リュカ視点②
ただの興味から本気で好きになるまで、時間はかからなかった。
俺が初めて好きになった女の子、アミーリア。
彼女に会うために、数ヶ月の勉強期間が過ぎたあとも俺はシュラール男爵家を訪ねた。
いつでも笑顔で優しく歓迎してくれるアミーリア。
そんな彼女への初めてのプロポーズは、家柄が相応しくないからという理由で断られてしまった。
家柄? そんなの関係ない。
俺と結婚するのは、アミーリア以外考えられない。
俺自身が嫌いじゃないなら諦めない……!
何度断られても、諦めず何度も何度も説得しながら婚約を申し込んだ。
もちろん俺の両親の許可は得ているし、シュラール男爵も賛成してくれている。
あとはアミーリアが受け入れてくれるだけだ。
「リュカ様のご両親が了承されているのなら……。よろしくお願いします」
「…………っ!」
アミーリアとの婚約が成立したあの日のことは、きっと一生忘れないだろう。
これからは幸せなことばかりが待っていると、本気で信じていた。
……あの女が現れるまでは。
ナディア・ドーファン。
ドーファン宰相の娘で、同年代の令嬢たちを仕切っていると噂される気の強い女だ。
彼女に逆らえる令嬢はいないと聞いたことがある。
その女からの婚約を断り、男爵家のアミーリアと婚約を結んだことが気に障ったらしい。
俺たちの婚約発表後、ナディアからアミーリアへの執拗な嫌がらせが始まった。
「ナディア様は嫌がらせの件をリュカ様に知られたくないようですが、ドーファン宰相がわざとリュカ様の耳に入るよう仕向けております」
そう執事から報告されたとき、俺はドーファン宰相の狙いに気づいた。
「俺がナディア嬢に何か訴えたり攻撃させるようにしているのか?」
「おそらく。それを理由に、リュカ様に責任を取らせナディア様と結婚させる策略なのかと」
「…………はぁ」
思わずため息が漏れてしまう。
なんとも単純で浅はかな方法だが、あの宰相ならそんな些細な理由さえあればあとはどうにでもできてしまうのだろう。
とにかく、俺やアミーリアを責めるための『理由』がほしいのだ。
アミーリアは慎ましく心優しい女性だ。
どんなにひどいことをされても、ナディア嬢に反撃したり暴言を吐いたりなどしないだろう……。
だから、俺の怒りを引き出そうとしているのか。
正直、今すぐナディア嬢のところに行き、アミーリアに与えた倍の痛みをその体に刻みつけ、二度と俺たちの前に現れないよう禁術である呪いの魔法をかけてやりたい。
しかし、そんなことをしたらアミーリアとの婚約を破棄されるどころか、俺は投獄されるだろう。
アミーリアと結婚できなくなるのも、会えなくなるのも嫌だ。
彼女とまず結婚するのが先だ。
結婚さえしてしまえば、あいつらの邪魔も終わるだろう。
もう少し。もう少しの辛抱だ。
アミーリアの失踪は、そう2人で耐えていた矢先のことだった――。
……やはりあのとき、ナディア嬢を消しておけば。
アミーリアがいなくなってから、俺の心はどんどん暗く沈んでいった。
誰にも見られない場所であの女を始末しておけば、こんなことにはならなかったのに。
俺なら、きっとそれができただろう。
そんなことばかり考えて、あの女をこの世から消すという選択肢がなかったあの頃の自分を、俺はずっと責めている。
「シュラール家がまさか毒を盛るとはな!」
「魔力の低い家のくせに、クラヴェル公爵家に嫁ごうなんて身の程知らずなことをするからバチが当たったんだ」
そんな噂話を耳にするたび、二度と口にできないよう攻撃魔法を仕掛け暴れ回った。
アミーリアには攻撃魔法が苦手だと伝えていたが、人を傷つける行為も、人が大怪我をしようとも、俺はなんとも思わない。
アミーリア以外の人間が死のうが、俺にはどうでもいいことだ。
アミーリアに会いたい……。
4年……たった4年の辛抱だ。
そう思っても、アミーリアを奪われた恨みは心から消えることなどなく、日に日に増していくばかりだった。
そんな気分を晴らすため、討伐隊に志願し魔獣退治に追われている頃――とうとう、あの女が動いた。
俺との結婚を求め、ナディア・ドーファンから再度婚約の申し込みがきたのだ。




