昔と変わらない憎い女
ナディア様の声……!
6年ぶりに聞いた金切り声に、ドクドクと鼓動が速くなる。
見つかってしまうのではないかという緊張なのか、父の仇という憎悪からなのか、体が固まって動かない。
「何かないの!? 女がいた痕跡は!」
「……!」
女がいた痕跡?
リュカ様の浮気を疑っているの?
ガサゴソと部屋の中を漁っている音が聞こえる。
誰かに話しかけているということは、きっとメイドか誰かを連れてやってきたのだろう。
声を聞くだけで、イライラしているのが伝わってくる。
「いつもはなかなか帰ってこないくせに、ずっと家にいるなんておかしいわ。部屋に誰か連れ込んでいるんじゃないの!?」
「リュカ様に限って、そのようなことは……」
「黙りなさい! 私の言うことが間違ってるって言うの!?」
バシッという音が聞こえ、ナディア様がメイドを叩いたのだと想像がつく。
6年経っても、彼女は昔と何も変わっていないようだ。
なんて理不尽な……。
でも、言ってることはたしかに間違ってないわ。
実際にリュカ様は私を部屋に監禁しているわけだし。
監禁されているのは困るけど、それでナディア様がこんなにも苛立っているのなら悪くないと思えてしまう。
私の父を死に追いやったナディア様には、幸せになんてなってほしくない。
ナディア様に魔力はないけど、メイドはどうかしら?
……この部屋が見つかることはないわよね?
クラヴェル公爵家で働くメイドなら、それなりの魔力があってもおかしくない。
それでも余程高い魔力でない限り、あのリュカ様の魔法は解けないだろう。
「私と結婚していると知っていながらリュカ様に近づくなんて……。見つけたら地下に連れて行って鞭打ちの刑にしてやるわ!!」
「……ナディア様。特に誰かいた形跡はありませんが……」
「そんなはずないわ! 夕方帰ってきてから朝まで部屋から出ないなんて、絶対におかしいもの!」
バタン! ガチャン!
激しく暴れている音がしばらく続いたあと、一気に静かになる。
部屋中を漁り終わったのに、何も見つからなかったのだろう。
悔しそうなナディア様の舌打ちが聞こえた。
「チッ! この部屋、ちゃんと綺麗にしておきなさい! 私が入ったことは言うんじゃないわよ!」
「かしこまりました」
……なんだか、昔の私とナディア様の関係そのものね。
嫌な記憶が甦り、気分が悪くなる。
部屋の片づけを終えたメイドが出ていき、やっと隣が静かになった――そう思った瞬間、床に魔法陣が浮かび上がる。
「!」
リュカ様!?
いつもより早い帰宅にビクッと肩を震わせる。
しかし、その転移魔法で現れたのはリュカ様ではなかった。
背が低く、クリッとした大きな丸い目がとても可愛い男の子――レオルドだ。
「レオルド!?」
「ママ!!」
レオルドは私を見つけるなり、ガバッと勢いよく抱きついてきた。
ギューーーーッと力いっぱい抱きしめてくるので、私も同じように強く抱きしめ返す。
それに満足したのか、レオルドは顔を上げて私を見つめた。
「えへへ。やっぱりママだぁ」
「……レオルド。どうしてここが……」
「ママの魔力がずっとあったから」
魔力がずっとあった?
もしかして……私の魔力探知をしてここに転移魔法を?
魔法陣のある場所への転移ならともかく、人の魔力を探知してそこに転移するのは難易度が高い魔法だ。
5歳のレオルドにそんな高度の魔法が使えたのかという驚きと、なぜ私の魔力がわかったのかと疑問が湧く。
私の魔力は、レオルドが生まれてからずっと探知できなかったのに……。
まさか、あの魔法紋が消えた瞬間にすぐ察知したの?
いろいろ聞きたいことがあるけど、ここはリュカ様の家だ。
いつ彼が帰ってくるかと思うと、怖くてゆっくり話している時間はない。
「レオルド、聞いて。ママは拘束されていてここから逃げられないの。逃げても、魔力探知されてまたすぐに見つかってしまうわ。だからあなた1人でニコラたちのところに戻っ……」
「だいじょうぶ! ニコラとシンと一緒に作戦たてたから!」
「作戦?」
「ほら!」
「!」
そう言ってレオルドがポケットから出したのは、私のピンク色の宝石がついたネックレスだ。
魔力探知できなくなる魔法をかけるつもりだったけど、連続して魔法をかけられなかったために置きっぱなしにしていたものだ。
あの日から3日経ってる……まさか……。
「これに魔法かけたから、もう見つからないよ! ママ、早くつけて!」




