無断転生と神の管理官
「貴方には勇者となって魔王を討伐し、世界を救って頂きたいのです!」
中世ヨーロッパ風の城の玉座の前、目の前には僕の手を握る…ビビるくらいの美人。
「うむ。王国一丸となって其方に援助をしよう。魔王を討伐した暁には其方の望むもの全てを報酬にするつもりだ。。」
威厳ある渋い男の頭の上にちょこんと鎮座している、歴史の教科書で見たような冠。
「我ら魔王討伐隊として勇者様をお支えします」
「儂が鍛えたとっておきの武具じゃ、負けなど有り得んわ」
キザな優男、弓使い、ピンと尖った耳
気難しそうなおっさん、小太りで…少し酒臭い。
(これが異世界転生ってやつか…手柔らかいな…)
「僕なんかで良いなら、是非…」
草葉 真17歳、異世界デビューしました。
話は1時間ほど前に遡る。
学校で生徒会長をしていた僕は、普段から模範にかるものとして、真面目に真っ当に生きていた。(自分でこんなことを言うのも恥ずかしいが。)
趣味は読書で、クラスメイトには小説や伝記ばかり読んでいる頭の硬い人間だと思われていた。
そんな僕の隠れた秘密は、実はラノベや漫画に憧れがあり、こっそり読んでいると言うこと。
外のカバーだけ有名な小説にしておけば、学校で読んでも誰にもバレないものなのだ。
剣と魔法の世界や、発展した文明とスペースオペラ。
そんなフィクションが大好きだ。
自己紹介はこれくらいにして、今ここに居る理由の話に戻ろう。
夕暮れ時の帰り道、いつものように歩きながら本を読んでいたらトラックに撥ねられた。
正確には轢かれそうな子猫を庇おうとしたら歩き読みしていたせいで足元の足に躓いて転んですり潰された。
ああ圧死だと逆に痛みとか感じないんだなって思いました。
朦朧とする意識の中で引っ張られるような感覚と共に
「私の力と異世界の知識でなんとかしてよぉっ」
と言う情けない女性の声を聞いた後に意識を失った。
意識を失って少しした後、目を覚ましたのは城の地下の祭壇、魔法陣の上。
「異界の勇者様、我々の祈りに応えてくださったのですねっ!」って言われて広場に連れ出されて今に至る。
まぁ満更でも無い。ぶっちゃけ変わり映えしない日々が退屈だったし、身内と縁が切れててあんま執着がないので。
「召喚直後でお疲れでしょうから、部屋を用意してありますのでお休みくだされ」
この王様普段敬語使わないんだろうな ちょっとぎこちない。
「ありがとうございます。でも僕別に疲れていないので、とりあえず鍛錬でもしたいです」
「流石勇者様というべきか、でしたら兵士の修練場にご案内しましょう。リーヴェ、勇者様をお連れしなさい」
リーヴェさんはどうやらさっきのエルフさんらしい。僕が王様と話している間に王と王妃と近衛の兵士以外は玉座の間の外に出ていたので案内役として呼んでくれたらしい。
…
ところがリーヴェさんが中々やってこない。
「扉の前で待つよう命じたのだが…リーヴェ!」
と、その時。
「面倒くさい どいてくれ」
[迦具土神吐息]
男の声が響いた刹那―
玉座の間の大きな扉が吹き飛んだ
そのまま扉は空中で赫く燃え上がり灰となって消えてしまった。
「何者だ!」兵士が僕と王を庇うように前に出た。
「国王サマか 修繕費は後で払う。 それより、あんたが最後の転生者だな。すまん、ちょっと時間をくれないか?」
「撃てぇい!」
王の号令と共に近衛の兵か一斉に腰に下げていた短剣を抜き、迷いなく投げた。
どうやら魔法がかかった武器らしく、弾丸のように謎の男へと飛んでいって…
[北欧火山ノ手]
侵入者の腕が火山のように膨れ上がり、短剣を纏めて掴んでパンでも捏ねるように弄んで脇に投げ捨てた。
翠色の髪と、同じ色の瞳。何処か神々しいオーラを纏った、息を呑むような美貌の青年がそこにいた。
視線が合った。
僕は、ただ茫然と立ち尽くしていた。
我に帰った時、周りの景色は一変していた。
荘厳な城は消えて、リゾートホテルのような部屋の中に立っていた。 一つ違う点は、空の色が緑がかっていることだった。
「手荒な真似をした、申し訳ない。まぁその辺に座りなよ、とりあえず話を聞いてくれ」
いつのまにか青年の横に女神が立っていた。
いきなり女神って言われてもと思うだろうが、某国の自由の象徴の像のような服装の美女だったので女神としか言いようがなかった。
「結論からしゃべると、こいつがあんたをこの世界に呼びつけた駄目神。で、周囲の世界との契約違反でこいつが神の座を下ろされるからとりあえず問題解決するまでの代理としてきた。」
「俺の名前はステラ。ケイ=ステラだ。一応神の管理官をやってる。」
「んで、あんたに頼みがあって直に降臨した。」
「無断での転生を強制されたあんたを元の世界に返してやるから、この世界の危機を救うために2ヶ月で魔王のとこまで行こう」
「は…はぁ。」
僕こと草葉真、開いた口が塞がらないという言葉の意味を身をもって知りました。
そして何かとんでもないことが起こりそうな予感だけが僕の心を掴んでいました。
初投稿です
何卒宜しくお願いします
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