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第十九話 全姫集結――、そして本当の戦いへ

 幻魔竜王が砦に取り付いた瞬間、【ヴァロナ・アマイモン】と【マーレ・ベルフェゴル】はつい総司が気になって最上階へと走っていた。

 そして、その光景を見たのである。


「ああ、イラさん!! 来てくれたんですね!!」


 感極って泣き始めるマーレ。それにハンカチを渡しながら、いつもの胡散臭さが吹き飛んだ笑顔で言う。


「は……、やっと目が覚めたか……、あの生真面目(きまじめ)


 そんな仲間の視線を受けながら、イラ・ディアボロスは静かにその手にした黒剣を腰だめに構える。

 そのイラに対して、幻魔竜王は再び動き始め牙を剥いて威嚇しつつその鈎爪を振り上げた。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――」


 そうイラ・ディアボロスが口に出した瞬間、幻魔竜王は口を開き――、


(――またあの咆哮が!!)


 その事に気づいて、総司とオラージュが耳を押さえて心理的衝撃に備えた。


 ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!


 咆哮は放たれ、総司達は顔を歪めて耐える。――が、


(――愚かな……、幻魔竜王――。貴様の前に立つ私が何者か……)


 ――理解できていないとは。


「――開放(リリース)


 イラ・ディアボロスは、全く怯むことなくそう言葉を紡いだ。


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七姫将(てんまななきしょう)、イラ・ディアボロス】


固有権能行使(リミットブレイク)!!」


 ――其は竜王を断つ一刃の閃光――。


【system LOGOS:――固有権能・竜断閃(Dragon-Slaying Flash)】


 ズドン!


 幻魔竜王の右肩部が、イラ・ディアボロスの生み出した超斬撃光によって下から上に向かって断ち切られる。その右肩の接続部が裂けて、その背にあった片翼が吹き飛んだ。

 その巨大な片翼が、砦の直下に集まっていた重装槍士たちの頭上に落下してくる。


「うお?!」「やば!」「ちょ……」


 慌てて散開する重装槍士たち。その代表である【チェルナ・フラウロス】が額に青筋立てつつ、それでも嬉しそうに抗議の声をあげた。


「おい! イラ!! 危ねえだろが!!」


 それに小さく笑ってイラは答えた。


「……すまん……」


 ――そして、その閃光は遥か前方で砦へと向かうルーチェやプリメラも見ていた。


「……ふ、心配させおって……」


 そうプリメラが呟き笑う隣で――、ルーチェはただ目に涙を浮かべて叫んだ。


「イラあああああああああああああああああああああああああ!!」


 そして、それはあのメイア・レヴィアタンとて同じ想いで……。


「……ああ、イラ――、おぬしは先代魔王様に、あれだけの迷惑をかけたが――、でも……。そうだな……」


 メイアは静かに目を瞑り、イラが苦しんでいたその心の内を想って――、それでも再び立ち上がったその勇気を心のなかで讃えた。


「……ふ。まあ――、ルーチェの馬鹿と一緒に、そのうちに許してやるさ……」


 ――そう言って嬉しそうに笑った。


 メディアは――、ただ頷いて、そしてイラの居るであろう遥か砦を望みながら呟いた。


「――魔王の剣……、竜王を断つ一刃の閃光……。まあ今回の主役は譲って差し上げますわ……、それでいいですわね総司様……」


 そんな彼女らの想いを受けて、イラ・ディアボロスは再び言葉を紡いだ。

 

 「仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)!!」


 ――固有権能・竜断閃(Dragon-Slaying Flash)!!


 ズドン!


 再び幻魔竜王の下方から空へと閃光が奔って、次は左肩が吹き飛んで――、そのもう片翼も吹き飛んだ。

 ……砦直下に居る【チェルナ・フラウロス】の頭上にもう片翼が落下してくる。


「……て、コラ!! これはワザとだろ!! フザケンナコラ!! イラの馬鹿ヤロウ!!」


 ――今度は本気の怒りで抗議した。


 そして――、【中央一帯最前線第一戦列部隊】に居た【コル・フェニックス】は憑き物が落ちたかような表情で、ただ泣き笑いをしていた。


「……ああイラ様――」


 その彼女の耳には――、遥か砦の方角から、幻魔竜王の悲鳴に似た咆哮が聞こえていた。


 グアアアアアアアアアア!!


 その状況に至って、その幻魔竜王は悲鳴をあげながらその身を横たえ、砦から逃げるように身を引きずり始める。

 両腕がもはや肩から断たれて動かせず、まさしく無様に地を這いながらその十二の黒光翼を持つ【死神】に背を向けて逃げ始めた。

 ――もはやそれは【終末の竜神】などと呼ぶことも出来ない逃げざまだった。


 それを見て、イラは静かに総司たちの元へと降り立つ。そして、総司の方へと振り向いて、そして膝をついて頭を下げた。


「遅くなって申し訳ありませんジード様……」

「いいえ……、良かったですイラさん……」


 その様子にオラージュも微笑みながら言う。


「――イラ……、本当に良かった」

「……オラージュ……、迷惑をかけた」


 そのイラの言葉に頷いて、そしてオラージュは言う。


「さあ……、イラ――、この戦場の最後のお仕事を――」

「……ああ」


 イラは総司の目を見つめながら言う。


「ジード様……、今一度――、我が剣を信じていただけますか?」

「もちろんです!」


 その即答に一瞬驚きつつも、微笑んでから立ち上がった。


「ならば……」


 そうしてイラは総司に背を向けた。オラージュは総司に言う。


「イラに昇格効果を――、この戦場を終わらせましょう」

「わかりました!」


 そうして総司はイラに向かって手のひらを向けた。

 オラージュの方は、地を這う哀れな竜王を睨んで言った。


「……わたくしが貴方を逃がすと思いか? 仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)……」

 

 ――固有権能・暴食死翼(Gluttony Death Wing)。


 その背中にドクロマークの死翼が展開し、そして十六の大剣が空を奔って幻魔竜王へと突き刺さった。


 ゲアアアアアアアア!!


 竜王はその衝撃で身動きが取れなくなった。その時にその決着が来た。


魔源核(アッパーマナコア)――開放(リリース)

 

【system LOGOS:――中枢神核機能・世界律管理者権限をもって従神核への拡張機能を実行致します】

【system LOGOS:指示をどうぞ:▶】


「魔王真名――、ジードの名において権能を行使する!! ――其の使命は目前にあり、穿ち難い壁が在っても示す号令は変わらず! その神核の根源を解放し――、その真なる奇跡を我に示せ! 【叙進(じょしん)】!!」


 その瞬間、イラのその身の各所に輝く文様が浮かび上がり始めた。それを理解してイラは言う。


「【昇格】の効果適用を確認――。イラ・ディアボロス……参る!!」


 光翼が力を発揮しイラを空へと運ぶ、それは幻魔竜王の上空へと至り、――その言葉を紡いだ。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)!!」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七姫将(てんまななきしょう)、イラ・ディアボロス】


固有権能行使(リミットブレイク)!!」


 ――其は世界をも断つ一刃……、なれどその一閃は世界の破壊者たる竜王のみを斬る――。

 ――それこそ、天なる魔の一族の王……、魔王のその権能の証なり!!


【system LOGOS:――昇格型弐式固有権能・断界竜斬(The Ultimate Dragon Slayer)】


 そして天から光が地に向かって落ち――、

 ――巨大な幻魔竜王は縦方向に両断された。


 それを切っ掛けに、その場に在った幻魔の群れは――、黒い霧と化してその実体を崩れさせていった。

 ――かくして、ここに666姫の天魔族は集い、その戦いは一旦幕を閉じたのである。



◆◇◆



 巨竜が眠る目前――、機竜の肩に乗るスクリタが笑いをこらえていた。


「ぷ……くくく……」

「私の作戦の失敗が……、そんなに嬉しいかねサーガラ……」

「いや、ごめんごめん……、ここ十五年の仕込みがパアとか……。笑ってないよ……。ププ……」


 そのサーガラの様子を薄笑いを浮かべて見つめる――、地球の宗教の修道服に身を包み、その胸に十字架ならぬ竜頭を模したペンダントを下げた【極天】の竜性を持つ【ワシュキ】がため息を付いた。


「ふう……、やはり君は作戦が気に入らなかった様子だね? 母竜の固有竜性――【生誕】を持つがゆえに……か」


 そう呟く【ワシュキ】を無視して、【生誕】の竜性を持つ【スクリタ=サーガラ】は笑い続けた。


「……まあいいではないですか? これで我の仕事――、天魔族討伐の使命が減ることもなくなった……」


 そう言うのは、長身で竜骨の刀を所持した女武者【征天】の竜性を持つ【ナンダ】であり、その間も笑い続ける【サーガラ】を憎々しげに見つめるゴスロリ少女……【征人】の竜性を持つ【バツナンダ】が、いつも自分が楽しんでいる人殺しに文句を言う【サーガラ】が嬉しそうに笑う様をみて舌打ちした。


 他四人の内、【呪毒】【凍餒】【暴炎】の竜性を持つ【トクシャカ】【アナバタッタ】【マナス】を背後に控えさせて、その前に立つ頭から外套をかぶった魔女【破戒】の竜性を持つ【ウパラ】が【ワシュキ】の目前で跪いて言った。


「まあ……、あらかじめ決めた律にすべからく従うわけもなし……。ワシュキ様――。次なる一手をまた考えましょう――」


 ――なにせ彼女ら天魔族は我らを……、【幻竜八姫将】を正しく認識してはおらぬ様子ですし。


 そして――、宿命の戦いはその片鱗を見せ始める。


 ――【征天】は天魔族殺害、すなわち神殺しを司り――

 ――【征人】は人類鏖殺、すなわち人殺しを司り――

 ――【呪毒】は侵食する死、毒殺や病死を司り――

 ――【凍餒】は喪失する死、凍死や飢餓死を司り――

 ――【暴炎】は争いによる死、戦死や謀殺を司り――

 ――【破戒】は秩序の崩壊、文明の滅亡を司り――

 ――【生誕】は誕生することで生命すべてに与えられる死、あらゆる生命に平等な死滅を司り――

 ――【極天】はそれらすべてを内包する竜王種の根源を司る――。

 ——彼女らは“滅びに名を与える者”。それが【幻竜八姫将げんりゅうはちきしょう】――。


 それは――、天魔族のその宿敵である【幻魔竜王】の生命核の欠片を魂に据えて、変異型幻魔竜王【母竜】に生み出された存在である。


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