再会
「リュカ……様?」
「アミーリア……。本当に、君なのか……?」
突然現れたリュカ様は、ゆっくり私に近づいてきた。
私の顔や髪、体を確認するように上から下まで見たあと、そっと私の頬に触れる。
頭が真っ白になってしまった私は、微動だにせずその場にただ立っていることしかできない。
どうして……リュカ様が……。
どうして? と思いながらも、頭の片隅ではその答えがわかってしまっている。
リュカ様は、ずっと私を捜していたのだ。
6年経った今でも、私の魔力探知を続けていたのだ。
「会いたかった……アミーリア……」
そう呟きながら、泣きそうに顔を歪めるリュカ様。
あの紙に書いてあった冷酷な魔術師の姿など、そこにはなかった。
私の知っている、思いやりのある優しいリュカ様だ――そう思った瞬間、リュカ様の瞳から光が消えて、空気が闇に包まれた。
「……やっと見つけた。もう、離れない」
「え……」
その言葉を最後に、自分の意識が遠のいていくのがわかった。
足に力が入らず、倒れかけた私をリュカ様が支えてくれる。
完全に意識を失う直前、リュカ様の背後でこちらを見ているニコラの姿が見えた気がした。
*
「ん……」
どれくらい気を失っていたのか。
目を覚ますと、そこは見覚えのないベッドの上だった。
大きさ、ふかふかな感触、肌触りの良いシーツで、貴族の使う高級なベッドだということだけはわかる。
「ここは……?」
陽が落ちたのか、部屋の中は薄暗くてよく見えない。
それでも、家具や部屋の広さでどこかのお屋敷の一室だということはわかる。
ここはどこ? リュカ様は……いない。
部屋の中には私だけだ。
周りに誰もいないとわかって、ホッと息を吐く。
私、リュカ様に連れてこられてしまったの?
レオルドは……ニコラたちは、どうしてるの?
まさか、魔法紋が消えた瞬間にリュカ様が現れるとは思っていなかった。
あの場にいたのが私1人だったからよかったものの、もしレオルドと一緒にいたら危なかった。
レオルドの姿を見られなくてよかったと思う反面、私だけどこかに連れてこられてしまった事実に不安になる。
どうしよう……ここはどこ?
リュカ様は、なぜいきなり私をここへ……。
みんなが心配しているはず。早く家に帰らなくては。
そう思ってベッドから降りようとしたとき、自分の足の異変に気づいた。
足首に、金色の光の輪っかがついている。
……え? これ……レオルドが鳥に使っていた拘束魔法?
異変は、それだけじゃない。
服も先ほどまで着ていた服とは違い、真っ白のワンピースに着替えさせられている。
何これ……まさか、全部リュカ様が?
拘束魔法がかけられているとはいえ、足は動く。
その状態のままベッドから降りて少し歩いてみると、数歩ほどで足が動かせなくなった。
部屋の扉までは全然届かない位置までしか行けないようだ。
逃げられないようにされてる……?
監禁――という言葉が頭に浮かび、ゾッと背筋が凍る。
私が使える魔法をいくつか試してみたけれど、拘束魔法が外れる気配はない。
「そんな……」
「無理だよ。それは俺の魔法だ。簡単には外せないよ」
「! リュカ様!」
扉が開く音なんてしなかったのに、気づけば背後にリュカ様が立っていた。
優しい口調で顔も笑っているのに、どこか怖く感じてしまうのは……拘束されているからなのか。
「裸足だと床が冷たいだろう? ほら、ベッドに行こう」
「!」
そう言って、リュカ様が私を抱き上げてベッドに連れていく。
そのまま優しくベッドの上に下ろすなり、リュカ様は私の顔をジッと見つめた。
「まさか、本当に生きていたなんて。君の父親が、君を一緒に殺すとは思っていなかったけど……やっぱり思ったとおりだ」
「あの、リュカ様……。急にあんなことになって、申し訳ございませんでした」
「君のせいじゃないよ。すべてはドーファン宰相や、それを手伝った魔術師たちのせいさ」
「!」
リュカ様は、やっぱりすべてをわかってくださっていたんだわ。
自分たちを信じてくれたことに、感謝の気持ちが湧き上がる。
それと同時に、ずっと何も伝えられずにいたことを申し訳なく思う。
「私のこと、何も伝えられずに……すみませんでした」
「身を隠すためだったんだ。仕方ないよ。ただ……俺にだけは、言ってほしかったけどね」
「そう……ですよね。本当にすみません……」
「謝らなくていい。君が生きていてくれたなら……それでいいよ」
「リュカ様……」
愛おしいものでも見るように、優しく私を見つめるリュカ様。
昔と変わらない温かい彼の姿。
でも、その彼に拘束されている今の現状がうまく結びつかない。
えっと……私、逃げられないようにされてる……のよね?
「リュカ様……この拘束魔法、外していただけませんか?」
「どうして?」
「どうしてって……私、家に帰らないと」
「家に帰る?」
その瞬間、ニコニコしていたリュカ様が急に真顔になった。
声も低くなって、異様な圧を感じる。
こんな冷めきった表情のリュカ様を見るのは初めてだ。
「家に誰か待っている人でもいるの? まさか、男?」
「え? い、いえ……」
たしかに男といえば男だけど、なぜかそう答えてはいけない気がする。
ビリビリとした嫌な空気に、手が震える。
何……? 怖い……。




