幕間 乱れる心――、そして運命の再会は……
その時、ルーチェはレパードと共に、変更した宿の階下にいた。
あれからすぐに王宮へと話しを通して、そして宿への保証を決めた総司たちであったが、そのまま総司は新しくとった宿の部屋にこもってしまった。
何かしら知っているらしきレパードは黙して語らず、オラージュはその総司の表情に何かを察したように何も語らず、叡智の塔の友軍を迎えに出ていった。
「……はあ、くそ……、これじゃ。一年前の……、あれ以前に逆戻りじゃねえか……」
ルーチェは一人静かに呟いた。
レパードは黙って総司の部屋の外に控えている。……今は黙って待つべきである。
そう信じて――。
そして、部屋の中――、総司は一人眉を歪めて俯いていた。
(……はあ、いくらなんでも……、アレは――)
あの時の【暴炎のマナス】の言動は、流石に許せるものではなかった。
でも、それでも自分として冷静に――、そして冷徹に、正しく力をコントロールして動いたつもりだった。
【暴炎のマナス】を打ち倒したこと――、それ自体は間違いなく正しかっただろう。あのような考えの存在を放置すれば、どれほどの被害を世界にもたらすのか、考えても寒気がするほどだ。
でも――、
(あの時僕は――)
『そうですか……。じゃあもう、貴方から手に入りそうな情報はないですね……』
あの時のその言葉は――、少しでも【暴炎のマナス】に言い返したくて出た言葉であり、……その言葉は正しくはなかった。
――それ以上を何も聞きたくなかった……、ただそれ以上の恐ろしい事実がある可能性を考えて、明確に話を打ち切ったのである。
そして――、それ以降は【暴炎のマナス】にマーレを馬鹿にされた事で頭に血がのぼって、あのような結果になった。
何度も言うが、【暴炎のマナス】を打ち倒したことは正しいと感じている。
でもこの先発生するであろう、自分たち天魔族たちと【幻竜八姫将】とかいう者たちとの戦いを考えれば、簡単に倒すだけではただのその場限りの対処でしかない。
そこをあの【暴炎のマナス】の語りが出る以前までは理解していながら――、
――冷静を喪失して、暴力一辺倒に進んでしまった。
(あれでは……、あの【幻竜八姫将】とそれほどかわらない……。僕は、そういった理不尽な無軌道な暴力から【秩序を持った戦力】で対処することで、正しく世界を守らねばならない)
ただ怒りのままに暴力を振るうのでは【魔王はただの暴君に成り下がる】のだ。
パン!
総司は頬を両手で張った。
かつてより遥かに強い力を得たが――、心はいまだ成長途中の子どもでしかない。
それを理解して――、そして宿の部屋の天井を見上げる。
(……まずは、皆に情報を共有しよう――、無様で未熟な話をしなければならないけど……。きっと、それが正しく……、あの一年前のみんなとの対話で得た教訓なんだから……)
そして真剣な表情で頷いて総司は立ち上がる。――皆にしっかりと全てを話すために……。
自らが得た強さ――、そして未だ残る弱さ――。それを自身の心のなかで噛み締めながら。
◆◇◆
その【トクシャカ】の報告に、【スクリタ】は眉を歪めて黙り込んだ。
あの戦闘か能のない【マナス】がやらかしてしまった。
それでも魔王や天魔族を倒したなら言い訳もきいたろうが……、そうならずに余計な情報を相手に渡しただけで、【生み直し】へと向かっていった。
――まさしく無意味な戦闘である。
「……【トクシャカ】、アンタはこの状況を維持する仕組みを組んでから……、母竜のところに帰還しな……」
「はあ……、後は一人でなさると?」
「ええ……、おそらく激怒した天魔族たち……、そして魔王を迎え撃たなければならないからね……」
その言葉に【トクシャカ】は黙って頷く。
「了解いたしましたよ……。ご武運を……」
そう言ってから【トクシャカ】はその場を離れてゆく。
その背後を眺めながら【スクリタ】は思った。
(……まあ怒り心頭でしょうね……、当然の話よ――。私も気に入らない作戦だったけど……、それでも我らの使命ゆえにそれを飲んだ……)
――天魔族と私達は殺し合う運命……。
(……一度はまた普通に街で出会うかもとも思ったけど……。まあ……、ここで短い夢の時間は終わり……)
――総司……、正しく私達の殺し合いを始めましょう。
そう考えながら【スクリタ】は小さくため息を付く。
その根本が【滅びの概念】ゆえに、全ての思考は【滅び】へと帰結する。
――【スクリタ】という少女はそういったヒトデナシであるがゆえに。その自覚を心の底で抱えながら。




