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剣閃ひらめく!

 魔王城は円卓会議室にて、少年魔王・総司、メイド総長・オラージュ、戦姫将軍・ルーチェ、そして師匠たるプリメラ・ベールが難しい顔をしながら黙り込んでいる。

 その中でまず口を開いたのは、魔王たる総司であった。


「天魔族が襲撃されている……、ですか……」


 その言葉にため息混じりに頷くオラージュ。


「ここ数日の間に、天魔族……特に魔剣士、重装槍兵、などを中心に襲撃を受けて、昏倒されるという事件が起こっています」


 そのオラージュの言葉に、真面目な表情でプリメラが答える。


「幻竜八姫将……か?」

「……いいえ、その線は薄いかと……」


 プリメラの言葉に即座に答えるオラージュ。プリメラは眉を寄せて問う。


「そう考える理由は?」

「被害を受けたのは、尊姓を持たない配下天魔族たち数名……。それも昏倒された後に殺されることもなく放置されています」


 そのオラージュの言葉に頷きながらルーチェが答えた。


「そうか……、奴らなら放置だけに留めず、普通に始末する……よな」


 そのルーチェの答えにオラージュは頷きながら言葉を続ける。


「その通りです……。彼らには配下天魔族だろうが、生かして捨て置く理由はない……」


 ――そして何より……。

 そうオラージュは呟いてから、主人である総司を見つめて言った。


「スクリタさんのお陰で、彼女らへの警戒システムが構築されつつある中……。その試作警戒システムが導入されている【叡智の塔】のお膝元でも起こっているのです……」

「……! それじゃあ……」


 驚き……、そしてその言葉の意味を理解した総司に、オラージュは真剣な表情で()()を口に出す。


「はい……、天魔族を昏倒させうるのは、幻竜八姫将……、幻魔……、同じ天魔族……、以外には普通はありえないのです」

「でも……! 警戒システムは……」


 総司の答えに頷いて言葉を返すオラージュ。


「無論、幻魔にも対応しております。ゆえに……、現状……、彼女らを襲ったのは同じ天魔族……となります」

「……」


 そのオラージュの言葉に総司は絶句してしまう。

 要は、仲間であるはずの天魔族が、仲間を襲撃している――という事になるからだ。


「そんな事……」

「無論、わたくしも考えたくはありません……」


 そうして眉を歪ませて黙り込んでしまう総司、オラージュ、ルーチェに対し……、プリメラは落ち着いた表情で言葉を発した。


「いいや……、それ以外に一つ可能性があるぞ?」

「え? この世界に天魔族に匹敵する存在が……」

「ふふふ……、そう考えるのが罠だとも言える……」


 プリメラの言葉に対し疑問を投げかけるオラージュに、……プリメラは笑いながら言葉を返した。


「異神……だよ」

「え? ……あ」


 プリメラの言葉に何かに気付いた様子を見せるオラージュ。総司はプリメラに向かって問うた。


「異神? それは……」


 その疑問にはオラージュが答えた。


「ええ……、この世界以外にも多数の異世界が存在することは、魔王様もご存知でしょう? 無論……そういった世界にも、我々に匹敵する存在が管理者として立っている場合がある……」

「ああ! ようは異世界の神格?!」

「そのとおりでございます……。世界によっては、相当自由な感性をもって、自由に振る舞う者たちも居ます。時に……異世界へと渡り、そこで色々迷惑をかけるような不良もいるのですよ……」


 そのオラージュの言葉に総司は頷いて答える。


「そういった異世界の神……、異神が僕達に干渉してきている可能性がある……と?」

「はい……、ここ最近、そのような輩は見られなかったので、つい失念しておりました……。それならば、確かキルケさんの研究室が対策のための装備を保管していたはずです」


 そうして明るい表情になったオラージュに、ルーチェが声をかける。


「よし! じゃあ、私がちょっくらキルケんとこまで疾走ってくるぜ! ついでに襲撃者とやらも、見つけ次第返り討ちにしてやる!」


 その言葉にオラージュは頷いて答えた。


「お願いします! まあ……貴方ほどの剣士であるならば大丈夫でしょう……」


 その言葉にルーチェは嬉しそうな表情で立ち上がる。そんな彼女にプリメラが言う。


「私の手は必要か?」

「ははは……、大丈夫です。私で何とか出来ますって……」


 そう言ってルーチェは師匠に笑顔を向ける。

 プリメラは――「そうか」とだけ呟いて頷いた。



 ◆◇◆



 ――しくじった。


 そう呟くルーチェは、その場に膝をつき……、肩で息をしながら顔を歪ませている。

 そんな彼女の前に悠然と立っているのは、明確に人ならざる機械人形であった。

 マネキンにも似た、輝く大きな瞳だけがはっきりと見られる人形……。しかしながらそれは、別異界に住まう機械神格に従う御使いとしての役割を持つ【異神】であった。


 キルケ研究室へと向かったルーチェは、そのまま探査装置を確保してその示すとおりに、この世界とは異なる(システム)の存在の探査を開始した。

 そのまま【魔術都市ダドリオット】の隣の都市である【ファーゼン】に至った彼女は、そこで目的である異神の痕跡を発見したのである。

 そうなったら――魔王城や叡智の塔に一旦報告すればいいのに、ルーチェは自分ならば倒せるだろうとたかをくくって異神に相対したのである。

 その結果は――、まさしく敗北と言う他なかった。

 

 正直、ルーチェの油断は仕方のないことである。

 異神はそれぞれの世界ごとに(システム)を持つ存在であり、それぞれの根幹に関わる機能を除いて、独自(システム)が最上位管理権限を持っていないとその機能を利用できない。天魔族ならば【固有権能】や【術式】などが使えず、限界まで弱体化するという意味である。

 それゆえに、目の前の異神もそのように弱体化しているはずであった。しかし――


(確かに……、特別な、神格能力らしきものは使ってこない……。ただ、私がこうなった理由は……)


 膝をつき、唇を噛むルーチェに嘲笑としての言葉を投げつけながら異形の異神は目を光らせる。


【キキキキ……、この世界の上位種族――その上位戦士でもこの程度か……】


 そう笑う機械人形をルーチェは黙って睨む。


【強さを求めて……、鍛錬を求めてここに至ったが……】


 ――我が【ラーニング】システムのみでこのザマとはな……。


 そう言って眼球を光らせる異神に、ルーチェは内心舌打ちした。


(……ざけんなコイツ……、コッチの動きだけじゃなく固有権能すらコピーしたくせに……)


 そのものは全く特別な力を持ってはいなかった。

 それが手にする機械の曲刀による剣術のみがそれの力らしかった。

 故にルーチェは武人として相対して、全てをコピーされて返されたのである。

 【固有権能】までコピーされて、それで始末されなかったのは――、単純に目の前の異神が戦いを欲していたからであり、【わざと生かされた】からであった。


【ふむ……つまらぬな。ここまでつまらなかったのは久しぶりよ……。我が機能の限定状態……、コピー情報の保存ができない状態でも我に勝てぬとは……】


 そう呟いて首を横に振る異神に、ルーチェは口元の血を拭いながら言った。


「……つまらないってんなら、この世界にいる意味ないだろ? 私以上に強いやつはこの世界には居ないぞ? だったら……」


 最後の悪あがきにと、ルーチェは異神自らこの世界から去るように誘導するが……。


【まあいい……、鍛錬はここまでにして……、これ以降は食事にしようか……】

「食事?」


 その異神の言葉に嫌なものを感じたルーチェは、異神に向かって聞き返す。

 異神は表情の分からぬ顔で答えを放った。


【うむ……、この世界の住人の機体を破壊して……、根源力を吸収するのだ】

「は? 機体? 破壊? ……吸収?」

【ああ……、この世界的に言い換えれば……、殺して魂を食らうのよ】


 その言葉にルーチェは絶句する他なかった。


【しかし……。この世界では……それほど根源力は得られぬかもな……】

「……! フザケ……」

 

 流石のルーチェも歯を食いしばって立ち上がろうとする。それを熱のない目で見つめる異神。


【よいぞ? あがきたければあがくがよい……】

「……く、そ」


 歯を食いしばって立ち上がろうとするルーチェの、その肩に何者かの手が置かれる。

 驚いて振り向くと――、そこにプリメラ師匠が居た。


「え? 師匠?!」

「は……少し胸騒ぎを感じて、心配になってきてみたが……、案の定だったな……」

「あ……う」

 

 ルーチェは苦笑いしてその場に腰を下ろす。それを笑顔で見つめながらプリメラは言った。


「お前はそこで休んでおれ……。後は私が引き継ぐ……」

「す、すみません師匠……」


 その笑顔を受けて、ルーチェはため息混じりに答えた。


【ふむ? 師匠? そこの剣士に戦闘を教えた者か?】

「ああ、そうだよ機械人形……」


 その答えを聴いた異神は、目を輝かせつつ剣を構えた。


【よかろう……後一回だけ期待してやろう……】 

「そんな期待はしなくていいぞ?」


 ――お前はここで終わるんだからな。


 そうプリメラが呟いた瞬間、プリメラの姿がルーチェにすら終えぬ速度で奔った。その手の機剣【猫爪】が閃き――。


 ガキン!


 それは目前の機械人形の剣によって止められた。


「……」


 プリメラは静かに自らの剣の切っ先を見る。その光景を見て異神は嘲笑としか聞こえない言葉を放つ。


【どうだ? 結局貴様もそこの弟子と同じだろう? ――我が【ラーニング】システムの前では生き足掻くだけ無駄よ……】

「ふむ、なるほど、確かにただの剣士では荷が重い相手ではあったな。ルーチェもまた剣一本で生きているがゆえに、それを貴様にコピーされた、と」

【キキキキキ……、そうだ、言っておくがそれがこの世界の術式であろうが同じだぞ? 我はあらゆるものをコピーして再現できるのだからな……】


 その言葉にプリメラは、楽しそうにニヤリと笑った。

 そのプリメラの表情の変化に、一瞬困惑しながら瞳を明滅させる異神だが、気を取り直してその手の機械剣をプリメラに向けた。


【さあ、貴様も己の剣技で切り刻まれるがよい……】

「いいだろう、()()()()()()()……、遠慮なく模倣して切り刻むといい」


 その瞬間、プリメラのあらゆる速度が前回より早く鋭く奔った。無論異神はそれに合わせて高速で動く。


 ガキン!


 剣と剣がぶつかり火花が散る。そして、意味有りげに笑うプリメラと、黙って迎撃する異神の視線が繋がった。

 そして――、そこから数回、斬撃が走って激しい打ち合いが行われる。

 ――そうしてプリメラは、表情を変えずにただ異神と静かに打ち合い続けた。


 ガキン! キン! ドン!! ギャキン!! ……キン!!


 異神は静かにその電子頭脳で思考する。

 

(無駄であるぞ馬鹿めが……、貴様の全ても我がコピーしてやろう……)


 異神の嘲笑が深くなり剣戟が更に加速してゆく。それを傷ついて動けないルーチェは呆然と眺め続けた。


「く……」


 そこからの光景は、ルーチェにして言葉を失う光景だった。

 プリメラが瞬間的に、まったく同時に五連撃を放つ――、無論、それをコピーして異神も剣閃を空に描く。

 その後、すべてを捌いたプリメラが、次に八連撃を放つ――、異神はそれをもコピーして空に剣閃が無数にひらめく。


「おい、師匠……、それ以上コピーさせたら……」


 その間もプリメラは「()()()()()()()()()」無数の剣閃を空に描く。

 そのうちに、プリメラと異神の剣閃と剣戟が、ルーチェにすら視認出来ない速度に変わってゆく。


「ふふふ……、いいぞ中々いい……」


 ――そうプリメラが怪しく笑う。その真意に気づかず異神は嘲笑の声をあげる。


【キキキ……、どうだ?! 己のすべてをコピーされる気分は!!】

「ああ、それは……」


 ――最高の気分だとも。


【?!】


 その答えに困惑を得る異神だが、プリメラの打ち込み速度がさらに加速して、それの対応に意識――思考処理速度を塗りつぶされてしまう。

 ――この時点に至って、異神の方に明確な異変が起こり始めていた。


「え?」


 見守るルーチェの頬に、冷たい何かがかかる。それは血液に見える赤い液体……。


「師匠?! まさか師匠が?!」


 いや、それは間違いであった。血のように赤い()()()()()を周囲に撒いているのは異神の方であった。


【え……、あ……】

「ふふふ……、まだだ、まだ私の剣の真髄には至っていないぞ? もっと登ってこい、――私と同じ場所に……」

【が……、は……】


 異神は必死にコピーした技をその動きのすべてをプリメラへと返す。――が、そのためにそれ以外の思考処理能力が失われつつあった。


(な、んだコレ……は、なんだ……。我、……は)

「さあ――、次の段階に行こうか?」


 そしてプリメラの剣閃はさらなる加速を見せる。異神の機体処理機能がエラーを吐き始めて、その全身から()()()()()が吹き出し始めた。


「まだだぞ? まだ至っていないのに()()()()()? ()()()()()()()()()……」

(や、めろ……、やめ、ろ……)


 静かに剣を加速させながらプリメラは言う。


「私は、戦士系の天魔族の中では、基本能力が明確に劣っている。……言ってしまえば全天魔族中間あたりの能力しかない」

(え……、あ)

「そんな私がこうして前線で戦えるのも、……教官なんて出来ているのも、単に私の長い人生において”それしかしてこなかったある意味()()”だからだ」


 静かに剣をふるいつつプリメラは語り続ける。


「そう、私は数百年――、いやもちろんそれを遥かに超える長きにわたって、それを極めることしかしなかった。剣術、体術、肉体鍛錬、術式、精神修養、その他多くのものを”剣を振るって一撃を加える”事にのみ費やしてきた()鹿()()だ。――そう千年以上のすべての時間を、だ……」

(あ……、が……)

「残念だが……、お前は――、私のそのすべてを、我が剣の真髄を網羅することは叶わなかったらしいな。――本当に残念だ。せっかく剣の道で私と並ぶものが現れると期待したが……」


 次の瞬間、もはや”不可視・無音”となった剣閃が、その異神の腕とその首を切り飛ばした。

 それはなんともあっけない終わりであった。


「はあ……」


 プリメラは静かにため息をついて剣を収めた。

 ルーチェはただ青い顔で師匠を見つめるしかなかった。


(師匠……、怖)

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