
優しく包み込むように抱きしめながら、静かに名前を呼ぶ。
レオルドはガタガタと震えたまま、小さな声で呟いた。
「ママ……。悪者がママのこと捜してる……。ママの魔力に触ろうとしてる……」
「!」
「ママ……見つかったらまた連れていかれちゃう……!」




