表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/66

第六話 たった一つの正しい決着

 多くの天魔族が見守る中、変わらず胡散臭い笑顔を顔に貼り付けた【ヴァロナ・アマイモン】が一人前に歩み出てゆく。そんな姉の背後に向かって妹【オイレ・アマイモン】が言う。


「あれ? ヴァロナ姉さま? 私の固有権能で決着させるんじゃないの?」

「いやいや……、今回は下がってて。とりあえず俺自身のアピールが必要なんでね」

「え~~!」


 不満そうに頬をふくらませる妹をその場において、警戒して武器を構えるメディア配下の天魔族の眼前へとヴァロナは立った。


「ヴァロナ……、貴方――」

「ヴァロナさん?!」


 ヴァロナに、憎々しげなメディアの声と、心配そうな総司の声が同時に聞こえてくる。その声に変わらない笑顔で返してから、眼前の天魔族たちに言った。


「俺ってば、昔から後方支援しかしてないし、ほぼ現場でなかったから。そこのスース以外……俺の【固有権能】知らないだろ?」


 その言葉に、安全のために背後に控えていた兵員輸送要員【スース・マルティム】が目を見開いた。


「あ! みんな!!」

「ごめん……遅いよ。仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)……」


 そう言ってヴァロナは、いつの間にか手のひらに忍ばせた金貨を指で空へと弾いた。


「このコインが地面に落ちるまで……」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七姫将(てんまななきしょう)、ヴァロナ・アマイモン】


固有権能行使(リミットブレイク)ってな?」


【system LOGOS:――固有権能・神脚疾走(Whirlwind)】


 その瞬間、空へと向かう金貨がその場に停止する。いや、かなり遅い速度で上昇はしていた。

 ヴァロナは首からネクタイを外すとそれを拳に巻いて、その拳で数回ジャブを打った。


「ごめんねみんな……。今のうちに全力でボコるけど、後で根に持たないでねw」


 ――そして――。


 キン!


 地面に金貨が落ちた瞬間、ヴァロナの目前に立っていた天魔族たち七名――、後方に控えていた、スース、メディア、キルケの三名を除いた全員が背後へと吹き飛んで倒れる。

 呆然と見つめる周囲をよそに、ヴァロナは地面の金貨を拾って、そして胡散臭い笑顔をメディアに向けた。


「やっぱ戦士は頑丈だね? こっちは殴り疲れてるのに気絶しないんでやんの……。俺みたいな非戦闘員は前線に立つべきじゃないな、やっぱ……」


 そのヴァロナの言葉通り、地面に倒れていたメディア側の天魔族戦士たち三人は、いきなり受けた打撃に呻きながらも意識を保って立ち上がる。――が、術師三人や盗賊は完全に意識を喪失して動かなくなっていた。


「でもまあ、初仕事としてはなんとか及第点かな?」


 ヴァロナはそう言って後ろに控える総司に笑いかけた。



◆◇◆



 魔王城周辺の四箇所に、メディア配下の部隊が展開している。そしてその中心付近に小さな駆動音をたてた人間大の機械があった。

 その姿を確認した各魔王城部隊は、メイド兵部隊それぞれ30姫ほどを前衛にして前進を開始した。それを認めたメディア軍側はすこし困惑の表情で、しかし武器を構えて迎撃の構えをとった。


「まさか……、立ち向かってくる? 奴らの主力であるメイド兵は、こちらの専門兵科に比べて戦力としては明確に下。キルレシオは三対一にもなるはずだぞ?」


 北部部隊の指揮官の一人。拳に炎を纏った【アリファ・マルコシアス】がそう呟く。

 その北部第一部隊は、 魔剣士、重装槍士からなる戦士兵科10姫、各種術師及び弓兵という遠距離火力要員各10姫づつ、そして機動的に使用される戦力である騎兵6姫たちを、先程の【アリファ・マルコシアス】と、目の下にクマのある黒髪魔女【モルテ・ビフロンス】が従えていた。

 それに対し、魔王城軍天魔七十二姫、真紅の槍を構えた重装槍士【チェルナ・フラウロス】を先頭に、起術従機使い【カミーラ・パイモニア】と獅子系獣人である弓兵【ジュビア・ヴィネ】相対する。


 東部第二部隊は、兵士に関しては第一部隊とほぼ変わらず、手に銀の鈎爪を装備した、赤い隈取の顔をした茶髪ロングの女性【アウィス・ストラス】と、骨の龍蛇を体に巻き付けた、銀髪金眼で頭に二本角が生えた大人の女性【ドラコー・ブーネ】が、静かに迫る魔王城軍を睨んでおり――、

 黒いフルプレートアーマーに黒い馬上槍を持ち、更には黒いバーディングを纏った黒馬に跨った騎馬騎兵【クーニュ・エリゴス】が、こちらも黒い魔剣を所持した【ムート・キマリス】と目隠れエルフ娘【キコーニア・シャックス】を伴ってメディア軍を睨み返していた。


 西部第三部隊もまた兵士に関しては第一部隊とほぼ同じで、自身の身長程もある巨大戦鎌を手にした悪魔娘【ファルチェ・フォーカス】と、その身に雷を纏った、頭部に鹿のような角が生えた有翼人【トゥルエノ・フルフル】が談笑しながら魔王城軍待ち構え――、

 それに対して、オドオド娘【ヴール・アミィ】を先頭に、【ナハシュ・オティウス】【ヘレス・ラウム】という盗賊二人、そして戦列弓兵【リェレン・レライエ】が侵攻を開始していた。


 そして――、


「え? ちょ……」


 巨大な騎獣である重装戦熊の背に乗った熊娘【シオン・プルソン】が青い顔で彼方を眺めて呟く。その隣に立つ銀髪の猫娘――、腕から先を剣の形状の氷塊で覆った少女【マオ・プロケル】も、絶望に満ちた表情で同じものを見ていた。

 ここ南部拠点は、装置に重要機器が設置されているがゆえに、他の部隊より多めに兵士が割り振られている。が――、


「なんでわざわざここに来る……」


 二人の娘は怯えきった表情で、遥か彼方を悠然と歩み来るプリメラ・ベールを見つめた。

 その表情は遠くて伺い知れないが、何故かその二つの輝く瞳の光が二人の眼に届いていた。


「あの、ええと……」


 兵士たちが心底困った表情で指揮官二人を見る。そんな彼女らに向かって二人は涙目で叫んだ。


「いや! やるしかないじゃん!! どうしろっていうの!! ねえマオ!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……、許してください(涙目)」


 ――その姿はあまりにも哀れであった。



 そうして、戦いの火蓋は切られた――。

 北部第一部隊において最初のそれは起こる。


「「「仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)!」」」


【【【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】】】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列64番、チェルナ・フラウロス】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列9番、カミーラ・パイモニア】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列45番、ジュビア・ヴィネ】


「「「固有権能行使(リミットブレイク)!」」」


 その言葉を、アリファたちは呆然として聞いた。


「え?」


 第一部隊の誰かがそう呟く。――その瞬間、まさしく決着が起こった。


【system LOGOS:――固有権能・真紅流星(Crimson Ray)】

【system LOGOS:――固有権能・双極起動(Dual Overdrive)】

【system LOGOS:――固有権能・滅嵐破陣(Destruction Arrow)】


 チェルナがその手の短槍をやり投げの構えに持ち変える。そして裂帛の気合とともに、メディア軍中央部アリファたちが待つ方角へと超高速で投げた。そうして放たれた槍は、真紅の光線と化して巨大な衝撃波をまといながら直線前方へと走り抜けた。そのまま、敵部隊の一部がその指揮官や土煙とともに宙を舞う。

 無論、それでは終わらず――、カミーラに従う二機の起術従機()()()()()()()が、もはや物理法則を無視したように超高速で無軌道飛行しながら、周囲にそれぞれ炎と吹雪の嵐を纏って敵部隊を蹴散らし始める。

 そして――、静かに魔力を貯めていたジュビアの弓から矢が放たれて、敵部隊へ到達する瞬間矢を核とした暴風と雷撃の嵐が広がり、一直線に敵部隊と地形をまとめて地ならししていったのである。

 そのまま戦場が沈黙する。

 辛くも意識を保っていた兵士たちは、その場に座り込んで迫る魔王城軍を見つめた。



 北部方面から聞こえる轟音に事態を察知した東部第二部隊指揮官アウィスとドラコーは、前方に迫るクーニュたちを睨む。その視線を受け止めながら先頭のクーニュが背後にいるムートとキコーニアに言った。


「あの連中の()()()()は特殊効果、特殊地形効果系だから、君たちはいざというときまで下がってて」

「わかった!」「はい……」


 その返事を聞いたクーニュが頷いて最前線に一騎で立つ。敵軍指揮官が慌てて兵に号令を送ろうとするが――、それは遅い判断だった。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列15番、クーニュ・エリゴス】


固有権能行使(リミットブレイク)


【system LOGOS:――固有権能・黒騎進軍(Black Cavalry Advance)】


 その瞬間、クーニュの周辺に同体である騎兵群が出現する。それは全てで数十騎にも及ぶ騎兵隊である。その意志は統一されて全く同じ動きを見せる。


「黒き戦陣よ――、突貫しすべてを蹴散らせ……」


 その瞬間、その騎兵全軍が総突撃を駆ける。それをアウィスとドラコーは苦しげな眼で見つめて叫んだ。


「ドラコー! 固有権能は?!」

「無理だ! 私のではあの騎兵突撃を抑えきれないよ!!」


 そう叫ぶ間にも、騎兵の黒波は前方の味方兵士を蹴散らして迫ってくる。もはや二人はその場から逃げるしか道はなかった。



 そして――、西部第三部隊でも――。


「ちょっと! こんな話聞いてないよ?! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って……」


 ファルチェがそう叫びながら手の戦鎌を振り回す。

 彼女らはこの状況を想定していなかった。まさか攻撃的な固有権能を同族に対して打ってくるなど考えていなかった。

 まさか()()が可能なほど新任魔王が成長しているなど――、【キルケ・アスモダイオス】は言っていなかった。

 魔王権能の()()を正しく習得した魔王種は、配下天魔族が致命傷を受けて死亡する確率を低くする事ができる。

 【天魔族が戦いで死ににくい】というのはそういうことであり、自分たちが正しく魔王種の庇護下にある証であった。


 そんな事を考える彼女の耳に、聞き覚えのある絶叫が聞こえてきた。


「やってやるやってやるやってやるやってやるやってやるやってやるぅうううう!!! ひひゃははははははあはははは!!」


 その絶叫の主をファルチェとトゥルエノは冷や汗をかきつつ見た。


「ひひゃあああああああ!! もえろもえろもえろ灰燼とかせええええええええ!!」


 叫ぶのはもちろん【ヴール・アミィ】である。その背後に控えるほか三人は()()()()()()ながら少し引いた感じで苦笑いしている。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)ぅうううううう!!」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列58番、ヴール・アミィ】


固有権能行使(リミットブレイク)ぅううううああああああああ!!」


【system LOGOS:――固有権能・炎槍震撃(Hellfire Road)】


 そのままヴールは、その手の槍をその身の周囲で縦横無尽に旋回させて紅炎を纏わせる。そうして槍舞を終えた後に炎を灯した穂先を目標へと向けた。その瞬間――、


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン……!!


 槍が示す方角へと、巨大な爆炎が一直線に炸裂し始めた。

 その直線上広範囲爆裂に多くの敵部隊が巻き込まれて宙を舞う。


「あ……オワタ――」


 ファルチェとトゥルエノは、逃げ場もなくただ静かに自身の破滅が迫って来るのを待った。ただなるべく痛くないといいな……と、だけあまりに無茶で無理な願いを思いながら。



 戦況を魔王城バルコニーで眺めながら【ケロナ・アグレアス】は言う。


「まあ……念の為に後一押ししておくよ」


 その手に持った眼のような装飾のワンドを胸に抱いて、そして静かに呟く。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)……」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列2番、ケロナ・アグレアス】


固有権能行使(リミットブレイク)……」


【system LOGOS:――固有権能・万騎同心(Spirit Union)】


 その瞬間、戦場の味方戦力の精神が繋がって、それぞれの部隊としての動きが、高度な統一感と連携速度を獲得した。

 もはやそれぞれ一つの戦獣と化した各部隊は、残存兵力を素早く確実に蹴散らしていったのである。



 ――最後に。


「あ……、やぱり終わりそうな気配が……」


 涙目でそう云うシオンと、それでも最後の意地で立ち向かう南部第四部隊。しかし――、


「あああああ!! 当たらない!!」


 自身の周囲に数えるのも億劫になる無数の氷弾を召喚しつつ、それをひたすら不規則蛇行で奔り迫ってくるプリメラに放ち続けるマオであったが、仲間の術師や弓兵などとの連携でも全く掠りもしていなかった。

 まさに襲い来る猛獣の如き雰囲気で迫るプリメラに恐怖を感じながらシオンは呟く。


「あ……まずい。師匠の固有権能の有効範囲に……」


 ――全ては遅かった。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)……」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列1番、プリメラ・ベール】


固有権能行使(リミットブレイク)……」


【system LOGOS:――固有権能・一刃破軍(Massacre Blade)】


 そのまま走りながらプリメラは、その手の長剣で華麗な剣舞を舞う。その間にも一切の攻撃術は命中しなかった。

 そして――、その長剣の切っ先を鞘に当てて、そのまま収めた。


 ドン!


 その瞬間、展開していた南部第四部隊全員の身に、一様の斬撃跡が生まれてそのまま血を吐いて倒れ伏した。

 そして呻きながらもはや動けぬ敵の中央を突破して、そのまま目標である機械へと振り返ることもなく走っていったのである。

 なんとか意識を保っていたシオンは、涙目でそれを見送るほかなかった。


「ほら……みろ……。負けたし……。ガク……」


 そうして南部の戦場は静かになった。



◆◇◆



 黙って戦いを見守るヴァロナたちの目前では、残った三姫の天魔族戦士たちと、ルーチェ、オラージュ、レパードの三姫が相対して切り結んでいた。メディアによる各種戦闘バフを受けつつ戦う相手に対し、一段ほど実力が下がるレパードを除いて、ほか二人はそれでも相手の動きを圧倒して、今にも戦闘を決着させつつある。その様子を少しだけ心配そうに眺めつつヴァロナの妹・オイレが姉に質問をした。


「姉さま……、なんでさっき、一番にメディアさんとキルケさんを狙わなかったんです? 姉さまならば当然出来ましたよね?」

「ふむ、いい質問だが……、俺にも話せないことはあるんだ」

「え? 私にもですか?」

「そのとおりだよ妹よ……」


 そう云うヴァロナは、メディアたちの背後で静かに成り行きを見守る【キルケ・アスモダイオス】を覗き見る。

 その視線が不意に繋がり――、そして、キルケは自嘲気味に微笑んだ。

 その表情を見て、その意味は自分の考えた通りだろうとヴァロナは理解する。


(そいうえば……、キルケよ。アンタの固有権能の詳細を知るのは、直接見たことのある俺と魔王様だけだったな。要はそこのお前の妹(メディア)も知らない話だ。要するに……、メディアが追い詰められているこの状況は、アンタの望んだ通りに進んでいるってことだ……)


 ――なぜなら。


(アンタが本気で妹の行動を後押しするならば。そもそもアンタがこうして出てきた時点で終わってんだよ。()()()()()()()()だからな……アレは)


 静かにヴァロナはため息を付いた。


(アンタはマッドな科学者だが……、大嘘つきだ――。未だに妹に対して”()()()()の固有権能を持っていること”も”姉妹として正しく愛してるってこと”も言ってはいない。まあ言ったとしても()()()()()()は信じないだろうし……。お互い困った話だな()()()()()……)

 

 ヴァロナの視線の先――、キルケは静かにメディアを見る。メディアはただ必死に怒りに任せて配下に号令を放ち続ける。その光景を――、()()()()()()()()()()()()()妹の姿を見て、静かにそして悲しそうにキルケは見守り続けた。



◆◇◆



 そして――、オラージュたちの前にメディア配下の三姫は跪いた。荒い息を吐き――、傷ついてもはやマトモな戦闘は不可能であった。それを苦渋の視線で見つめるメディア。そんな彼女にキルケは言った。


「ああ……、ダメだなこりゃ。設置した機器が軒並み破壊されてる。このままならこの会議室に相手の仲間がなだれ込んでくるなぁ……」

「く……、お姉様――! 何をそのように笑っているのですか!!」

「仕方ないじゃん……。まあ負けだねワタシらの……」


 おどけた様子で両手のひらを上にして首をふるキルケに、メディアは一瞬怒りの眼を向けてそのまま総司を睨んだ。総司がその眼を見返して言う。


「もうやめにしましょう……。これ以上は――」

「いいえ……、まだですわ」


 そう言ってメディアは、自身の胸に手を当てた。それをみてキルケが静かに言う。


「これ以上は悪あがきだぞ? まさかこの狭い会議室でお前の固有権能を撃つつもりか?」

「……()()()()のキルケお姉様は黙っていてくださいますか?」

「……」


 その言葉に黙ってキルケは俯いた。

 その様子に、ルーチェが黙って前に出る。その背中に総司が慌てた様子で言う。


「まさかルーチェさん?!」

「……小僧――、コイツは決着を望んでいる。今それが出来るのは私だろう……」

「でも……」


 ルーチェは静かに総司の方を見て笑う。


「メディアが私の固有権能を受けたら、小僧の()()()()程度では命を守れない。だから……、お前がメディアを()()守れ――」

「……! わかりました!」


 総司とルーチェの視線が重なり、そして――、ルーチェはメディアへと目を向けた。


「ルーチェぇ!!」

「いい顔だなメディア!」


 ルーチェとメディアの、お互いの視線がぶつかりそして言葉が紡がれる。


「「仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)」」


【【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七姫将(てんまななきしょう)、ルーチェ・イブリース】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七姫将(てんまななきしょう)、メディア・アスモダイオス】


 膨大な魔力が両者の身から吹き出し――、空間に浸透してゆく。オラージュは総司に目配せして言った。


「今です! 魔王様!!」

「はい!」


 総司は、教えられた通りその胸の奥に宿る魔力の塊を意識する。それを確認した後、その結晶体を砕いて、内部に宿る全魔力を一気に開放した。


魔源核(アッパーマナコア)――開放(リリース)

 

【system LOGOS:――中枢神核機能・世界律管理者権限をもって従神核への拡張機能を実行致します】

【system LOGOS:指示をどうぞ:▶】


「魔王真名――、ジードの名において権能を行使する!! ――我が前にあって滅びはなく、その生命に意志はあり続ける! その魂、肉体の死滅を我は望まず! 【冥護(みょうご)】!!」


 その瞬間、メディアの身に光輪が宿り、不滅の加護がその機能を発揮した。

 しかし――、怒りの只中にあるメディアは気づいてはいなかった。


「……」


 キルケはただそれを眩しげに見つめる。そして――、


(もういいんだメディア……、もう泣き続けるのはやめなきゃいけない)


 そう妹を想いながら決着の時を待った。

 その瞬間、ルーチェとメディアの言葉が重なった。


「「固有権能行使(リミットブレイク)……」」


【system LOGOS:――固有権能・無音一閃(Silent Slash)】

【system LOGOS:――固有権能・紅蓮■■……


 ズバ!


 その一閃が音もなく空を奔った。

 そして――、メディアは胴から血潮を吹きながらその場に倒れたのである。


「……」


 ルーチェは静かに目を瞑った。

 ――メディアの意識は闇の底へと落ちていった。



◆◇◆



 ――メディア、ごめんねなさいね。いつものお茶会にこれなくて。

 <……違います魔王様。(わたくし)自身が……、貴方を避けているから……>

 ――その言葉は声にならない。


 ――ねえメディア……、私のお願い聞いてくれる?

 <……嫌です、魔王様――、あなたの言葉は聞き入れられません>

 ――その言葉も声には出来ない。


 メディア……、このままジードが私の代わりに魔王を継ぐことが出来たなら、

 そうなったら、メディア――、貴方が――……


 <貴方が……、亡くなるなどと認められるものですか! 魔王様!!

 ――(わたくし)には無理です!! 貴方を――このまま看取らなければならないなんて!!>

 ――それもまた声にすることなど出来なかった。


 <無理なんです……、魔王様――、貴方に姉妹揃って見出されて――。貴方とともに生きてきて、それがこのまま失われて――、次の魔王に仕えねばばならないなんて>


 ――メディア、ジードはこれから大変な困難に遭うかも知れない。それを――、貴方の()()で支えてあげて……。

 <ああ……、分かっています。分かっているんです。それを認めるべきだと……>


 ああ……、(わたくし)は何故あの時――。

 なぜあの時――、「承知いたしました。ご安心ください魔王様――」と……、そう言葉に出来なかったのか。


 アレは結局(わたくし)の子供じみたわがまま、そう子供じみたわがままだったのでしょう。

 ――これだけ長く生きながら、本当に情けない話ですわ。

 申し訳ありません魔王様――、ジード様――。



◆◇◆



 そうしてメディアは目を開く。傍にマーレがいてメディアの傷を癒やしていた。


「もう大丈夫ですよ……傷も残りませんメディアさん」

「マーレ……」


 その顔を見ることが出来ずにメディアは横を向く。そこにルーチェが立っていた。


「まさか……ルーチェ――。固有権能を手加減したのですか?」

「は? 手加減ってどうやるんだ?」

「……」


 静かに睨むメディアにルーチェは笑って言った。


「小僧がお前を守ったんだよ……」

「――!」


 驚くメディアは周囲を見回し。そして、自分の側にあって正座をしながら見つめる総司を見返した。


「……メディアさん。貴方の言うとおりです」

「え?」

「貴方の言う通りなんです。貴方は僕の事を知らないし――、だから警戒して当然なんです」


 総司は優しく微笑みながらも、しっかりした口調で言う。


「だから僕のことをメディアさんに話す機会をください。メディアさんの事を僕が知る機会をください」

「……」

「二週間に一回、いや一ヶ月に一回、それでいいのでお互いを知り合う機会をください。――お願いします」

「――!」


 その言葉を聞いた瞬間、メディアはかつての光景を思い出す。


 ――メディア、天魔七姫将就任おめでとう。

 

 ――い、いえ魔王様。

 

 ――ふふ、それでね、次からは貴方の術式理論とか、色々聞きたいから、そうね二週間に一回、いや一ヶ月に一回でもお茶会みたいなの出来ないかしら?


 ――あ、そうですね魔王様、それならば……。


「……一週間に一回でよろしいですか?」


 ――一週間に一回でよろしいですか?


「はい! ありがとうございます!!」


 総司のその笑顔を受けて、メディアの瞳から一筋の涙がこぼれた。



◆◇◆



(……ああ、それでいい……。もういいんだメディア――。もう魔王様を見送ってあげるんだよ……)


 キルケはメディアの涙を見つめながら、その()()()()()を期待したとおりに示した()()()()()()に静かに頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ