リュカ視点③
ナディア・ドーファンがまた婚約の申し込みをしてきた――そう俺に報告した執事は、呆れた様子で尋ねてきた。
「さすがに数年空けてきましたね。シュラール家のことと無関係であることを示すためでしょう。……どうされますか、リュカ様?」
あの女と結婚などするわけない。
そんなことわかりきっているはずの執事が、わざわざ俺に確認してくる理由。
それは、簡単には断れない話だということだ。
「賛成しているのは誰だ?」
「クラヴェル公爵家以外の魔術師の家系、すべてです」
「……そうか」
やはり、みんなシュラール家の二の舞を恐れている。
ここで反対したなら、次は自分の家が潰されると思っているのだろう。
全部の家を敵に回すとなると、あとあと面倒だな……。
俺はアミーリアの生存を確信している。
あと数年もしたら、アミーリアはまた俺の元に戻ってくるはずだ。
そのときクラヴェル公爵家が孤立した状態だと、のちに俺の妻になるアミーリアに苦労をさせることになってしまう。
アミーリアと結婚するためにも、ここはあの女との婚約を受け入れる必要があるな。
なんとも矛盾した行動だが、今はそうするのが無難だろう。
結婚の際、反対してきた者を俺の力で黙らせることは簡単だが、そんな状態で結ばれることをアミーリアは望まないはずだ。
それに、ここで魔術師全員を敵に回すと両親にも迷惑をかけることになる。
「婚約は受け入れる。この家に住むのも許可してやる。だが、結婚はしないし俺があの女に触れることも絶対にない。あの女がいつまで耐えられるのか、静かに見守るとしよう」
「……かしこまりました。婚約のお話を受けると、ご両親にお伝えしておきます」
「ああ」
こうして俺は、あの女との偽りの結婚を許可した。
プライドの高いあの女が、俺と結婚したと言いふらすことは容易に想像できたが、どうでもよかった。
周りにどう思われようが、関係ない。
アミーリアが現れるまでは……自由にさせてやる。
その前にあの女が我慢の限界を迎え、俺に愛想をつかして家から出ていけばいいのに――そう願っていたが、あの女の執着は思っていた以上のものだった。
結婚式にも出ず、夫婦として外に出ることもなく、触れることも会話すらもないこの生活を、あの女は3年も耐えている。
離婚したと言いたくないだけなのか、いつかは……と期待しているのか、その本心は知ったところではないが。
いくら待っても無駄だ。
アミーリア以外の女など、カケラも興味はない。
もし本当にアミーリアが死んでいたとしたら、そのときは容赦なくあの女と父親を殺すだけだ……。
そんなことを考えながら、毎日アミーリアの魔力を探した。
きっともうすぐ、彼女の魔力を感じられると信じて。
そうしてアミーリアの失踪から6年後――とうとう、その魔力を探知することができた。
懐かしく愛しいその魔力を感じた瞬間、俺は隊長として参加していた討伐隊の会議中だったにも関わらず、転移魔法を使い彼女のもとへ向かった。
アミーリア……!!
パッと到着した場所は、見たこともない街だった。
あまり栄えてはいない田舎の街だとひと目でわかる。その街中に、俺の目の前に、驚いて目を丸くしたアミーリアが立っていた。
服や髪など少し印象が変わっているが、昔と変わらない美しいアミーリアを前にして、俺の凍っていた心が溶かされたような感覚になる。
「アミーリア……。本当に、君なのか……?」
生きていると信じていたとはいえ、見つけるまでに6年もかかってしまった。
その間、本当は父親と一緒に死んでしまったのではないかと、何度も不安に押し潰されそうだった。
今目の前にアミーリアがいることが、奇跡のように思える。
よかった……本当によかった……!
こんなにも温かい気持ちに包まれたのはいつぶりだろうか。
こんなにも幸せを感じられたのはいつぶりだろうか。
アミーリアがいるだけで、俺はこんなにも満たされる。
もう二度と、君と離れたりなんかしない。
君は……俺のものだ。
「……やっと見つけた。もう、離れない」




