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第十二話 二つの相対

 今から一時間前――。

 総司達は事前に報告されていた移動要塞【アスクラピア】の周回予定を参考に、魔王城にある転移門から一旦【叡智の塔】本部へと転移し、そこから移動要塞【アスクラピア】に最も近い転移門のある【叡智の塔】所属学府へと移動していた。そのまま、移動術式と飛行能力で現場へと急ぎ、それ故に最悪の状況に素早く対応できたのである。もちろん、【アクイラ・ヴァサゴ】の予知がなければ、襲撃の報告を事後に受けることになり、最悪の事態にまで至っていたであろうが……、まさに【アクイラ・ヴァサゴ】のお手柄とも言えた。

 移動しながらプリメラは総司に言う。


「【叡智の塔】本部にも話はいっているし友軍も後で来るだろうが、一旦対サーガラ編成は簡易的編成にせざるを得ない。現状の魔王城戦力で組んでみたので目を通していおいてくれ」

「……わかりました」


 プリメラに渡された用紙には簡潔にこう書かれていた。


 指揮官:【天魔 総司】

 前衛盾役:【プリメラ・ベール】

 後方支援:【ケロナ・アグレアス】

 後方支援:【カミーラ・パイモニア】

 魔王護衛:【レパード・シトリー】


 待機組

 差し込み要員:【ムート・キマリス】

 差し込み要員:【リリア・グラシャラボラス】

 差し込み要員:【リェレン・レライエ】

 差し込み要員:【イラ・ディアボロス】:時刻設定


 その内容に関して総司はプリメラに問う。


「このイラさんの所の【時刻設定】というのは?」

「……ああ、それは……」


 プリメラの説明があり、総司は納得して頷いた。


「わかりました……、適切な時間を選びましょう。ケロナさんがこちらに参加するのも、それを補助できるようにですね?」

「そうだ……、多分それが相手の【機竜】へのトドメになるはずだ……」

「……」


 静かに総司はうなづいき、プリメラは小さく微笑んでその肩に手をおいた。総司はプリメラに笑って言う。


「……大丈夫です……。僕は皆の魔王ですから……」


 その言葉にプリメラは頷いた。



◆◇◆



 第四区画の明かりの消えた倉庫にて、無数の閃きが衝突し打ち消し合っていた。

 それは【無銘】とされる刀を振るうルーチェ・イブリースと、背骨そのままに似た刀を振るう【征天のナンダ】のその剣閃のぶつかり合いだった。

 互いに種族の頂点に位置する剣士であり、それゆえにほぼ互角の相対を示して、互いの身に小さな切り傷を増やしていた。


「は……、やるねえアンタ……」

「……」


 笑うルーチェに対し、楽しくもないといった風の表情で刃を振るう【ナンダ】。その刃が再びルーチェに小さな傷を作った。


「ち……、それ、見た目的に切れ味はどうなんだ? って思ってたが、その骨の周囲に妙なオーラみたいなので刃を作ってんのか……。おまけに背骨の形状に合わせてるから、まるでノコギリのように複雑で大きな切り傷を生み出す……」


 まさしくルーチェの言う通り、背骨を模したその刀はその骨の節ごとに刃のオーラが形成されて、それがその刃を波打たせる形になっている。

 もちろん、それ故に切れ味が低いということもなく、触れた瞬間相手のその身を裂くオーラによって、並の刀すら及ばぬ切れ味と深い傷を与えることが出来た。


「……け、厄介だな……。アンタ自身も相当な使い手じゃねえか……」


 そう云うルーチェに対し【征天のナンダ】は……。


「……ふ、貴様はそれほどでもなかったな……」


 そうしてやっと薄く笑ったのである。

 それを見てルーチェは、少し不満げな表情を作って言った。


「ち……、言うじゃねえかよ……!」


 そのルーチェの刃が高速で奔って、【ナンダ】の刀身そのものに向かって高速で振り抜かれる。


 グシャ!


 その一撃で骨の刃はバラバラになって……、武器を失った【ナンダ】は小さく驚きつつルーチェから間合いを離そうと動いた。

 しかし、ルーチェはそれに高速で追撃を行う。


「……これで、もらった!」

「ちぃ!」

 

 そのルーチェの剣閃が【ナンダ】へと届こうとする。が……、


 ガキン!


 不意にその刃が空中で止まる。それはまるで……。


「うえ? これって……、防御シールドみたいな?」

「ふふ……」


 それまでの驚きの表情から一転嘲笑に代わって【ナンダ】が言う。


「――ゆけ……、竜骨の刃よ――」


 不意に各骨ごとにバラバラに分割した【ナンダ】の刀が、その節ごとに空を飛翔してルーチェに向かって殺到する。

 その光景に驚愕の表情を浮かべながら、ルーチェは後退しつつその無数の刃を撃墜していった。


「くそ……! その形状的に『もしかしてそうなんじゃねえか?』……って考えてたが、そのまんまかよ!」


 そうして撃ち落とした骨の節が再び【ナンダ】に集って骨の刀になった。


「ふふふ……、それは期待に添えたようで……」

「フザケンナてめえ……、その刀もそうだが、防御シールドなんか使いやがって……」

「……残念ながら我は貴様らのような、殺し合いに無駄な感傷を抱く愚か者ではないのでな……。強く効率的なものを扱うのだ……」


 その嘲笑にルーチャは苦々しい表情を向けた。


「言ってくれる……。だが……、正しいな……。お前のそれ……、効果が発生する範囲は狭いが、相当強固なシールドだな?」

「……ふむ、今の一撃で気づくか……。まあ、そうだな……」


 先程の【ナンダ】が生み出した防御シールドは、かの【サーガラ】の防御領域に匹敵する強度を持つ。……が、それは全体を覆っているのではなく、一方向に発生するまさしく【盾】そのものの形で力を示していた。

 ルーチェは心のなかで思う。


(……要するに、アレは例の【機竜】のような、固有権能でしか攻略できないものではなく……)


 そのまま小さく笑ったルーチェは、先程背を預けていた倉庫入口扉に向かって声を放った。


「……ってわけだから、これ以上一人でやっても無駄だな……()()()()()……」


 その言葉に反応するように扉が開いて、そこから不満げな表情のオラージュが現れる。


「ルーチェ……、一人でやり合いたいとか言っておきながら……、なんですか……」

「ははは……! まあコイツがこんな感じだし、一瞬期待した私が馬鹿だったってことで……」

「……はあ」


 オラージュはため息を付きつつ、その両手に長剣を召喚する。そして、ルーチェの隣に立って【ナンダ】を睨んだ。


「……ほいじゃオラージュ。久しぶりの連携で行くぞ? 追従を頼む……」

「ええ……、おまかせをルーチェ。貴方の動きに合わせて……、貴方の望む動きで支援いたします……」


 そして二人のプリメラの姉妹弟子は、――小さく不敵に笑ったのである。



◆◇◆



 そして……、移動要塞を望む高台にてプリメラとスクリタ……、いや【サーガラ】の戦いが始まっていた。

 総司から【冥加】と【冥護】の加護を受けたプリメラは、かつてのように【サーガラ】の乗る【機竜】へと刃を振り下ろした。


 ガキン!


「やはり硬いか……」

「……当然でしょ? まさか今回は通用するとか、そんな夢を抱いたの?」


 その答えに不敵に笑って……。


「ケロナ……、カミーラ……、頼んだ……」

「分かった……」


 ケロナが静かに微笑んで術式を行使する。


 ――補助術式【理力剣】。


 それによってプリメラの所持する長剣に強化が付与された。さらに――。


(……それじゃ、私は……)


 茶髪のボーイッシュ少女【カミーラ・パイモニア】が【起術従機(メイジドローン)】にセットされた【術式核芯(プログラムコア)】――、【斬撃極大化】を起動したのである。

 それによって更にプリメラの長剣に強化が入った。


「……これって……!」


 驚く【サーガラ】に、背後に控えて静かに眉を歪める【ウパラ】。

 その二人に不敵な笑顔を見せながら、そしてプリメラは神速で奔った。


「……あ!」


 瞬時にプリメラが【サーガラ】の頭上に現れる。その刃が振り下ろされた。


 ガキン!


 その時点で既に主人を守るべく動かしていた【機竜】の腕が、そのプリメラの斬撃を防ぐ。


「【機竜】!!」


 ――補助術式【超加速】。


 その腕が更にプリメラを打ち据えるべく空を奔った。


 ガキン!


 プリメラは刃を打ち据えてその場から後退し、そして地面に着地した。


「……ふ、手応えあり……」


 そう言ってプリメラは笑う。

 それに対して【サーガラ】は憎々しげな表情で【機竜】の腕についた小さなキズを見た。


(……防御領域が絶たれた……。もちろん、威力を大幅に削減できてるけど、あの一撃は……、私が当たったらそこそこ危なかった……)


 それは当然の考え……、重装甲である【機竜】に小さいとはいえ傷をつけているのだ、生身の【サーガラ】相手ならば相当の被害になる。


(今後は攻撃だけには専念出来ない……、防御にも補助術式を振り分けないと……)


 そう思考しつつ【サーガラ】はプリメラを睨んだ。



◆◇◆



 その相対を見つめながら【破戒のウパラ】は思考する。


(【サーガラ】に先程下がって見ていろ……、そう言われた……が)


 だが【破戒のウパラ】は、自身も動くべきだと考えていた。

 もちろん、自分は何処までいってもただの術師――、下手な手出しをすればあの黒猫剣士に一刀で惨殺されかねない。

 ――ならば?


 【破戒のウパラ】はそれでもほくそ笑む。

 ――彼女にはそれだけの能力がある。


 そう――、彼女はまさしく【ただの術師】ではある。

 しかし、【術師】としての彼女は――、


 ――ある意味、最悪の欠点と、

 ――ある意味、最高の長所を持った……、


 この場に在る全ての者を超越する可能性を持つ、ある意味で【幻竜八姫将の切り札】であった。


 ――だからこそ、()()()()()()へと繋がってゆくのである。

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