第三話 彼方の友情
その日、師匠についてしばらく経ったルーチェは、一人の少女と顔合わせをした。
静かに歩いてくるその少女を眺めて、ルーチェは思ったままの言葉を口に出す。
「ふん? 師匠……細っこいが、大丈夫なのか? ――アレ」
そんな彼女に対し、師匠であるプリメラ・ベールは笑って答える。
「は……、そんな事言ってると、すぐに追い抜かれるぞ。あいつは、我が氏族――、源流七十二姫族・序列1番、ベール族に生まれた特異神核覚醒者だからな……」
「は? あのひょろい女が?! アタシと同じ特異神核覚醒者?!」
驚くルーチェのもとに、マネキンの如き無表情の少女が近づいてくる。が――、
その少女はルーチェを一瞥すると、元から存在しない相手のように無視して師匠の方に向き直った。
その態度に、沸点が低いルーチェが怒りを表す。
「おい! てめえ……、姉弟子様に一言も挨拶なしか?!」
「……どうも」
無表情でそう云う、まるっきりそっけない態度に、ルーチェは青筋を立てて――、そしてその手の刀を振り抜いた。それを分かっていたような動きで躱す少女。
「なんですか? いきなり……」
「てめえに姉弟子様としての教育をしてやる……」
そう言って睨み合う二人を、そばにいる師匠――、プリメラ・ベールは楽しそうに見つめる。
すぐさま、まるで殺し合いのような剣の打ち合いが始まるが、それはそれ以降、数十年――、数百年に渡って彼女の前で行われることになる。
――そう、二人がそれぞれ――、イブリース姓、そしてヴェルゼビュート姓という、派生式尊姓を頂いて以降も――。
◆◇◆
その時、魔王城は騒然としていた。
荒野を進む完全武装の天魔族――、それもあの日、魔王軍へ反乱を起こした者たちの一部、ルーチェ・イブリースとその配下が近づいてきていたからである。
その剣呑な雰囲気を感じ取って、魔王城主代理であるオラージュ・ヴェルゼビュートは、プリメラ・ベールを司令官とする天魔七十二姫を派遣する決意を固めていた。
「……相手はあのルーチェです、仲間の天魔族も警戒が必要である以上、とりあえず動くことが出来る全姫で出撃をしてください」
「大丈夫なのか? お前一人で……」
心配そうに言うプリメラに、オラージュは笑って答える。
「魔王様のお側はわたくしと、メイド兵部隊でお守りします。相手の兵士は――、師匠ならば大丈夫でしょう?」
「む……、ああ」
小さくため息をついたプリメラは、オラージュの言葉に従い現状動ける天魔七十二姫・六姫を連れて出陣していった。
オラージュはその背後を見送りながら、心のなかでひとりごちた。
(……ルーチェ――、貴方は今更何をしに帰ってきたのですか?)
そんないつもの冷静な様子を欠いた姿に、総司は一人心配そうに視線を向けていた。
◆◇◆
ケロナはその監視能力を広げて目標集団を捉える。そして、その構成を頭の中で咀嚼していった。
「――最前列、重装槍士チェルナ、そして魔剣士ムート。少し後にルーチェ。――その隣は……、起術従機使い、術技師のカミーラか? そしてその後方に戦列弓兵6人を引き連れた弓兵長ジュビア……か」
その構成に少々違和感を感じたケロナは、更に情報収集術式を重ね掛けて広範囲を索敵してゆく。すると……、
「遥か後方に更に二姫? 有翼兵レパードに、これは盗賊キコーニア……、盗賊も8人居る――」
その状況を理解したケロナはその各種情報を、通信術式によってプリメラと共有した。
それを得たプリメラは、小さく鼻を鳴らして頷く。
「ふ……、戦力としてはこの程度か――、レパードと盗賊達は遊撃兵……か。翼があって機動力に優れたレパードを除けば、十分殲滅可能ではある」
故に、プリメラは第一に警戒すべきはレパードであると考えた。現状、彼女に対応できるのは戦列弓兵の狙撃しかないが、それを許すほどレパードという有翼兵の航空機動力は低くはないのだ。
「もっとも、レパードに魔王城へ抜けられても、魔王様はオラージュが守っている。特に心配すべきことはない……か」
プリメラ率いる、重装槍士一人、騎馬騎兵一人、戦列弓兵一人と短弓を所持した盗賊二人は、静かに目標集団へと迫ってゆく。そして、それは視線の先に見えてきたのである。
「よう……、ルーチェよ。久しぶりだな」
昔なじみのような様子でプリメラは集団に向かって声をかける。それに対して、二姫の背後のルーチェは黙ってプリメラを睨みつけた。
「……どうした? 師匠である私に挨拶無しなのか?」
そう言って、その手の両刃長剣を腰だめに構えたプリメラが、たった一人で集団に向かって歩いてゆく。それを警戒するように、重装槍士チェルナと魔剣士ムートは、それぞれに真紅の槍と黒い魔剣を構えて……、
「無防備じゃないですか? 師匠……」
そう言って、二本角を持った褐色肌少女、魔剣士ムート・キマリスが呟いたのである。
「……ああ? 天魔族が魔王城に帰ってきたんだろ? 歓迎しよう……」
そう言って不敵に笑うプリメラに、ムートがその身を低くして間合いを詰めるように奔った。
ガキン!
そのムートの剣があっさりとプリメラに受け止められる。プリメラは小さくため息を付いた。
「受け止めてみたが……、斬撃が軽いな――。鍛錬をサボって酒盛り三昧か?」
「うぐ……」
ムートは顔を青くして、そして飛ぶように間合いをとった。――が
「あ……」
いつの間にか、その首に長剣の刃が当てられていた。流石に血の気が引いて涙目で背後に視線を送るムート。
「……」
絶対零度の視線をたたえたプリメラがムートの背後に居て、その剣をムートの首に押し当てていた。
(――は……、間合いを取ろうとしたのに……、背後を取られた)
そのあまりに恐ろしい視線を受けて、心が折れかけるムートだが――、
「……すみません師匠、罠にはめました――」
「む?!」
そのムートの言葉に驚くプリメラ――、その耳にひとつむぎの言葉が聞こえてきた。
「仮想魔源核――開放……」
不意にルーチェ――、であった者の姿が変化して、その手に鈴を所持した前髪で目を隠した長い耳の少女が現れる。
それを見たプリメラ――、そしてその動きを見守っていたその場の全員が絶句した。
【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】
【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫、序列44番、キコーニア・シャックス】
「固有権能行使……です」
【system LOGOS:――固有権能・無音鈴音(A Soundless Chime)】
その瞬間、その場に居る天魔族、キコーニア・シャックス一人を除く全員の、――その五感すべてが消失した。
すべての感覚を絶たれたプリメラは、その場に跪いて頭を抱える。
「クソ……、ヤられた――! 起術従機でキコーニアのガワと、ルーチェのガワを入れ替えていたのか!!」
その慌てた様子を、五感を失ったがゆえに見ることが出来ないムートは、膝を折り小さく苦笑いしながら呟いた。
「師匠……、まんまとルーチェさんの作戦に引っかかってくれてありがとうございます。師匠も、今度からもうちょっと慎重に動いてくださいね」
その言葉は誰に聞かれることもなく、風とともに消えていった。
◆◇◆
慌てたのはケロナである。前線に居るすべての天魔族が、敵味方関係なく戦闘不能になっていた。
そして――、
「有翼兵レパード――と、キコーニア、じゃない……! ルーチェ・イブリース!!」
翼を広げたレパードに支えられながら、ルーチェが魔王城へと空を駆けてゆく。ケロナは攻撃術で撃ち落とそうかと思案するが――、無理であると理解して悪態をついて、そして魔王城に居るであろうオラージュへと取得した情報を送った。
それを受け取ったオラージュは、王座に総司を座らせるとその前に仁王立ちして、そして周囲に控えるメイド兵へと号令を発した。
「――反乱者が魔王城に向かっています。全姫迎撃準備――」
しかし――、とオラージュは考える。
かのルーチェ・イブリースは自分の姉弟子。その剣の腕は天魔族でも上澄みであり……、ここに居るメイド兵では抑えることは叶わないであろう――と。
「――ならば、この私自らルーチェ……、貴方を切り捨てます!」
そんな思い詰めた様子のオラージュを、背後の総司は心配そうに見つめる。そして、静かに決意の想いを心に宿した。
◆◇◆
なんとも懐かしい城内をルーチェは一人歩いてゆく。自分を運んだレパードは、すでに友軍が待つ後方へと帰している。
そう――、まさしく敵中に自分しか居ない状況である。――が、しかしその思い出が心に現れては消えて、静かに悲しげな微笑みを浮かべた。
「――さて」
そんな彼女の歩む先に、扉とその前に陣形を組むメイド兵たちが見える。その手に有る百年来の愛刀を……、峰打ちへと返してそして神速で奔った。
ドン!
オラージュが見つめる先、扉の向こうから破砕音が響いて、そして静かに扉が開き始める。――そこに、姉弟子――、冷徹な瞳で自分を睨むルーチェが居た。
左右に控えていたメイド兵たちが襲いかかってゆく、――が、
「やはり……」
「あのひと……、日本刀?!」
その手に見慣れた曲刀を構えた、大柄の女性が信じられない動きでその周囲に剣閃を走らせる。
それに弾かれるように、メイド兵たちが吹き飛び――、そしてその場に糸の切れた操り人形のごとく倒れていった。
「……おい、オラージュ。固有権能を持たない下っ端に、いつまで私の相手をさせるつもりだ? ……私を舐めているのか?」
「ルーチェ……」
オラージュは、怒りを抑えきれない様子で目前のルーチェを睨みつける。そして……、吐き捨てるように言葉を吐いた。
「……今更、何をしに来たのですか? まさかこのような事をして……、亡くなった先代魔王様へ謝罪しに来たわけではないでしょう?」
「は……、謝罪ねぇ……。そんな事する必要があるのか?」
その言葉にオラージュは、表情の怒りを更に強くする。そして……
「……え?!」
総司は驚いてオラージュの両手を見つめる。いつの間にかその両手に、長い刀身の両刃長剣を一組装備していたからである。
その光景に、ルーチェは嘲りのこもった笑顔を向ける。
「ははは……、久しぶりに切り合うか? 今度は……、本気で殺し合うために――。すべてをこの場で壊してやるよ……、なあオラージュ」
「ルーチェ!!」
そのメイド総長は、両刃の剣を翼のように広げて空を斬って奔る。それをルーチェの刀が迎撃した。
ガシャン!!
それは一瞬――、オラージュの手の刃が砕けて金属片が舞い散り……、形のない霞のような奔流へと変わっていった。
オラージュは一振り残った刃を振るう……が、
ガシャン!!
それも砕けて消えていった。
「は!!」
「オラージュさん!!」
ルーチェが不敵に笑い、総司が慌てて叫ぶ。オラージュは怒りの表情をそのままに、その両手に再び一組の刃を生み出した。
(――剣を、生み出してる?!)
総司はその光景を驚きの表情で見つめる。ルーチェの方は嘲るように笑いながら叫んだ。
「ケ……、こっちは昔からコイツ一本だってのに……、ホントお前使い捨てが好きだな――」
「く……」
お互いを睨む二人が、総司の目に止まらぬ速度で切り結んで――、そして、二人の間に血しぶきが飛び始めた。
その身に赤い線が生まれ始め――、そして……。
「オラージュさん!!」
総司のその悲痛な呼びかけに応えるように、明らかに傷の多いオラージュが、痛みにうめきながらルーチェとの間合いを取った。
オラージュは静かに総司に対して話しかけてきた。
「魔王様……、お逃げください。ここを抑えることは、わたくしではかないません」
「オラージュさん……」
悲痛な表情の総司は、オラージュに向かって首を横に振ってみせた。
「いいえ……逃げるわけにはいきません」
「魔王様?」
決意のこもった瞳で総司は立ち上がる。そして目前に立つルーチェを見つめた。
「ふ……、逃げない、か? 小僧――、逃げても無駄だと考えたのか? それとも――」
ルーチェは嘲笑をその顔に浮かべて、見下ろすような視線で総司に言う。
「――土下座して命乞いをするか? 異物――」
「――!!」
その言葉にオラージュの目が見開かれて、総司は悲しみのこもった表情を向けた。
総司は静かに――、しかしはっきりと語りかける。
「――異物。それは――、僕のことですね?」
「それ以外になにかあるのか?」
ルーチェの言葉にオラージュが怒りのこもった瞳を向ける。しかし総司はそれを遮るように、オラージュの前に立って、そしてまっすぐにルーチェを見据えた。
「そんなに――、僕のことが気に入りませんか?」
「……」
「僕のせいで……、あなた達はこんな事になっている、……そうですか?」
総司の言葉にオラージュが叫ぼうとする。しかしそれを待たずにルーチェが言葉を発する。
「だったらどうする? 自害でもしてくれるか? 小僧――」
「魔王様!! その者の言葉を聞いてはなりません!! わたくしがその反逆者を――」
総司は静かに微笑んでオラージュの眼を見返す。そしてもう一度ルーチェへと視線を返して言葉を発した。
「自害は出来ません」
「ああ?」
「僕には生きてやるべきことがあります」
その突然の、そして強い宣言にルーチェは言葉を失う。
「僕は――、天魔族にとってたった一人の魔王種なんですよね?」
「む……」
「そしてそれはかつての母が務め……、僕にその役割が継承された」
その強い言葉を静かに聞くルーチェ。
「僕は母を知らない――、天魔族たちも最近あったばかりの人たちです。でも……」
その総司の瞳に強い決意の光が宿る。
「たとえその姿を見たことのない母でも――、その母が大事にしていた貴方がた家族の絆を、僕は護りたい!」
なぜなら――。
「僕は母が辛く苦しんでいた時に――、傍にいてあげられなかった」
「――!」
その言葉にルーチェは驚きの目を向ける。
そして、総司はその場に跪いて下からまっすぐにルーチェの瞳を見つめた。
「見て分かる通り、僕にはこれ以上抵抗できる力はない。――結局未熟な新米魔王ですから」
「――小僧」
「切り捨てられたらそれでお終いなんです。でも――、そうなる前に一つだけ聞かせてください」
その言葉にルーチェは困惑の表情を作る。
「――貴方の本心は何処にありますか?」
その言葉にルーチェだけでなくオラージュすら驚きで目を見開いた。
「は? 何を――」
「お二人は本気で殺し合ってはいません」
「――!」
その発言の意味を理解してルーチェとオラージュは驚きの目を総司に向ける。
「僕はしばらく前に――、プリメラさんに教えてもらいました。天魔族の上位種には【固有権能】と呼ばれる力があって、それはいわゆる必殺技なのだと――。特にお二人のものはまさに相手を殺すためのモノだと……」
総司はルーチェの眼を見返しながら言葉を続ける。
「オラージュさんが貴方にそれを使えない理由は、貴方を本気で殺すことが出来ないからです。オラージュさんが辛そうにしているのは、そういうことなのだと僕は感じました」
「魔王様……」
オラージュはそう呟いて苦しげな瞳を総司へと向ける。
「でも……、すべてを壊す為に現れたはずの貴方も……、それをオラージュさんに向けることが出来ない。使うことが出来ない……」
「小僧……」
「それでも憎まれるような言葉を選んで、貴方はオラージュさんを挑発して……」
「やめろ小僧!!」
ルーチェは怒りの表情で総司を睨む。総司はそれを受け止めるようにしっかりと見つめ返した。
その視線が静かに落ちる。
「……くそ!!」
ルーチェはそう吐き捨てながら、その場に刀を放り投げて座り込んだ。それを驚きの光景で見つめるオラージュ。
「ルーチェ?」
「……ち、何なんだよこの小僧……、知ったふうな口を利きやがって。そのクセ……」
――全部言い当てるなんて。
ルーチェはその場にうずくまってそして顔を歪めていった。
「ケジメはつけなければならない。私は――、あの女の口車に乗せられたとはいえ、自分から愚かな反乱に加わって、今までの天魔族の全てをぶち壊しにしちまった。ほんと――、戦にしか回らねぇ私の頭のバカさ加減は嫌になってくる」
「ルーチェさん」
静かに見つめる総司に、ルーチェは小さくため息を付いて言った。
「自分のバカ加減を理解して――、会わす顔がなくってグダっているうちに、帰る機会も、謝る機会も、償う機会も失って、そして――」
――挙句の果てに、魔王様の死に目にまで会えなかった。
「私は――」
「だからわたくしに殺されようと?」
静かにオラージュが口を開く。その眼は怒りに満ちていた。
「――貴方は本当に馬鹿ですね。馬鹿が極まっています」
「む……」
「なぜ貴方は……、わたくしが貴方を切り捨てた後に、後悔に苛まれないと考えるのです?」
その言葉を聞いて、ルーチェは驚きの眼をオラージュへと向けた。オラージュのその瞳から涙が溢れていた。
「ああああああああ!! ほんっとうに筋肉馬鹿!! 脳筋!! 脳みその欠片もなくすべて筋肉が詰まっているのですね!!」
「オラージュ……ごめん」
「謝って済むもんですか!! ほんっとうに貴方は……」
「……ああ、そうだな……、なんで私は理解できなかったんだ? 私は……、お前にすべてを押し付けて……」
総司の前で、二人の姉妹弟子が涙を流して、――そしてその床を濡らしてゆく。
そして、その場にいつの間にか、プリメラを始めとした天魔七十二姫が現れる。そこには、先程まで敵として振る舞っていたはずのキコーニアらも加わっていた。
「――はあ、なんと無様な真似を晒したと帰ってきてみれば――。腐れ縁で親友の間柄のクセに、何やってんだお前ら……」
呆れた様子で笑うプリメラの前で、二人の少女はただ泣き腫らしながらお互いの肩に手を触れ合っていた。――総司はその二人の姿を優しく見守っている。
「わたくしは、貴方ならば何があろうと、魔王様のおそばに――、わたくしの隣に居てくれると信じていました」
「――ああ、だが私はそれを裏切ったんだな」
「ルーチェ」
そう言って静かに姉弟子を見つめるオラージュ。
「貴方のバカさ加減は魔王様も知っていました。――だから貴方は素直に謝れば良かったんです」
「――ああ」
「無論、それなりの罰はあったでしょうが――、それを終えたら、またわたくしの隣に立ってくれたでしょう?」
その言葉にルーチェは、苦笑いを浮かべながら答えを返した。
――ああ、そうだな。
それはルーチェの、嘘偽りのない言葉だった。
◆◇◆
ルーチェ・イブリース以下、その配下として反乱に加わった者たちは、その罪を償うための罰を受けることになった。
しかし、皆、それを満足して受け入れて、そして、最終的には魔王軍へ一人も欠ける事なく帰順を果たした。
ただ一つ特筆すべきなのは――、ルーチェ・イブリースの罰は、彼女が最も苦手とする基礎戦術教本の666冊書写であり――、
涙にまみれながら、師匠であるプリメラと、一番の親友であるオラージュに、許しを請うていた――、と言うことである。




