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陽はまた昇る~次章前日譚 前編~

 ――ツマラナイ。

 ――ツマラナイ。

 ――メノマエニ、コレホドノタノシミガアルノニ。

 ――コレホドノ、ガングガアルノニ。

 ――ケイヤクユエニ、アソベナイ。


 ――シカシ、ミツケタ。

 ――カワリニナル……、


 ……ガングヲ。



 ◆◇◆



「ぬふふ……、今年も賑わってるね!!」


 その日、天魔族に連なる者、シオン・プルソンは魔人族の大都市セイリウムの中心で、二年に一度の【奉天祭】を楽しんでいた。

 それは、その国の大災厄を救った神霊――まあ言ってしまえば天魔族なる女神様のことではあるが――それらに対して、自らの喜びと繁栄を捧げる祭りである。

 その期間は三日間、準備を含めればそこそこの期間ではあるが、ここら一帯の国々の中では特に盛大なお祭りであった。

 街の競技場では格闘試合が歓声を産み、街の至る所で店が開かれて、土地の名産食材を利用した料理が振る舞われている。


「……うわ、聞いてた以上の人だかりだね。ここまでとは……」


 そう言って、少し心細そうな表情でシオンの後を歩くのはスクリタである。その隣で肉の腸詰(ソーセージ)串を頬張るのはマオであった。


「そっか……、スクリタはこのお祭り来た事ないんだ? そういった事に目ざといと思ってたけど……」

「まあ、ね……、来たかったんだけど、その時ちょうど忙しかったのよ……」


 ……と誤魔化しつつ、スクリタは少し沈んだ表情で心のなかで思う。


(ここらは天魔族信仰の中心地だし……、そういった土地柄は、()()()()()()()()()()()だったから……ね)


 スクリタは既に正しく天魔族の仲間である……、しかし、かつての自分を完全に振り切れるものでもなく――、幻竜八姫将に戻る気はさらさらないが、少しだけ仲間たちへのしこりと……、そして後ろめたさが残っている。そういう、()()()()()()()()()だからこそ、シオンもマオも、他の仲間も彼女を信頼しているのだが……、まあ……。

 その気持ちを察したのか、マオは優しく笑いながら話題を変えた。


「そこの競技場で行われている格闘大会は、大陸でもそこそこ有名でね? 遠い土地からツワモノが集まって来る大会なのよ」

「へえ? そうなの?」


 肉の腸詰(ソーセージ)串を美味しそうに頬張りつつマオが、目前に見える競技場の北門を指差す。それに頷きつつ首を傾げるスクリタ。


「その賞金はかなりの額でね、そこで勝利することは魔人族にとって(ほまれ)の一つともされている……」

「ふむ? それで?」


 マオは肉がなくなった串でシオンを指しつつ言う。


「十年前……、賞金に目がくらんだシオンが身分隠して出場して……、一度この街出禁になってんだよね」

「へえ? ……って、は?!」


 スクリタは心底呆れた表情でシオンを見る。シオンは目を怒らせながらマオに抗議する。


「ちょ! 何、スクリタに黒歴史バラしてんの?!」

「十年前は黒歴史ってほど昔じゃないでしょ……」


 額に怒りマークでマオの首根っこを掴んで揺さぶるシオンに対し、マオはそのままされるがままにのほほんとした表情で笑った。

 スクリタは……、心底あきれた表情で言う。


「うわ……サイテ~~。それって言ってしまえば、子どもの格闘大会に、世界格闘技チャンプが出て無双して、賞金かっさらうようなもんじゃ……」

「うん……、天魔族が信仰されている土地で、大抵の場所では歓迎される中で……、唯一の出禁扱いされたのがシオンなのよ……」


 そのマオの言葉に、スクリタは冷たい目でシオンを見つめ、シオンはマオの首を揺さぶりながら抗議した。


「……って、ヒトを人類から否定された邪神扱いすんじゃない!! って……少し格好いいかも?!」

「シオン……」


 スクリタは額に指を当てて首を横に振り、その目前ではシオンとマオがじゃれ合っている。

 ――それは、幻竜八姫将であった頃のスクリタではありえない、平穏で温かな光景であった。


 そうして大都市セイリウムの【奉天祭】――、その一日目を楽しむ彼女らに、密かに意識を向ける者がいた。


 ――!


 不意にスクリタの表情がこわばって、周囲を忙しなく見回し始める。その異変に気づいたマオがスクリタに話しかけてくる。


「どうしたん? スクリタ……」

「あ……、いや……」

「?」


 ただならぬ様子にシオンも心配そうな表情でスクリタを見る。


「……その」


 口ごもるスクリタにマオが静かな笑顔で言った。


「大丈夫……、私たちは、スクリタの仲間だよ?」

「……! うん……」


 そのマオの言葉に意を決したスクリタが声を落とした言葉で言う。その言葉を聞いたマオもシオンもそのまま絶句したのである。


 ――バツナンダの気配がする……。



 ◆◇◆



 スクリタたち三人が街中を走り回って、――そして日も落ちた月夜。

 公園に設置されたベンチに腰掛けたスクリタ達は、疲れた表情で俯いていた。


「魔王城本部は……、対応可能な天魔族を派遣してくれるそうだよ。まあ……、あくまで魔人族に秘密にした警戒行動として、だけど……」


 そういうマオの言葉にスクリタは頷く。


「……まあ、幻竜八姫将でなくなってから、それほどアイツラの気配も正確に辿れなくなってるし……。そんな不確かな情報で、この二年に一度のお祭を台無しにしたくないから……ね」


 スクリタの返事を聞いて、マオは静かな様子で言う。


「で……、本当にこちらを認識していた……と?」

「うん……、多分間違いない。今の私は昔と違って、そこまでいったら気配に気がつける程度だけど……」


 沈んだ表情の二人に対して、強気に笑ってシオンが言う。


「はん! 大丈夫だって! バツナンダって、たしか【征人】……、対天魔族戦闘は得意でない奴だったでしょ?」

「まあね……、多分、私ら三人いれば、アイツの相手は十分だとは思う……」


 そう言って笑うスクリタにシオンが頷く。そんな二人を見つめながらマオが真剣な表情で言う。


「……少し気になることがあるんだけど……。さっきシオンが言った通り、バツナンダは【征人】……、それに由来する能力があったよね?」

「まあね……」


 マオとスクリタのやり取りを見てシオンが首を傾げる。


「え? 何だっけそれ?」

「シオン、また学長の話を聴いてなかったのね?」

「う……」


 シオンの言葉にマオが返して、――それを聴いたシオンは苦笑いをする。マオは真剣な表情でさらに語る。


「【征人】の竜性は人類殺しを司る……、何より魔人族がいる市街地で暴れることが得意な幻竜八姫将だよ……。そんな彼女が、こちらを認識しながらも町中で襲いかかってこなかった……」


 そのマオの言葉にスクリタは頷いて言う。


「バツナンダはその根本的な性質――竜性として【人殺し】を行うのよ……。だから、そんなアイツが魔人族が沢山いる街で【人殺し】をしていないならば、何かしらの理由があるということよ……」


 そのスクリタの言葉に、マオがさらなる言葉を続ける。


「そして……、バツナンダがスクリタを認識したのならば……、この状況で襲ってこない理由が今のところわからない……。本能としての【人殺し】を禁じて、さらにいわゆる――幻竜八姫将の裏切り者を消す事を口実とする――【人殺し】すら禁じている、ならば……、結構強めの理由がないとおかしいよね?」


 スクリタとマオは、互いの言葉に黙り込んで悩み始める。そんな二人を見て、シオンは無理やり笑顔を作って言った。


「まあ……、ふたりとも。友軍が着き次第……、もしかしたら日付が変わった後の深夜ぐらいにも動かなけりゃならないかも、だから……、一旦宿で仮眠しようよ……」

「う、うん……」


 スクリタは無理に笑ってシオンの言葉に頷く。

 それでもスクリタの心の底には、言いようのない不安が残ったのである。



 ◆◇◆



 何処かの闇の奥で、ゴスロリファッションに身を包んだ、かの【征人のバツナンダ】は一人笑いを浮かべている。


「ふふふ……、裏切り者サーガラとその仲間たち……。遊べそうな玩具を見つけちゃったぁ」


 楽しそうに笑うバツナンダの左腕は肩から二の腕にかけて包帯のような布が巻かれて、そこだけが異様にボコリと膨らんでいる。

 それを愛しそうに撫でる彼女は――、


「この街の連中への()()()()()()とかいうツマンナイ仕事を押し付けられて……。()()()()()()()()()()()()()()とか命令されてたけど……」


 ――よかったぁ。


「……これで、ゴミどもを殺したい気持ちを、多少は解消できるわねぇ。あと……」


 ――この新しい力を試す絶好の機会だしぃ。

 ――この――、


 ――【()()()()()()()()()()】の力を。


 そうして――、月の届かぬ闇の奥で、スクリタたちを飲み込まんとする()()()()()が笑ったのである。

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