1話 さよなら私の日常
「あのさー、今日変な夢を見た気がするぅ」
少女は顎を目の前の机に乗せだらだらとした様子でそう呟き、同じ机に手を置く彼女に視線を合わせる。
「変な夢見ただけかい。って、そんなぐーたらしてたら、次の授業遅れるよ」
彼女はそう言うと教科書ノートを持って教室を出て行った。
少女はゆっくりと起き上がり、身体が重いように見える動作で立ち上がり腕を高く伸ばす。
高校1年の梅雨の昼前。珍しく晴れ晴れと陽が輝く日。
少女は寝惚けた眼を擦り、教科書を持って次の授業を受けに行った。
未だ輝く夕刻の陽。ただ1人帰路につく少女。桜舞い散る春が過ぎ、見慣れるようになった帰り道。
「……雲?」
遠く遠くから夕陽を隠すように暗雲が空を包み、少女はそれから連想される事象を想像し少し足早に道を歩く。
それから……sれから、少女が想像した通りに梅雨の雨が降り始めた。
一時的にシャッターの閉まった商店街の店の影に隠れ、事前に鞄の中に入れていた折り畳み傘を取り出す。
傘を開いた丁度その時、少女の耳に小さな小さな悲鳴が聞こえた……気がした。
「……」
耳を澄ましても、人気のない雨中の商店街には雨音しか聞こえない。気にせずとも良かった。しかし少女の心にそれが引っ掛かった。
少女は見渡す。商店街の通りには少女を残し誰もいない。
少女は傘を持ち雨が降る中を歩き、ただ導かれるように、ただ少女本人にも分からずに、商店街の裏路地に足を進めた。
できたばかりの水溜りを踏み締め、傘に弾かれる雨球に耳を傾けず……悲鳴の元に辿り着く。
雨が降り頻る中、その光景に口を開き、何も出なかった。絶句からか細く出る声は雨音に掻き消され、少女は目を疑った。
血を流し血を被り血が雨によって洗い流される彼女の姿。クラスメイトであり少女の友であった者の姿。
そして相対するように1人の男が手から電撃を無造作に垂れ流す異様な光景。
その2つ。それは少女の思考を止めるのには充分だった。
相対していた男が少女に気付く。増援だと勘繰った男は電撃を垂れ流す手を少女に向け、無造作な電撃が収束を始める。
少女は動けない。この光景を事実だと受け入れられない。
その時、男の背後から薄氷の刃が男の喉を貫き、そして倒れた。
男の背後には彼女がいた。男が少女に視線を逸らした瞬間に、不意を打っていた。
「……来て」
彼女が周囲を見回す。血と雨に濡れたその手で少女の手を取り、走る。なすがままに、ただ唖然とする少女は自ら考え思考することができず、彼女に従う他無かった。
(……何だろう、この感じ。前にも)
しかし少女の中で分かることがあった。たった1つ。それは、いつもの……いつものいつもの、、?日日常が終わりを告げたと言うことを。




