リュカ視点①
アミーリアが死んだ。
アミーリアの家――シュラール男爵家で作られていた薬には毒が仕込んであり、王族殺し未遂の罪で監査団が動いた。
しかし、証拠を消そうとしたシュラール男爵が娘や家もろとも全て燃やし、自害した――という話だった。
……そんなわけない。
それが、話を聞いた俺の最初の感想だった。
シュラール男爵家が、王族に背き薬に毒を仕込んでいた?
……ありえない。
シュラール男爵が、証拠を消すために娘を殺した?
……ありえない。
そんな、誰もがわかるくらいの簡単な話だというのに、シュラール家の味方をしている貴族はほぼいなかった。
シュラール家の裏切りを信じているわけではない。
みんな無実だとわかっていながら、それを口に出さないようにしているのだ。
ドーファン宰相……まさか、ここまでするとは。
アミーリアの死を信じているわけではないが、彼女が姿を消したのは間違いない。
どこにも彼女の魔力がないのだ。
おそらく、魔力探知できない魔法を使って身を隠しているのだろう。
今見つかれば、投獄は避けられない……最悪、即処刑もありえる。
それなら、このまま見つからずに隠れていてほしい。
だが、それは俺も彼女に会えないということだ。
俺にだけは居場所を伝えてほしいと思うものの、薬学に関する魔法以外は苦手な彼女にとって、それは難しいことだとわかっている。
まさか、こんな卑怯な手に出るとは……!
シュラール家に罪を着せ、自ら死を選ぶほどに彼女の父親を追い詰め、アミーリアを危険に晒した。
俺から彼女を奪ったドーファン宰相への怒りで、我を忘れそうだ。
もしこれでアミーリアの死体が出てきたなら、間違いなく俺はドーファン宰相とナディアを殺してしまうだろう。
まだ彼女が生きていると思うからこそ、なんとか理性を保てている。
魔力探知不可の魔法……おそらく、彼女の父がやったのだろう。
アミーリアの魔力は母親譲りで、父親は彼女より魔力が高かった。
……とはいえ、男爵家だ。4年か5年で、その魔法も効果がなくなるはずだ。
「4年も……アミーリアに会えないのか……?」
俺とアミーリアが初めて出会ったのは、6歳の頃だ。
当時いろいろな魔法に興味を持っていた俺は、治癒魔法や魔法薬学に長けているシュラール家を訪ねた。
数ヶ月、勉強させてもらうだけのつもりだったが――いつしか、俺の興味は魔法薬よりもアミーリアに向いていた。
「アミーリア!? どうしたの、それ!?」
「あ。リュカ様いらしていたのですね」
いつものようにシュラール家に到着すると、庭には顔やドレスを汚し、傷だらけになったアミーリアが立っていた。
馬車から落ちたのかと疑うほどの状態だというのに、アミーリアはケロッとした様子で自作の薬瓶を運んでいる。
「そのケガはどうしたの!? 大丈夫!?」
「はい。問題ありません。これから、自分の薬がちゃんと効くのか確かめてみるところです」
「え? ……アミーリア。もしかして、そのケガは自分で……?」
「はい。薬の効果を早く確かめたくて」
「…………」
にっこりと満面の笑みで答えるアミーリアを、呆然としたまま見つめる。
そんな俺の様子には興味ないのか、アミーリアはウキウキしながら裏庭に向かって歩いていった。
家の中で試さないのは、きっとわざとケガしたことを父親に知られたくないからだろう。
……薬を試したいからって、自分を傷つけるなんて。
好奇心旺盛で、勉強熱心で、変わっている女の子。
それがアミーリアの印象だった。
魔術をもっと知りたい、極めたい。
そう自分のためだけに魔術の勉強をする俺とは違い、アミーリアの勉強はすべて他人のためだった。
両親の仕事を手伝いたい。ケガをした人、病気になった人を少しでも多く救いたい。
そんな気持ちで、彼女は魔法薬の勉強をしているのだ。
その努力を誰にも見せることなく、自分の体を犠牲にしてまで。
……すごい。かっこいい。
周りから魔術の腕を褒められ、天才と言われていた俺が初めて尊敬の念を抱いた人物――それがアミーリアだった。




