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第十六話 終末への導(しるべ)

 かのスクリタ――、【生誕のサーガラ】との初めての戦いから少し後、プリメラ・ベールはある品物を手に【叡智の塔】本拠地のあるダドリオット、その【キルケ研究室】を訪ねていた。

 その品物をしばらく、様々な機器で調査した後に、【キルケ・アスモダイオス】はプリメラ・ベールに品物を返却して言った。


「ダメだな……、中枢制御回路である【情報結晶素子】が壊れてやがる。それを復元することは可能ではあるが……、そもそも新しいものを生産したほうが手間がかからないレベルだよ……」

「……そうか」


 プリメラは静かに小さなため息を付いてから、その品物【古式機剣・夜椿(よるつばき)】をその懐に収めた。


「はあ……、しかし、ソイツがアンタが特務だった時に使ってた機剣か……。たしか、()()()()()……第六代目魔王・エリアム・ゲーティアだっけ?」


 そのキルケの言葉に、プリメラは頷いてかつてを思い出した。

 第六代目魔王・エリアム・ゲーティア……、その代を含む初代から数えて六人の魔王達は、常に最強幻魔種である幻魔竜王への決戦戦力として機能していた。

 その天魔族最上位の全能力は、まさしく最強の敵である幻魔竜王に相対できる存在として、天魔族と【終末の竜神】との決戦のためであったのだ。

 それ故に、それまでの魔王が扱う【魔王権能】はほぼ自身に対する【決戦強化】が中心であり、天魔七十二姫が扱う各固有権能も、いわば魔王へそれを()()()ための存在として扱われることが多かったのである。

 ――そしてそれは、各歴代魔王が幻魔竜王との決戦が元で、()()()()()()()()()()()という意味でもあった。


 その状況が大きく変化した切っ掛けは、先の大災厄――、幻竜大戦の前哨戦とも言える双竜戦争――、その双児の幻魔竜王と先代魔王バスシーバ・ゲーティアの戦いの直前に【運命の子】、後の魔王の剣【イラ・ディアボロス】が生まれたことであった。

 それまでと違い、本来一つしか保有できない【仮想魔源核(ロウアマナコア)】を複数ストック出来る才能を持ち、神核の影響で天魔七十二姫よりも高い能力を持つ天魔族の新種。決戦火力を天魔七十二姫の固有権能に頼る形であったそれまでの戦い方を、それ以降は複数保持出来る【対幻魔竜王固有権能】に頼る方向へと変化させて、それ以降は種としてまず保護すべき魔王を背後に置いて、最前線を天魔七姫将と天魔七十二姫で固めて、それらに【魔王権能】による超強化を与えて【最強武神軍団】として幻魔竜王に立ち向かうという戦術へと変化させた。

 これはまさに大災厄の大戦争を支える力となって、そうして単独【武王】による決戦方式は廃れることになった。

 それが原因ともなり、先代魔王バスシーバ・ゲーティアの治世はそれまでに比べても長いものとなった。


 プリメラは、その先々代魔王エリアム・ゲーティアの時代に生まれた世代であり、その最後をも看取った、意味が変化する前の【特務】を務めていた者であった。

 その当時の【特務】の意味は――、


「武王の隣に並び立って、その各種支援を行ういわば対幻魔竜王決戦の時の相棒役……だったか?」

「そうだな……、魔王様を幻魔竜王との戦いに集中させて、時にその生命を捨てて魔王様のお命を守る……」


 ――だが、その役目のプリメラは生きている。

 彼女のかつての主、先々代魔王エリアム・ゲーティアが命を失った後も――。

 その意味を考えながらキルケ・アスモダイオスはプリメラに言った。


「わかった、プリメラ……。それを今必要だと言うならば、ワタシが全く新しいものを作ってやる」

「……! いいのか?!」

「……そもそも、ソイツは【昇格型弐式固有権能】の仕組みが完全な形になる以前のモノだから、どちらにしろアンタの例の【零式(プロトタイプ)】にも対応出来ないだろう?」

「む……」


 キルケは笑ってプリメラに言葉を続ける。


「実際の固有権能に関しては、アンタらしいものを考えていじらせてもらう……。そして昇格型弐式固有権能は……」

「【零式(プロトタイプ)】だな?」


 その言葉に笑って頷くキルケ。


「……まあ、()()が役立つ場面がいつ来るか……、って話ではあるが、まあ固有権能が新しくなるだけでも十分だろ?」

「頼む……」


 静かに頭を下げるプリメラ。その心の奥に宿る思いは――。


(……二度私は魔王様を看取ることになった。どちらも私の力不足で……。私はもう一度……捨てた力を取り戻さねばならん)


 先代魔王バスシーバ・ゲーティアの時代に、イラ・ディアボロスへと特務の役割を引き継いで、若人の育成のために前線を退いたプリメラ。

 でも今の状況は、そんな彼女すら前線に帰らねばならない状況にある。ならば――。


 ――その時プリメラ・ベールは、決意の想いを抱いていたのである。



◆◇◆



 時は流れ――、かの移動要塞【アスクラピア】襲撃から一週間が経った。

 その移動要塞は、さらなる襲撃の可能性を考えて魔王城近辺の荒野に停機して、一時大陸周回の予定を白紙にしていた。

 【叡智の塔】のメディアと相談して、【マーレ医師団】に追加防衛要員を増やすことになり、その再編を行っている最中である。

 その仕事のために魔王城へとやってきていたメディアは、今日も【叡智の塔】と連絡を取り合ってマーレとやり取りをしていた。


「しかし……、連中……幻竜八姫将でしたっけ? マーレ医師団を襲うとは、いくらなんでも悪辣すぎますわね……」

「……ええ、それに……」

「どうしました?」


 沈んだ様子のマーレにメディアが問う。


「どうも、先で確認された敵側の人数が予想より多いらしく……。もしかしたら、私たちのような……、彼女らに従う戦力がいるのかも知れない……と」

「なるほど……」


 その言葉にメディアは眉をしかめる。


「相手の戦力が読めないのは……、なんとも困った話ですわね」

「ええ、それに……、例の【サーガラ】以外にも、要注意戦力が何人かいるらしく……、その一人はオラージュとルーチェ二人がかりでも勝てそうにない存在だと……」


 そのマーレの言葉に絶句するメディア。その言葉の意味は、その相手の力が絶望的に強大であることを示していた。

 そして、その流れで総司の顔を思い出すメディア。


(なるほど……、だから総司様は、例の()()()()()()を……。総司様は、誰か一人を救う……、()()()()ために皆を危険に晒す人ではない。だからこそ彼女を討つ……)


 メディアは、沈んだ瞳で敬愛する総司の想いを考える。もはや彼女はため息しかつけなかった。



◆◇◆



 メディアに付いて来ていたキルケ・アスモダイオスが、プリメラが鍛錬をしている訓練室へと現れる。それを認めてプリメラは笑顔で近づいていった。


「……ああキルケか……。()()に間に合ったか……」

「ああ、最高の仕上がりだぜ……」


 プリメラの言葉にキルケが笑って答えた。

 キルケは早速、その手に持った布に包まれた一振りの長剣を渡しながら、その機能の説明をはじめた。

 それを聴いたプリメラは満足そうに頷いた。


「なるほど……、そう来たか。いいだろう必ず使いこなしてみせる」

「ああ……、アンタならばコレくらいのハンデでも行けるだろ? そう思ってその分攻撃機能を爆盛にしてやったぜ……」


 そう言って笑うキルケにプリメラが笑みを消して言った。


「……数日後、かの【サーガラ】を仕留めるための作戦が実行される……」

「……そうか、例の情報は正しかった、と?」

「ああ、彼女はある地方に頻繁に出向いていて……、そこで決戦を行い……、仕留める事になる」


 そのプリメラの言葉に真面目な表情で言葉を返す。


「そうか、メディアが呼ばれたのは、そこら辺の補助要員を【叡智の塔】からも確保するためだな?」

「ああ……、魔王様は、これ以上仲間たちへの脅威が増えることを懸念しておられる……」


 プリメラはそう言って目を瞑る。その心に総司の哀しげな表情が浮かんだ。


「だからこそ……、まずは【サーガラ】を確実に仕留めるべきだ……と仰ったのだ」

「そうか……、で? その決戦の地は?」


 そのキルケの言葉にプリメラは答える。


「あの【サーガラ】は、その地方の中でも、何故か()()()()に頻繁に出向いているようでな……」

「ほう? それは一体……」

「それは……、今から十六年ほど前に原因不明の焼失が起こり……、住人全員が亡くなった()()()で……。そこは今も無人であるようなので、そこが決戦場になる……と」

 

 そうしてキルケに語るプリメラだが……。その決戦地こそ――、

 ――かつてのスクリタが、大好きなおばあちゃんと暮らしていた()()()であった。


 そして――、【生誕のサーガラ】の()()()()()()が始まる。

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