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あなたの子どもだと隠し通します〜ヤンデレ化した天才魔術師様が私を諦めない〜  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売


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愛しい婚約者と、嵌められた家


「リュカ様!」



 魔法陣の光が消えるなり、リュカ様が私のもとに駆け寄ってきた。

 心配そうに下がった眉を見れば、なぜ突然彼がうちに来たのかわかる。




 ナディア様が来たって、誰かに聞いたのね。




「アミーリア! 大丈夫!?」


「大丈夫ですよ」



 ニコラと同じように、リュカ様も私に傷がないかジロジロと確認してくる。

 以前私が叩かれていることをメイドたちが伝えてしまったため、ナディア様の暴力についてご存じなのだ。

 リュカ様は悔しそうに顔を歪めたあと、グッと拳を握った。



「……今すぐ文句を言いに行きたいところだが……アミーリアと結婚するまでは……」


「私は大丈夫ですから」


「悪いな……こんな思いをさせて」


「いいえ。リュカ様と結婚するためなら、どんなことでも耐えられます」



 私の言葉に、リュカ様が泣きそうな顔で微笑む。

 婚約をしてからずっと、それだけを望んで2人で耐えてきたのだ。今ここで台無しにするわけにはいかない。




 ここで問題を起こしたら、それを理由に婚約解消させられてしまうもの……。




 私たちは、今すぐ結婚することができない。

 ナディア様の父親であるドーファン宰相の計らいにより、教会の許可が下りないのだ。

 魔術師の中でも、優秀なクラヴェル公爵家と未熟なシュラール男爵家との婚約をよく思っていない貴族は多い。

 そんな貴族を味方につけ、ドーファン宰相は私たちの結婚を邪魔し、婚約を破棄させようと裏で動いているのだ。



「今、父と教会に抗議しているところだ。もう少しだけ待っていてくれ」


「ええ。もちろんです」



 私の頬に添えられていた手に、自分の手をそっと重ねる。

 温かいリュカ様の手に触れた瞬間、あの夜のことがブワッと脳裏に浮かんだ。

 大雨で帰れなくなり、一緒に泊まったホテルでの……初めて結ばれたときのあの生々しい映像が──。



「……あっ」



 2人同時にそう呟くなり、お互いパッと同じタイミングで手を離す。

 リュカ様の顔が少し赤くなっているけど、きっと私の顔も真っ赤になっていることだろう。




 私ったら、こんなときに何を思い出して……!




 いつの間にか少し離れた場所に移動していたニコラが、私たちの反応を見てニヤ〜と笑ったのが見えた。

 あの夜のことは話していないけど、鋭いニコラのことだから察していたのかもしれない。

 少しだけ気まずい沈黙が流れたあと、リュカ様が口を開いた。



「あ……っと、じゃあ、俺はそろそろ仕事に戻るから……」


「え、ええ。心配してきてくださり、ありがとうございました」


「また何かあったらすぐに俺に言ってね。じゃあ……また、あとで」


「ええ。また」



 ニコッと爽やかな笑顔を残して、リュカ様はまた移動魔法を使ってパッと姿を消した。

 まさか……この挨拶を最後に、彼に会えなくなるなんてこのときは思ってもいなかった──。






 その日の夜。

 私はニコラとその双子の弟シンと一緒に、薬剤を調合しながら談笑していた。

 シンはニコラとは違って、寡黙でおとなしい。

 運動神経がとても良いので、使用人の仕事をしながら鍛練をこなし、将来は騎士になることを目指している。



「今日シンが取ってきてくれたこの薬草、とっても珍しいものよ。お父様も驚くわ!」


「崖を登ってたら、たまたま生えてるのを見つけた」


「ふふっ。珍しい植物を見つける天才ね。ただ、崖を登っていたなんて……危ないわ」


「これくらい余裕」



 淡々と無表情で答えるシンに、ニコラが「ちゃんと気をつけなさいよ!」と怒っている。

 私と同じく母親のいない2人。シンを怒っているニコラの姿は、まるで子どもを躾ける母親のようだ。



「お父様もそろそろ帰ってくる頃ね」



 今日は大量の治癒薬を持って王宮に行くと言っていた。

 今作ってある薬を全部持ってこいという命令を受けたらしいけど、こんなにたくさん買い取ってくれるなんてありがたい……そう感謝をしていると、玄関ホールで叫ぶ父の声が聞こえた。



「アミーリア!!」


「!」



 切羽詰まったような必死な声に、3人ですぐに顔を合わせる。

 何か良くないことでもあった──そう察したときには、3人で玄関ホールに向かって走り出していた。



「お父様! どうかしましたか!?」


「ああ……アミーリア……。すまない……もう、この家はおしまいだ」


「……え?」



 ほんの数時間前に会ったというのに、父は20歳は老けたかと思うほどにやつれてしまっている。

 げっそりとした様子の父は、私の腕をガシッと掴み、震えながら嘆きの声を出した。



「嵌められたんだ……ドーファン宰相に……。この家は……潰される……」

 


新連載始めました!

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